17日正午から18日目早朝


 17日目の田中信子事件の後、皆でお茶会をした。


 小田さんの話は、マシンガントークだった。



 相当我慢していたらしく、その事を含めて全部話したらスッキリした様だ。


 田中家は周り全部を馬鹿にしていたそうで、前の住んでいた場所でも近隣トラブルだったそうだ。



 小田さんがその事を何故知っているかと言うと、警察へ相談した結果判明したそうだ。


 何かあったらすぐに連絡を……と言われて『ナニガ?』と聞いたら




 前にいた場所の家に生ゴミを毎日投げ入れたとか……


 その理由は朝早く車のエンジンをかけることが気に食わなかったとか……もう意味がわからない……仕事で使う車でエンジンかけたら怒り出すって……


 だから警察は注意喚起したそうだ。


 その結果、それが周りにバレて賃貸だったために追い出されたそうだ。


 その流れ着いた先がここで、同じ事を繰り返しているっぽい。




 お茶会の間、ニュースで取り上げられている情報のことで大盛り上がりだったが、実質パパはSNSから投稿していただけだとわかり笑われていた。



「やっぱり、さいちゃんだったのね!声が入ってたから、あれ?って思ってたのよ!」


 そう小関のおばさんに言われると、関口家も同じ様に言って笑っていた。


 小関さんと小田さんと関口さんにお礼を言って、危険が来る前に解散した。


 丁度それが12:00で、一緒にご飯でもと誘ったのは母だったが、群れの移動が早まると困るから帰ると言う事になった。



 田中さんの事がなかったら、多分食べていたんじゃ無いかなぁと思う……



「ママ!皆いい人だね!わざわざ家の前まできてさ、でも田中さんの事小田さんに聞いてある意味よかったって思った……あのおかしい感じはウイルスかな?って思ったんだよね!」



 そういうとママは……


「ずっとそう思っていたから『無視しなさい』ってママは言ってたのよ!でも言ったらさいちゃん怖がると思ったから!パパが黙っておきなさいって!」



「そうなんだよ!まさか怒ってもドアを開けるとは思わなかったからね!パパは!」


 パパも相当ビックリした様だ。


 結局あの人の性格だとわかって安心した……


 しかし安心などするべきでは無かった。


 夕方16時前……正確な時間は不明だが14:30分くらいだろうか……突然の雷雨に遭う。



 天気予報でもそう言っていたので、降るかな?とは予想していたが、雨と同時に群れまで来た……


 どうやら音に敏感な群れは、激しい雨が打ちつける音に反応して歩いて来た様だ。




「パパ!!群れが来た!!すぐにSNSに注意報を出して!コレ!撮影した動画!!」



 私は叔父のデジタル一眼レフを使って撮影したものをパパに渡す。


 学校の体育祭で使うので、叔父から借りていたが結局返せなかった物だ。


 パパはすぐにSNSに報告すると、ニュース速報にパパの名前で動画が紹介される。



『緊急ニュースです!動画撮影者『さいちゃんパパ』さんからの投稿動画です。お近くの方はすぐに戸締りをして、身の安全を確保してください!繰り返します……』



 ニュース欄のメッセージでは『助かったありがとう』とか『ナイス!さいちゃん!』とか『流石さいちゃん!』とか『声出しよろしく!さいちゃん』とかダントツで私へのメッセージが多かった。



 雨足が激しくなり、群れの移動がおかしくなる……



 今まではまっすぐ『避難所跡地』へ向かっていたのだが、群れが滅茶苦茶にばらけている……私はそれを動画にとってはパパに渡す。


 しかしその動画にはママの声も入り、パパの声も入り、そして私に声も入った。



 その様を動画で見た人達は、『最高の家族だありがとう!』とか『無事でいて下さい!』とか『危険だったらすぐに逃げて下さい』とかのメッセージに変わっていた。



 そしてこの群れのバラけ具合で初めての被害が出た……マンションがまる一棟被害に遭い生存者がゼロだった。


 群れに襲われた理由は、落雷だ……



 近所の楠に落雷があり倒木。


 その木がなんと道を塞ぎマンションの入り口と接触したのだ。


 群れの進路の木が邪魔で進めず、群れはマンション入り口におしくらまんじゅうの状態になった……


 後続に押される形で最前列が自動ドアのガラスを割って中へ入ってしまった。



 群れは近くの階段を登り最上階へ、そして危険回避用に開けていた屋上ドアから屋上へ侵入……屋上鉄柵付近の避難梯子から最上階の住民宅ベランダへ転落……


 このマンションは全フロアが避難梯子をかけていた……そして間仕切りを全部外していた……万が一の場合、避難梯子を登って屋上へ逃げるためだった。


 横の間仕切りは逃げる際の邪魔になるので皆が協力しあった結果外された……しかしそれが完全に裏目に出た。


 1階ベランダには梯子がないので、感染者は入り口から入らない以上、屋上へはいけない状態だったのだ。


 しかし落雷で群れ方向が変わり、入り口のガラス製の自動ドアが圧力でまさか破れるとは誰も思っていなかった。



 群れが通る近くのマンションだったので、この時間は全員が息を殺して隠れていた。


 しかし最上階の人は安心しきっていた。


 上が屋上だからだ……まさか上から来るとは思っていないので、テレビを見たり、ゲームをしたり映画を見たりしていて、感染者がガラスの外にいるとは思っていなかった……


 上の階から順番に被害に遭って、逃げ場を完全に失った……



 それから群れは完全にばらけ周辺を徘徊する……群れの移動では今までに無い危険な状況の17日目になってしまった……


 ちなみにそれを知ったのは18日目だった。



 18日目、朝6時に目が覚めた私は、テレビをつけた。


 そこに映されていたのは、群れの移動が狂い周辺に溢れ出ている様だった。


 ドローンで撮影された動画だったが、毎日集まる場所である避難所跡地に来る時刻になっても、群れが一向に来ないので、周辺を上空から調べていたらそれを確認したそうだ。


 昨日は情報が錯綜し、あちこちで逸れた感染者が確認された。



 雷雨の日は感染者の移動が早まり危険だと報じられていた。


 私が憶測でパパに話していた事が、専門家たちの間で『このさいちゃんパパさんの動画に出てくる、さいちゃんたる人物の言い分は、大凡間違いない事だと思われます。音に敏感で雷雨の音に誘発された模様です。前を行く群の音が聞こえ難い為『ばらけ行動』になったと思われます。このばらけ行動は……ほにゃらら……』と言われていた。


 私がパパに使いやすい自分用語で言った事が、正式に使われ始めてしまった事が、恥ずかしくてたまらない早朝だった。


 自衛隊と制圧隊それに警察官が総出で対処にあたった結果、取り残された感染者を全て処置したと報道されて、周辺の安全は確保されたそうだ。


 『一度動きが止められた感染者』は再起動前にその場で集合焼却処理された。


 もはや感染源になるので移動もできないし、移動させる車両もない。


 放置しておけば、数時間後にはまた動き出す……


 やむない処置だと政府は言ったが、どの状況にも文句を言う人は現れる物で、隔離するべきだとか、スタンガンを使うべきだと言っていた。


 多分ニュースを見ていない人だろう……襲われ続けた結果スタンガンは効かないと証明されて、機動隊の装備品からは除外されたからだ。



 ちなみに拘束する為に大人3人で押さえ込んだら、その3人が2次感染した……


 一人隔離するための被害者は最低3人だ……


 テレビを両親と3人で見ていると………



『キキーーー!!バキバキ……ガチャン…………バキバキ……ドーーン』



 と凄い音がして家の玄関が破壊される……そこには一台の車が突っ込んできていて、家の玄関を破壊していた。



 よく見ると運転席には誰も乗っていない。


 それどころか壊れた玄関の先には、転がっている田中信子が居た……車を玄関にぶつける為に飛び降りた様だ……なんて事をしてくれたんだ!!



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