17日目


 連日ニュースで父の投稿する感染者の異常行動が取り上げられ、『皆で安全確保』をスローガンに一致団結し始めた矢先の事だった。


 17日目の昼前に家の前に何と田中さんが来た。



「馬鹿家族ども出て来なさいよ!!貴方達が貰ったあの食料は不公平よ!!私に分けなさいよ!!」



 初めは無視していたが、庭先の物を破壊し始めたので、それを見た小関さんがすっ飛んできた。



「何をしているの!?田中さん!!正気なの?今の話だけど一人、水一本にカンパン1袋、それに栄養価の高いチーズバーこれで一人前よ?それを3人分貰ったの!!意味わかる?3人だから3・人・分!!貴方は数の計算もできないの?」



「煩いわね!小関のクソババア!アンタに話してるんじゃ無いわよ!!黙ってなさいよ!」



「黙りません!!だって、貴女が間違っているんでしょう?自分が食べたいだけじゃない!食べ物が欲しいなら、車で買いに行けばいいでしょう!隣街はまだ襲われてないし、店は幾らかやっているのよ?ネットの情報を見た?」



「そんなのは見たわよ!!馬鹿高い物なんか買ってられないわ!!それに移動中にウイルスにかかったらどうするのよ!責任取れんのアンタ?」



「だから!お店で何かを買う買わないは、貴女の問題でしょう?ウイルスの事を言うなら今もそうよ!だからマスクしているんでしょう?それになんで私が責任を取るのよ?貴女が間違っているの!仮に石川さん達から食べ物が貰えたとして、その後はどうするのよ?また来るの?」



「だから!アンタには関係ないでしょう?なんでしゃしゃり出てくんのよ?黙って家に帰りなさいよ!!」



 私は自分勝手な田中さんに嫌気がさして、取っておいた支給品の水とカンパンを手に扉を開ける。



「さいちゃん!何をしているんだ!?」


「さいちゃん!だめよ!放っておきなさい!!」



 ママとパパは慌ててマスクを取って私につける。



「ほら!コレが欲しいんでしょう!とっとと持って消えてよ!!」



 そう言って、田中さんに投げつける。



「ちょっと!危ないじゃない!何投げてんのよ!!」



「だったらコレは何よ!?なんでうちの物壊してんだよ!!アンタの物じゃないだろう!!弁償しろよ!同じ物今すぐ買ってこいよ!!どうなんだよ!ああ!?」



 怒りに身を任せて、若干切れてしまう……しかし田中さんは意味わからない言葉で返す。



「アンタ達が貰ったのは3人分でしょう!!だったら全部渡しなさいよ!」



 意味が全くわからない……何故全部を渡す事になるのか、何をどうしても全く意味が分からない……



 すると小関さんだけじゃなく、周りの家からも奥様方が飛んでくる。



「ちょっと!何やってんのよ!!アンタずっと見てたわよ!あーーもう!こんな壊して!!信じられない!それは、さいちゃんの家の物でしょう?」



 小田さんの奥さんが呆れて言う……


 そして後から来た関口夫妻も加勢してくれる。



「おい!!田中さん何をしてるんだ?昨日の夜だけでもおかしいってのに……本当に頭でも狂ったのか?昨日は火炎瓶なんか投げるわ!何考えてんだアンタは!石川さん達に出て行けって言うんじゃなくて、今すぐアンタが出てってくれよ!!危なくておちおち寝てられないんだよ!!意味わかってんのか?ってか、それ返せ!」



 そう言って旦那さんは、私が投げつけた支給品を田中さんからむしり取る。



「さいちゃん!だめだよ!怒っても渡したら!!コレは康二くんの人柄がつないでくれた、大切な支給品で大切な心が籠った物なんだから、食べないならせめて消費期限の持つ間は康二くんにお供えしないと!!怒っても、こんな人に絶対渡したらダメだって!!」



 関口さんのご主人に怒られて、少し嬉しくなった。


 彼は康二おじさんの事を考えてくれている様だったからだ。



 その言葉を聞いた田中さんは、また変な事を言う。



「何を言ってるのよ!!補給物資はこの地区に配ったのよ?だから誰が貰ってもいいのよ!!だから多く貰ってんだから渡せって言うのは当然じゃない!」



「何言ってんだ?田中さん?アンタ……本当に頭平気か?補給物資を配った事は配ったさ……でも一人の分は決まってるんだぞ?」



 関口さんのご主人は小関さんの奥さんと同じ説明をする……



「正臣さん!実はさっき私も同じこと言ったのよ!でも理解しないのよ!!この人……どうしちゃったの?全く」



 私はウイルスのせい?と思いつつ、それを言うと皆が怯えると思い言葉を飲み込む……しかし次の瞬間信じられない事を言う。



「はぁ?そんなこと言われなくても知ってるわよ!いい!よく聞きなさいよ!!言いたくなかったんだけど……この家は食べ物を沢山持っているのよ!それもすっごく沢山!知ってるのよ?前に夜慌てて買い出しに行ったじゃない!車で!!だから既に食べ物があるんだから、少しはこっちに寄越せって言ってんの!!」



 全員が唖然とする……全員がこうなる前に備蓄の買い溜めに走った。



 小関さんも小田さんも関口夫妻も、叔父の店に銃の買い足しと弾の補充にさえ来たのだ。



 その時、車いっぱいの食料品やら何やらを買っていた。


 そしてこう話した。



「何があってもいい様に、3ヶ月は最低暮せる分が必要だって康二さんが言ってたんだ!だから安い今のうちに買い溜めをね!インスタント麺ならば消費期限が多少過ぎても平気なんだってさ、他の物と違ってすぐに腐らないし、砕けば転用ができるってね!!まぁ死ぬよりはマシって事らしいんだけどね!」


 と言ったのは小田さん夫妻だった。


 旦那さんはかわいそうだが、ラボ事件の日に帰宅途中に巻き込まれて亡くなった。



 その小田さんの奥さんが……



「貴女!!本当に勝手ね?買い出しに行ったのはこの人たちの自由よ?私だって買い出しに行って沢山買ってあるわ!貴女くらいよ?そんな事してるの!ご当地ギフトだかなんだか知らないけど、散々言ってたわよね?食べ物だったら家に沢山あるって?私達に貧乏人って言ってたじゃない!私の主人に言ったこと覚えてるかしら?」



「はぁ?あの時とは状況が違うでしょう!!」



「でも田中さん貴女言ったわよね?私の主人が沢山買い出しして帰って来たら、『貧乏人らしくインスタント麺なんか沢山買い込んでますね!!』って。それにこうも言ったわよ?支給品なんか食べる人に気がしれない!って!!さいちゃんが持っているそれは何かしら?『支給品』じゃないの?」



 小田さん家族は、どうやら前から田中家と喧嘩をしていたのかもしれない。


 と思っていたら小田さんの堪忍袋の尾が切れた様だ……


 ご近所付き合いもあって、今まで我慢して来たのだろう



「いつもウチの人を馬鹿にして!!安月給だ!食費が無いだ!車がオンボロだとか!!何よ今はゆすりたかりの真似してんのはアンタじゃない!食い物?自分で買って来なさいよ!さっきから聞いてたんだからね!アンタが買い損ねたことを何故周りが面倒見るのよ!何時も周りの家を馬鹿にして全て知ってるのよ?貴女の行きつけの珈琲店は私の妹の店よ!!全部聞かせてもらったわよ!貴女がお気に入りの少年からね!!」


 ここの住民全ての悪口をかなり言っていた様で、それを小田さんにバラされて皆が呆れ果てる……


 私は彼女を放置して、皆を家に招く事にした。



「皆さん!田中さんが言っていた、プランターで育ててるハーブのお茶入れますから……中に入ってください!好きなだけご馳走しますから……外は『田中さんが言った様にウイルスで危険』なので!!あ!うちに文句を言っていた田中さんは、どうぞお引き取りを!小田さんの話では、私たちが何も渡さなくても平気そうですからね?」



 小田さんの語った言葉の最後には必ず『貧乏人から何かをもらうとか有り得ないわ!』だった……当然ウチはその貧乏人候補だったそうだ。



登場人物


主人公 石川 彩姫


石川 武(彩姫の父)

石川 ゆかり(彩姫の母親)


小関 和子(自治会 班長)


小田 京子


関口 良子(妻)

関口 正臣(夫)

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