16日目



 昨日の15日目は久々にご近所の人とお話ができた。


 お茶を飲んで少し話しただけなのだが気分は良い。



 しかし田中さんの家とは険悪さが一段と増した。


 以前は気が付かなかったが、彼女はおかしい所があるのだろう……家のゴミを私達の家の敷地近くに持ってきて捨てていた。


 自分の家の目の前に、ごみ収集の置き場があるのに……。



 もし匂いが気になると言うなら、側に置かれるウチの事も考えて欲しい。



 しかし考え方が危険と結論が出たのは、その日の夕方だった。


 いつもの様に感染者2人が来て田中家の前で怪しい動きをする。



 私は隣のおばさんがどんなに嫌味な人でも、感染者に襲われていたら助けたいと思って、サプレッサーを付けた銃を構えながら何事もなく時間が過ぎるのを祈っていた。


 動きも変わらず時間が経ち、お茶を飲もうと目を離した瞬間だった……



 『ジリリリン!ジリリリン!……………』



 しかし突然家の外に響き渡る音……


 何かと思い銃のスコープで見ると、キッチンタイマーを投げた様だ。


 ご丁寧に時間をセットしてから、ウチの方向に向けてだ。



「あのクソババァ!!人の命なんだと思ってるんだよ……危険とか考えないの?」



 私はそのタイマーを撃ち抜こうと考えたが、銃声が尚更感染者を呼ぶ事をニュースでやっていたし、破壊した事で撃った方向を認識した場合、アイツらが家にまで来てしまう……だから仕方なくやめる事にした。



 しかし突然鳴り響いた音の確認の為に、父と母が屋根裏に来た。


 私は状況を説明するが、それを見た両親は……『なんて人なの!?こんな事して!!普通じゃないわ!!』『そうだな!かなりイカれている様だ……』と口々にそう言った。


 私は望遠鏡で窓辺を確認すると、こっちを見ている田中さんが居た。



 音につられる様に田中家の前に居た感染者が音の元に来て、キッチンタイマーに噛み付く。



 運良くストップを押したのか、それとも壊れたのかはわからないが音が止んで周りには静寂が戻る。



 しかし次の瞬間また同じことをして来た。


 彼女は2個目のキッチンタイマーを投げたのだ。



 家の前に感染者がいないのに投げてきたので、悪意を持った確信犯だと分かった。


 しかし当然問題が起きる。



 音に敏感な感染者が、周りの家からから集まってきたのだ。



 音の鳴る場所に向けて歩く感染者達……当然その中には叔父さんとまどかさんも居た。



 周囲から集まって群れた感染者だが、私達にはどうする事もできない。


 危険なので隙を突いて車で逃げるか、それとも息を潜めてやり過ごすかと両親と話しつつ考えていると……



 ガシャァァンと音がなると、その周辺にメラメラと火が上がる。



 田中さんは、可燃性の何かの燃えやすい液体を詰めたであろう瓶に、布を巻きつけたか詰めたかして火をつけて投げてきた。



 どうやらお手製の火炎瓶だ………



 可燃性の何かが、割れた拍子に感染者にかかり引火する。



「ざまぁみろ!隣の家ごと燃えちまえ!」



 田中さんは窓からそう叫んだ……何故そうしたのかは私には分からないし、分かりたくもない。


 セリフからして理解も出来ない……余程頭がおかしくなったのだろう……



 しかし今の状況を見たら、私だったら絶対に叫ばない……


 何故ならば声に反応して、あの群れを呼んでしまうからだ。



「さいちゃんウチは燃えない外壁を選んだから、あれくらいの火では引火しないから大丈夫だよ!」



 パパは呆れた顔でそう言う。



「それにしても、お隣さんがこんな危険人物だったなんて……ママはなんか嫌だわ!」


「私もそう思うよ!ママ?」



 そう話している間にも、火だるまになった感染者は大声の元である、田中さんの家に向かって行く。



 可燃性の液体は量が少ないのでさほど燃えず、感染者は酷いやけどの状態にはなったが、灰になることなど無かった。



 周辺の御近所さんも、この田中さんの危険行為を見てすぐに電話をくれた様だが、全て留守電吹き込みになってしまった。


 呼び出し音が鳴るため返事の電話を父は躊躇ったが、念の為にかけて小声ではなしていた。



 ちなみに父は、夜に田中家から電話が来た時のことを考えて、電話は消音モードにして留守録を基本設定にしていた。



 私達は交代で寝て『田中さんがこれ以上変なこと』をしない様に見張る事にした。


 最終的にかなり危険行為に及んだら、パパが責任を持って射殺すると言っていた。



 今の彼女なら多分、その前に自滅しそうな予感がする。



 ちなみの感染者は燃えた体で向かったため、田中家の外壁を少し焦がした……



 15日目の危険な夜が終わって、16日目を迎えた朝になったらご近所からすぐに何件も電話が来た。


 昨日の一部始終を確認していた、小関さん宅が田中さんの暴挙の動画を撮影していた。



 街灯が設置されていたので、一部始終が映されていた。


 小関さんは皆の家に昨晩あったことを説明した上で、その動画を配布して近隣住民に十分注意する様に連絡してきた。



 ちなみに全て、電話とネットでやったので外には誰も一歩も出ていない。



 小関さんはどんな人かと言うと自治会の班長さんだ……しかし、この事が裏目に出る。



 近所に居た人達がほぼ全員警察に相談と連絡、そして動画を提出した。


 朝早かった為か電話が混む前だったのかわからないが、電話は通じた様で警察本庁は近隣トラブルの危険行為の症例として、テレビ局に連絡。


 そして注意喚起を依頼した。



 テレビ局は、この情報を朝からニュースで公開し動画も流した。


 ちなみにニュースでの説明はこうだ……


『この様な危険行為には充分注意して下さい。ストレスにより突然危険行為に及ぶ隣人が出る事が報告されています。その場合は電話にてお近くの警察に連絡するか、ひとまず身を守ってください。相手がエスカレートした場合、警察は正当防衛も視野に入れて、相談にのり、対処法を指示するとの事です。お近くの避難所に向かわれる手段も御座います。その際は感染者にはくれぐれも気をつけてください」


 と言ったせいで、田中さんは更に怒りエスカレートした。


 16日の夕方、田中さん宅は更に危険行為に及んだ。


 様々な音が鳴るものを、ウチに向けて投げて来ていた。



 群れが来る前の行為でかなり焦ったが、投げる所を感染者に見られて家の周りを感染者が回り続ける事になった。


 そのお陰もあり、私達はなんとか無事16日目の夜を過ごせた。


 夜は寝るに寝られないので、万が一の状態を考えて家族会議になった。


 和解する事が一番良かったが、そもそも私達は何もしていない。


 それに彼女の考え方は常軌を逸しているので何を言うか分からないし、条件を飲んでも迷惑行為を止める約束を守るかも今の状態を見ると怪しい……と私は言った。


 それは父も母も賛成してくれた。


 なのでコレが続くようなら、一時的でも避難場所へ向かおうと言う事になった……勿論だが車でだ。


 そう言ったのは母で、その意見が採用となった。


 用意だけしておけば万が一の時はすぐ出られるし、行かない場合それはそれで良い。


 向こうは銃も豊富だし、守ってくれる人がいる。


 それに制圧隊の人も多い……私は夜だったが、車に乗せる物の準備を開始した。


 父も母も田中さんのせいで寝られないので、私と荷物の確認をし始めた。



 しかし、買い置きの保存食はとても車には乗らないし、置いておけばあの田中さんが何をするか分からない。


 窓を破って侵入さえする可能性が、今の彼女だったらある。



 なので地下室にしまって施錠する事にした。



 家を建てる時に、叔父のアイデアで地下室を作った。


 ガンショップの地下シェルターと同じだが、大きさがかなり広い。



 叔父のミリタリー好きの仲間の人が、工事の業者に混じって格安でやってくれた。


 ちなみのうちを建ててくれた建築士も、叔父の知り合いだ。



 母は『シェルターは要らない』と言ったが、地下室は欲しかった様で倉庫として使いたかった様だ。



 なので叔父は父と結託して、地下室と偽って地下シェルターを作った。



 扱いはパニックルームの様な物だ。


 入室番号は私の誕生日とママの西暦での生年月日の連番だ。


 パパらしい……



 その地下シェルターに今回買った食料の全てを詰め込んだ。


 田中さんが暴挙に出た時の万が一に備えてだ。


 プランターは屋根裏に置き、置ききれないハーブ類だけベランダに置いた。



 しかし私達は彼女の危険性について甘く見ていた。


 危険な人は見かけによらぬもの……そしてよからぬ事を企む事が多い。



 彼女のキッチンタイマーや火炎瓶で、私達は気がつくべきだった……こうして16日が終わり、問題の17日が始まった。

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