15日目


 11日目に、近所の田中さんからクレームが来た。


 私は怒ってその対応に当たったが、彼女は自分に起きている恐怖に対しての行き場の無い憤りを私たち家族に向けた。


 その結果自分の叫び声で、その感染者を引きつけた。


 死んではないが、17日目に突入した今でも未だに謝罪もない。



 12日目から、私たち家族は『土弄り』を頻繁にした。


 やることがない上、食料の自給自足も真面目に考えなければならない。


 そう考えた結果の土弄りだ。



 13日目も土弄りから始まったが、すぐに颯眞と歌波から電話が来た。


 政府の援助で電話の使用料金は撤廃された。


 その他ライフラインに関わることも、使用料金は全額免除だ。


 安全の維持と国民の現状報告が必要な事が主な理由だ。


 各施設は帰れない人が、頑張って運営しているらしい。



 各電話会社の社長は政府にクレームを言ったが、払えないものはどうしようも無い。


 お金がないのでは無い、コンビニも銀行もやっていない。


 それにそもそも外になんか出られない。



 この状況でお金を稼ごうと考える会社も意味がわからない。


 そもそも運営会社はこの状況で、銀行が窓口開けてやっていると思ったのだろうか?通勤もできないのに!


 そもそも引き落としだから使用料金引き落としすれば良い……解約してやるから!担当は家まで来い!




 そんな話を3人でした。


 ちなみに魔石電話は複数の人間で通話が可能だ。



 14日目は、孤立無援状態だった4都市が完全に崩壊した。


 そうなるのは目に見えていたが、誰もそれを言えない状態だった。



 市長は既に亡くなっていたので、他の人が電話でテレビ応答した。



 電話口の人は、中山寺都市の現状は無秩序状態にあり、もう手がつけられないと言っていた。



 感染者を排除するべく立ち上がった人と、刺激をするなと言う人の争いが絶えない上、感染者を交えて周囲は敵しかいないと言う。



 立ち上がった人の多くは、その身の犠牲を覚悟に応戦したそうだ。



 そしてそれに対する周りのクレームメッセージは凄かった。


 何故止めなかった!と言う主張と、それを傍観したのか?と言う主張、そしてそれらの後追い確認はしているのか?と言う意味不明なことまで多く言われた。


 外に出られないのに後追い確認なんかできるはずがない上に、全員が同じ場所にいるはずもない。


 出た時の感染リスクは、テレビを見ている側と雲泥の差だ。



 そもそも電話対応しているのは、一般職員だ……その人に対しての責任追求が間違っている。


 一般職員になにも決定権など無いのだから。



 一番酷かったのは、正義感から命がけで皆に為に電話していたことを、報道局や周りは気にかけなかったことだ。



 報道局は情報優先の為に周囲の安全をはじめに聞いただけで、情報を絞り出しては『何故そんなことを?』と言うばかりだ。


 彼の得た経験やこれからすべきことなど然程気にかけていなかった。



 街にもう安全な場所などないのだと、本人が言っているにも関わらずだ。


 そして電話の最中に対応者は死んだ………感染者に襲われて……



 彼は最後に『皆が思っている以上に危険な状況にある。理屈じゃ無い……死が現実に迫っていて、誰にも止められないし、逃げ場なんかない!!いずれわかる日が来る。これを見て文句を言っている奴はそれまで精々文句を言っていろ!これを見ている中山寺都市の市民は情報なんかやる必要はない!!命がけで安全を保てと連絡をしに来た人間を馬鹿にした報いだ!』と、ニュースを見て文句を言っていた人に最後のメッセージを伝えた。


 彼は携帯画面でこの番組を見て、連絡出来そうな場所を探して『同じ様にならない様に、少しでも他の都市の皆が生き残る方法を……』と連絡してくれていたが、最終的には自分勝手なリスナーとニュースキャスターに嫌気がさした。


 結果的にかなり連絡が途絶えがちだった、4都市との連絡はその日を境に完全に途絶えた。


 そして壊滅までの情報は、個々が出す個人宛の細々した物以外は得られなかった。


 各都市の住民は『そのニュース』を見ていたのか、それともその前に亡くなったのか……はたまた生きているのか……誰もわからない。



 15日目は、9時ごろ家の外に装甲車とトラックそしてタンクローリーが走っていた。


 よく見ると軍の関係者で、消毒剤を撒きながらだ。



 それが効くかどうかなどは、私たちには分からない……


 しかし危険を顧みず、群れが通る国道を使って家の周辺に物資を届けに来てくれた。



 自衛隊は何故か、私たちの家の前で物資の配給を始める……



 隣の田中さんがいち早く受け取りに行き、人より多くもらおうとして自衛隊と言い合いになっていた。


 本当に身勝手な人だ。



 私たちも受け取りに行くと、彼女は私たちの家を見て『野菜を育ててるなら一鉢譲りなさいよ!』と言ってきた。


 謝らない上に自分勝手だったので、パパもママも家のドアに鍵をかけて防犯も繋いでから、彼女を無視して支援物資を受け取りに行った。



 物資は3人家族分なので多かった為、田中さんはまたもや文句を言ってきた。


 しかし、それを見ていた周りの家が流石に黙っていられなくなった様で、『いい加減にしなさい』と言ってくれた。



 その台詞もあり、父と母はまどかさんと叔父さんの事を周囲の家に謝った。


 しかし周りの家にも似た様なことがあり、誰かしらが感染者が来ていたので『気にするな』と言ってくれた。



 しかし此処でも田中さんが、叔父さんの名前を出して文句を言ってくる……


 すると自衛隊の隊員が『これ以上康二さんの悪口を言うなら、援助物資は返していただく!』と言い始めた。



 そのセリフには皆がすごく驚いた……援助をする側が、人を選んだのだから当然だろう。



 よく顔を見ると、自衛隊ではなく制圧隊の人達だった。


 田中さんは文句を制圧隊に言って噛みついたが、彼等は彼女が思っていた自衛隊ではない。



「自分達は大恩ある康二さんの家族のために優先的に此処へ志願して来ました。貴女の為ではないんですよ!そもそも此処の配給はまだ決まってませんでした!ですが、康二さんに武器を優先的に配給して貰ってましたからね!『我々』は!!……だから制圧隊としては此処を優先するべきと思ったんです」



「だからって!!ゾンビになった人の家族を優遇するには間違っているでしょう!菌でいつゾンビになるか分からないじゃない!皆さんそうでしょう?そう思いますよねぇ?私達が受け取るべき食料でしょう?」



「菌であれば今さっき消毒しましたが?それに!他の人に援助を優先するかどうかは、『貴女では無く』こっちの裁量ですから!文句があるならどうぞ聞きますよ?でも文句ひとつで一袋は返して頂きます!これから先の!!この地区以外の他の方に!!貴女の分の配給が回せますから!」



 その人の説明で明らかになったのは、この地区の支援物資の予定など全く立ってなかったが、『自分たちが運んで行く』と言ってくれた様だ。



 昨日のテレビを見て、『自分たちはお世話になった人やその家族に何もしていない』と反省したそうだ。


 私たちも同じテレビを見ていたので、あの状況に居た堪れなくなったと言うと、またもや田中さんが口を挟んだ。



 その内容で、クレームを入れていた一人が田中さんだとわかる事を言い始めた。


 それ以降周囲の人は、白い目で彼女を見る様になった。



 ビックリした事に、今此処に居る皆が同じ番組を見ていて、クレームを入れたのが田中さんと言う状況に皆が呆れ果てた。



 しかし自衛隊の人には、ある意味危険が迫っている。


 私はこの数日間の纏めた情報を話して、すぐに戻る様に伝える。



 家の近くに群れが来ても、歩いてきた元が『何処からか』は、わからないのだ。



 国道を歩いて行って、凄惨な現場へ行った事までしかわからない。



 何故なら情報は、パパのSNSから繋がっていたので、そこから前は途切れ途切れしかわからないのだ。


 時間を見ると10:00だったので余裕はあるが、この先配給を配れば帰りに万が一もあり得る。



 もし群れがいつもの時間より早く移動したならば、それだけ危険が増すのだ。



 すると彼等は、安全確保と情報提供に感謝をして、名乗ってから敬礼をした。


 目の前の二人の名前は卜部 勝也(康二叔父さんの後輩)と戸高 尚哉(康二叔父さんの先輩)だった。



 陸上自衛隊に入ったのは、後輩の勝也さんが先で、先輩の尚哉さんが後だと言う。


 高校の後輩は卒業後すぐに自衛隊へ、先輩は大学卒業後大学院まで行ったが自衛隊へ行ったそうだ。


 なので若干不思議な関係になっている。



 配給を無事終えて自衛隊が帰ると、田中さんはまた叔父さんとまどかさんの文句を言いつつ帰って行った。


 しかし皆はそれを無視して私の両親と井戸端会議をする……私は折角なので両親に言って家に招いた。



 招いた理由は最近発育の良い異世界ハーブを私が育てているので、皆でお茶にしたかったのだ……久々に家族以外との触れ合いができる貴重で僅かな時間だ。



「さいちゃん!ご馳走ね!久々よ?こんないいお茶飲むの。」



 そんな言葉をもらいつつ私は、折角なのでハーブの株分けをして皆に配る。



「この種類は異世界産で、すぐに伸びて増えるので家で使ってください!十分部屋で育ちますから!パスタやスープにも良いですよ!」



「ありがとう!さいちゃん!辛いだろうけど頑張るのよ!何かあったら電話しなさい?ご近所なんだから!!でも外にでちゃダメよ?危ないから!」



「康二くんに似て本当に良い子ね!でも……家族はお気の毒ね。でも負けちゃダメよ?私たちは田中さんの言ったことなんか気にしてないから!田中さんが何か言ってたら言ってね!貴女の味方をするわ!」



「そうよ?言いなさい?さいちゃん。あなたの叔父さんのおかげでこうして『援助物資』が貰えたのよ!自慢して胸を張るの!良いわね?」



 近所のおばさん3人とそんな風な話をして、危険が来る前の12時にはお開きにする。


 そんなことがあった15日目………





自衛隊員(地区別・制圧隊・特殊任務4課)


卜部 勝也(康二叔父さんの後輩)

戸高 尚哉(康二叔父さんの先輩)


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