11日目
9日目の夜まどかさんが感染者に変異……
前日のまどかさん訪問は誰かに見られて、10日目に苦情の電話を受ける事になった。
昼間の電話には母が出たときに、誰かわからないが凄い剣幕で怒鳴ってすぐに電話を切っていたと言ったが、すぐにまた電話が来た。
今度は父が出て、謝罪をしていた……これもまた誰かわからないと言う。
そしてまた間髪入れずに電話が来たので、私は天井裏の望遠鏡を使い周辺を調べた結果、近所の窓辺に人影を発見した。
電話をしてくる以上遠くの人間ではないと思ったのだ……
その人を観察していたら電話を切ると、またすぐに電話をしていた……そして直後に電話の呼び鈴が鳴る……
電話の主は、同じ人物だった。
「お父さん!お母さん!!なんで!?二人は電話の主が同じ人だって実はわかってるよね?ご近所の田中さんじゃん!!」
私は興奮するとパパとママの呼び方が、『お父さん、お母さん』に変わる癖があった……だから何だと言われるだろうが……怒っていると言いたいのだ。
「仕方ないだろう……まどかさんの『ドア叩き』は僕達にはどうする事もできない。外に出たら感染するし、そもそも他の感染者に見つかって、雪崩れ込んでくる恐れもある。そもそも、まどかさんと叔父さんを眠らせてあげる方法がわからないんだ!さっき警察に電話をしたが、既に回線がパンク状態だ!だから今は謝る以外ないんだよ」
私は家族がこんな状況になった事に納得がいかないのに、文句を言ってくる近隣住民にも納得がいかなかった。
しかし父の言い分も当然で、その近隣住民の叔母さんの行動も理解できない訳ではない。
しかし連続で電話をする事もないだろうし、父と母に怒りを向けるのも違う気がする……電話するなら警察かラボ関係者もしくは国にすればいい……対策をお願いしますと!!
ウイルスの事など私達にはわからない上、感染者の行動も私達のせいでは無いのだから。
電話の主の近隣住民の田中さんは満足したのか、父と母のその平謝りで電話をかけて来なくなった。
それからは家族で日中は少しだが土いじりをした……これからの事を考えると、今からでもやらなければならない。
夕方に私はニュース番組をつけて見ると、まどかさんの行動に関する件と、同じ事が起きていることを見つける。
「パパ!ママ!!まどかさんと同じことをしている感染者が多数いるって………生前の記憶?強い思い?……反復行動……?なのよそれ!!」
私がそう言った瞬間……
『リリリリリン………リリリリリン………』
また電話のベルが響く……昼間に歌波と電話で話をしたので、その続きかと思い電話へ向かおうとする。
私は昼間あった田中さんの電話のことを忘れていたので、受話器を取ろうとする。
しかし何故かすぐにパパが出ていた。
「申し訳ありません……いや……僕達にも理由がわからなくって……出て行けとはあまりじゃないですか?……お気持ちは………あ!!」
電話の主のは例の田中さんだった。
どうやらまた電話をかけてきた様だ。
近隣住民の嫌がらせには、余りにもしつこくてイライラする。
するとまた……『リリリリリン………リリリリリン………』
今や感染者が外を歩く状況下で、特別急ぐ要件でもないのに何度も電話を連続で鳴らすなど『私達の元に感染者を呼んでいる事になる……』と思わないのだろうか?
私がそのことを言うと、ママもパパも『ハッ!』とする。
今までは加害者の気分だったのだろう……
だが私達は加害者でもない……寧ろウイルスによる被害者なのだ。
「申し訳ありません。しかしこの家を出ていく事はできません。今ニュース番組の特集でやっていますよ?感染者の行動原理を……見てみたら……」
父は流石に反論をし始めた……いい加減頭に来たのだろう。
私は頭に来て電話を父から取り、反論するために望遠鏡のある通風窓付きの屋根裏に走って向かう。
「あなたが誰かなんてもうわかってますよ!!良いですか?私達は家族を失ったんです!!それなのにこんな電話をかけてきて!!酷いじゃないですか!!田中さん!!今そっちを望遠鏡で見ながら言ってますよ!!」
そう言った私の目に映ったのは、田中さんよりも先に家の前に居た一人の男だった。
男は田中家の電灯と街灯の光を受けて誰かがすぐに判別した。
新聞配達員だった……彼は生前の記憶そのままに夕刊を配るまえに立ち寄りに来たのだろう。
偶然私はそれを見た……
配達員は、ポストに手を突っ込み奇妙な動きを繰り返す。
田中さんはこの配達員を気に入っていて、この時間になると毎日外で待ち構え、夕方の会話をするのが日課だったのは近隣住民は誰でも知っている。
それを彼女自身が通りかかる住民の皆に……『ご飯をちゃんと食べているか気になっちゃって!毎日こうしてコンビニ弁当を買って渡しているのよ!実は苦学生なんだって!!』と……言っていたからだ。
そして今度は、宅急便会社の格好をした青年が、どっかで拾ったゴミを手に持ち田中家の呼び鈴を押してはドアを叩いていた。
彼女がよく山地直送の品を自慢していたが、その絡みの配達員だろう……
彼が亡くなる直前の日に田中家に行ったのだろうか……
余りにも奇妙な動きをしていたので、私の言葉がそれを見て止まる……
しかし田中さんは、かなり私の言葉に憤慨したのか……
「うちに来る化け物は、あんたの家の前でドアを叩く奴のせいでしょう!!いい加減辞めさせなさいよ!昨日に引き続きまた来たのよ!うちが迷惑被るのよ!!」
と言う……話のニュアンスでは、どうやら昨日も来たのだろう……
しかし……まどかさんは『まだ来ていない』………
「うちにはまどかさんは今日……まだ来てません……あなたの家に来たのは貴女が親しくしていた『新聞配達員だった人』と『宅急便業者』ですよ………多分………」
私はそう言って望遠鏡を覗くと、彼女は窓からそれを見て尻餅をつき叫び声をあげる……
叫ぶ声が外まで聞こえたのだろうか……
外に居た『奇妙な動きをする二人』が止まり、声の方に向く……
その男は何か奇声をあげている……耳を澄ますと電話越しに『ギィエェェイ……ゴガ……ギギ……ギィィアアアアア!!』と意味不明に叫んでいる。
まどかさんの様に叩くだけでなく、来てからずっと奇声をあげていたのだ……私は怒っていて気が付かなかった。
しかし今日彼等は、近隣の田中さんの姿を窓辺に発見した……
彼女はカーテンを閉めると電話越しに『嘘よ!嘘よ!!何で今日もうちに来るのよ!!配達する家なんか他にもあるじゃない!!』と言っている。
どうやら既に彼女はそれを知っていた様だ。
それなのに全ての元凶を『まどかさんと叔父さん』に擦り付け様としていたのだろう。
絶叫しつつ感染者は家の周りをぐるぐると回る。
「やめて!家の周りを回らないで!!さっさと骸に帰りなさいよ!早く消えて!化け物達め!」
電話口からそう声が聞こえて、電話が切れた……彼女には天罰が降りたのだろう。
感染者は朝が来るまで家の周りを回ることのなる……そしてそれは毎日同じ時間に起きるとは彼女は知る由もない。
しかし残念なことに玄関のドアを叩く音がする……まどかさんが今日も叔父さんを連れてウチに来たのだった……。
「パパ!ママ!」
「さいちゃん……今日もまどかさんと叔父さんが来た様だ……」
「あのねパパとママ……隣の家の田中さんは八つ当たりだったわ……新聞配達員と宅急便業者がくる理由を、まどかさんと叔父さんになすり付けるつもりだったの……今はその業者が家の周りを周回しているわ……」
二人は大慌てで屋根裏部屋に向かい通風窓からその様子を見る……
余り遠くない家だったので肉眼でもその様は確認できた……周囲には男二人が上を見上げて田中さんを探そうと走り回っていた。
そんな11日目だった。
登場人物
田中 信子(近所のクレーマー)
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