9日目


 昨晩、父と母と買い物に行ったあと、父と母はあの店を2回往復した。


 二度目は土に肥料、そしてカップ麺や水を更にを買い足していた……この際だと言うことで私用のお菓子も大量に買ってくれたようだ


 三度目は、何も持たずに青ざめて帰って来た。



「さいちゃん!すぐに二階の戸締りをして!!雨戸も確実に遮光カーテンも必ず閉めて!今すぐに全部よ!パパは車のガレージに施錠と何時でも逃げられる準備を!私は一階の雨戸と破壊対策を考えて、あ……あと遮光カーテンもしっかり閉めておくわ!」



「パパ!?ママ!?どうしたの?」



 私がそう聞くとパパとママは『早くしなさい!』と怒り始める。



 只事ではないと思い、すぐに二階に駆け上り雨戸を閉めて言われた通りの戸締りをする。



「パパ!ママ!終わったよ!」



 パパは肩で息をしながらも、万が一に時に備えて荷造りをしつつ口を開いた……『あの人の店から電話が来た……「店に来るな……奴等が来た!俺も噛まれたから仲間になっちまう!絶対何があっても来るな……家に帰って鍵をしろ!すぐに身を守れ!」と言って切れた……』と言う……



「え!?来たって……まさかバイター!?」



「そうだ!店主が二度目の買い物の時に僕らの万が一を考えて、電話番号を教えると言ってくれたんだ!今後の状況で万が一の場合、お互い状況確認をしようと言う話になってね。あの時に彼が気を利かせてそれを言ってくれて……電話番号を聞いてなかったら……パパもママも……死んでた……」



 私はテレビをつけニュースに回し、ボリュームを大きくする。


 すると父は私からリモコンを奪い、すぐに『消音』にしてから字幕ボタンを押す。



「アイツ達感染者は大きな音に反応すると店長が言ってた!テレビは絶対に音を消すんだ!!」



 父の話では、店長が逃がそうと匿った何処かの知らない叔母さんが、噛まれている人の様子を『見るなと言っているのに見て』悲鳴をあげてしまい、隠れていた場所がバレたらしい。


 その時に店長も噛まれたようで、逃げた先でパパ達の事を思い出して慌てて電話をしたが、店長は要件と噛まれた時の状況や経験した事を掻い摘んで父の為に言ったそのあと、追いかけて来たバイターに見つかったようだ。


 店長の断末魔が聞こえてから、電話の応対は無かったそうだ。



 どっかのおばさんの迷惑な好奇心など、ドブにでも捨てて欲しい。



 そう思いながらニュースを見ると、テレビの字幕には……



 緊急速報!緊急速報!以下の地区では新たに感染者が確認されました。


 お近くの方は避難所に行かれるか、ご自宅の戸締りと施錠をしっかりしてご自身の身をお守り下さい。



 『新設された各都市名の詳細情報』は当報道局のオフィシャルページよりご確認下さい。



 尚、東京の当社指定観測地点から見た方位となります。ご了承ください。対象地区は以下の通りです……


北:宇都宮・日光・新潟


西北:長野・金沢


西南:横浜・静岡


南:横須賀


東南:千葉・木更津


東:船橋・成田


北東:福島・仙台



 私は唖然とした……たった1日そこいらで東京だけでなく方々に散っていたのだ……



「なんで!?そんな……あんな遠方……移動をどうやって!?」



「近隣は国道だ!その他は電車だろう……そもそもアイツらは疲れない!あのSNS動画を見て、パパ達が話していた通りだったんだ!感染者は国道やらあらゆる場所を、丸一日中移動をし続けていたんだ!大きな音の方へ向けて!!」



「電車!?国道はまだしも……電車?でも被害の報告が無いじゃない!」



 パパは切り替わったニュースの画面を指さす……


 その部分には、フラついた男性や女性が何人も電車に乗る様が見えた。



「たぶんアレが感染元だ!自覚してても仕事をするために移動したんだ……そうじゃないと説明がつかない」



「あの新型にかかったのに……仕事?」



 すると『明日からの1ヶ月の間、蔓延防止の為に電車の運行を全て停止する事が、緊急閣議で決定』と画面上部に、緊急速報の字幕が流れる……



「嘘……もう遅いよ!!それにあんな状況なのに1ヶ月間?……中山寺の状況ニュースで散々流してたのに!今更電車止めたって!」




 報道各社が隠していた情報は、新型ウイルスには亜種があった事だ……


 報道局は関連情報を集めている時点で、それらのウイルスの症状に気が付いた……しかしそれらの検査をした訳でもないし、専門家でもない……だから報道などできず黙っていたのだ。


 新型のレイジ・ウィルスには、ラボからの感染経路によって様々な種類があったのだ。


 以前の抗体を持つ宿主の身体では、別の形に進化したのだ。



 のちに遅延型と呼ばれるその種類は、発症まで時間がかかるが症状は普通の風邪以下だ。


 そしてレイジ・ウイルス特有の破壊衝動は無く、突然発症し狂気に蝕まれる最悪種になる……



 これらの情報が人々に知れ渡るのにはまだ時間がかかるが……



 父は備蓄を仕分けしながら、私の言葉に同調を示す……



「そうだ……もう何もかも遅い!!あの電話では店員が襲われたのは既に明白な事実だ。それに地方でも既に事が起きたならば、人口密集しているこの都内は絶望的だ!だから自分の身は自分で守るしかない!」



「さいちゃん!買い物は最低限だけど間に合ったのよ!あとは無理せず感染者から目立たずやり繰りしないと!すぐにどうにかならないだろうけど……国が何とかしてくれるわよ!その為の自衛隊だし警察じゃない!」




 ママの言葉に反論したくなるが、ママは自分が言っている事が間違いだと知っていてそう言っている。


 何かに希望を見出さなければ、この現状は覆せ無いと分かっているのだろう。



 既に多くの自衛隊員と警官が行方しれずだ、その理由は言わなくても誰だってわかる。



 安全な所を探して移動している人々は既に異世界への転移を行動に移しているし、この現状に甘んじている人間は何かしら理由を付けたがっているだけだ。



 安全を得る為に異世界での生活の苦労を覚悟するか、生活を維持する為に危険と隣り合わせで生きるか……選んだのは自分だ。



 此処まで異常な状態になるとは、誰も思ってもいないのも確かだが……それを言っても責任を取ってくれる人など何処にも居ない。


 当然会社や家族の問題も少なからずあるだろう……しかし最終的な決定権は自分なのだから……



「ママ!パパ!武器はちゃんとそばに持っていないとダメだよ!寝ている時に襲われたら、一番最初に手にするのは武器じゃないと!!」



「そうね!私はウインチェスターライフルに弾を補充しないと!」



「ママ!?まだウィンチェスター使う気なの?せめてアサルトライフルのFN SCARにしなよ!装弾数も多いし、何よりパパが持ってるんだから!それに叔父さんがパパにママにはこれがいいって、勧めてくれたんだから!」



 ママはホラー映画マニアなので、とある映画の理由でウィンチェスターライフルをこよなく愛していた。


 実用的なパパは叔父に見繕って貰ったFN SCARの銃を買って、その実用性の良さをママに見せたが当時は全く響かなかった様だ。


 しかし今回ばかりは事情が違い、叔父のおすすめの銃を持つ事を決めたようだ。



「そうね!弟のオススメ品だものね!これを機に持つ物を変えないとアイツに怒られるわね!」



 そう言って叔父の武器を出して、皆で集待って就寝した……



 そして翌日の9日目……


 窓の外を見ると何も変わらない朝が来ていた……平日と全く変わらず、近所の人も外に居る……何故か安全なのだ……



 朝からチャンスを生かすべく、母は種まきに勤しんでいた。



 万が一の事を考えて、プランターを三階の物干場と2階のベランダに持っていく。


 何事も無く平穏無事に終わる1日であってほしいと願いつつ、注意しつつ自転車で叔父の店に幾つかの武器と弾を取りに行く。


 父が手伝うと言ったが、家の補強をしなければ怖いのでそっちを優先してもらった。



 コンバットナイフ数本に防弾ベストを家族分、懐中電灯にそれらを入れるリュックを数個、サバイバルキットに救急キットそして非常食に水も数日分入れておく。


 一つのリュックの中だけで5KG以上にはなるだろう。


 それに武器もあり、全部持ち歩くには一人では無理だ。



 私は急いで電話をする……店から近い颯眞と歌波に手伝いをお願いする為だ……


 歌波は自分の父親と車できてくれて、ニュースを見ていたので多く武器や弾をかなり多く買っていった。



 颯眞は朝早くに、家族と自分名義の2号店に行ったそうだ。


 そして同じ様に武器や必要な物を持って帰ったらしい。



 私も親と来るべきだった……反省しかない。



 私は急いで歌波の親の車に武器を積んで、家まで送ってもらう。


 私と颯眞の乗ってきた自転車は、歌波の親がサイクルキャリアに乗せてくれた。



 颯眞の危険を考えると、途中で家に寄ってもらうのが賢明だ。


 私はそれを歌波の父にお願いする……歌波の家は颯眞の家とかなり近いからだ。


 その近さは、通りを一本挟んだ場所なのだ。



「おじさん、歌波ちゃん家まで乗せてくれてありがとう!」


 私がお礼を言うと、送ってもらったので母と父も同じ様にお礼を言うと、歌波の父親は逆にお礼を言って来る。



「寧ろお礼は僕の方だ、どうやって武器を調達しようか悩んでいたんだ!歌波に『早く買いに行こう』って言われたのだが、制圧隊も居るしって事で……後回しにしてしまってね!昨日国道の外れにあるディスカウントショップが襲撃されたのを聞いて『失敗した』って思ってたんだよ!」


 私は、そのディスカウントショップで父と母に起きた事を説明する……


 二人は青ざめながら『無事でよかった』と両親の方を見て言っていた。


 カナミ達は私たちが行く数時間前に、偶然同じ店で買い物をしていたそうだ。



 現在必要な物の他、中山寺の事があるのでかなり多く買ったそうだ。


 全て歌波の事前判断による物だと言う。



 昨日の事もあり夕暮れになると危険なので、明るいうちに別れを言う。



 私はお礼にサバイバルキットと救急キットをプレゼントして親と家に帰った。


 そして外で今出来る全てのことを終えて、皆で家の中に入ったのが15:05だった。



 おやつを親と食べニュースを見ていた……そして16時のニュースの頃に……



『ドン……ドン……ドドン……ドン』


 急にドアを不規則に叩く音に緊張が走る……私とママが後ろに下がり、パパがマジックミラーの覗き窓から誰が来たのか様子を伺うと……



「ま!まどかさん??………なんで!?どうして……そんな目をしているんだ……白濁した目……?そんなバカな!!」



 慌てて私達も玄関のドアに向かう。


 そこに居たのは、変わり果てた叔父の彼女の姿だった……


 9日目にして私は、可愛い甥っ子の顔を見る事もなく、叔母の座から引き摺り落とされた……クソッタレのウイルスによって……





ウイルスの型


新型レイジ・ウイルスの亜種『遅延型』……レイジ・ウイルス特有の破壊衝動は無く突然発症する。



武器名称


モスバーグM500・ショットガン


ウィンチェスターライフル


FN SCAR・アサルトライフル

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