8日目
「ニュースです。昨日ポータルゲートに大量の感染者が雪崩れ込んだと『在日帝国領大使館の報道官』より報告がありました。ポータルゲートを通じ多数の感染者が異世界側へ渡り、直後ゲートの強制封鎖を行なったという事です。その結果、感染者は地球上の他のポータルゲートへランダムに転送されたと言う事で、各国の大使より大変遺憾である……と帝国領及び日本の大使館へ申し入れが多数あったと、政府関係者が報じました。」
私達は朝ごはんを食べている時に、そのニュースを聞き顔を見合わせる。
恐れていた事がとうとう現実となった。
中山寺都市から東に位置するポータルゲートは、今日の昼から日本人向けに解放予定だった。
今回の新型ウイルス騒動で『多くの移動者が見受けられる』と、前からニュースで頻繁にやっていたのだ。
それを聞いて父は、ニュースの音量を上げる。
「えーー……緊急ニュースです。繰り返します……緊急ニュースです!帝国領ポータルゲートについての緊急ニュースです。さくじつ帝国領にて強制停止をしたポータルゲートは現在、ポータルゲートコアである大型魔石の破損により暴走を開始……との事です。転送は同系列の各ポータルゲートにランダムで強制転送されると言うことですので、お近くに居ても絶対に近づかない様にとの事です。……繰り返します………」
「って事は……中山寺都市からの感染者が………感染者が大量に雪崩れ込むぞ!?」
父の一言に私達は息を呑む……
当然そういうことになる……ポータルゲートは行き先の映像を映し出し、その周辺の音を反対側へ全て出すのだ。
まるで門などなく、その先にその場所が続いているかの如く……
私は修学旅行で一度、帝国領を経由し王国領へ行きポータルゲートを経由し熊本へ行った経験がある。
因みに熊本観光をした後に飛行機で帰宅すると言う流れで、市街地から熊本空港まで1時間以上という長距離のバスに揺られて、非常に疲れた思い出だ。
かなり疲れた経験だが今思い出すと、また行って『馬刺しと、いきなり団子』をお腹いっぱい食べたい……と思えてしまうのが不思議だ。
ちなみに、帝国領から王国領へは飛空艇を使ったのだが、飛行機よりスピードは遅いが自由にいつでも動けて、異世界産の遊戯もかなりありかなり快適だった。
そんな事より今の現状が問題だ。
「異世界ってテレビないけど……緊急速報どうしてるんだろう?って言うか今日のお昼からだったよね?ゲート解放?」
そう言って私は、ゲート予定表を見る。
私も家族も移動願いを出していたのだ。
家族は抽選の上で落選。
私だけ何故か受かったのだ……しかし前は遅刻で渡れなかったが……
ちなみに転送移動出来なくても、飛行機の様に搭乗無効や払い戻し機能は無い……移動無しにはそもそもならないのだ。
振替転送が月末にあって、父と母はその月末転送組に当選していた。
だから私も家族と一緒にその日に移動となった訳だ。
すると、当然緊急ニュースが更に報じられる。
「緊急ニュースです!緊急ニュースです!現在世界中のポータルゲートに、感染者多数が現れたと報告がありました。更に中山寺都市の感染者が雪崩込み、多数転送されていると確認がされました。繰り返します。中山寺都市からの感染者が、多数暴走中のポータルゲートを経て各国及び異世界へ転送されているとの事です。尚、帝国領のゲートと王国領のゲートは型式が違うために『転送はない』という事です!……再度繰り返します………」
当然だろう……今までポータルゲート周辺に居た感染者は、ゲートが開かなかったのである意味袋小路に居る状態だった。
しかしゲート暴走中の今となっては、何処へでも行ける状態になってしまった。
唯一の救いは、熊本の王国領ゲートが同形式の魔力システムで無かったのが幸いした。
もしそこまで繋がっていたら、王国領と日本の西にも同時に感染者の群れが現れることになったからだ。
「パパ!どうなっちゃうのかな?もう世界中に拡散されてるよ!?」
「私の出勤も既に停止になったよ……身の安全を最優先にすると国の方針が決まった為とメールが今来た。」
「武さん!非常食を買っておいた方が良くないかしら?すぐに行動しないと、外出禁止にならないかしら?
ママは冴えていた……確かに言う通りだ。
叔父さんの蓄えた非常食は銃砲店の地下シェルターにあるが、それだけでは心許ない。
すぐに行動に移すべきだと私もママに賛成した。
「すぐにパパの車で近くのディスカウントショップに行くべきだよ!多分他の店は『緊急事態宣言』で営業してないけど、反対活動してたしそこならあると思うから!!」
良いセリフではないが、命に関わる事だ……今は少しでも多く買い溜めする方がいい。
私達はすぐに財布と大きめのバッグを持って店に向かう。
「ママ!さいちゃん!やってるぞ店が!早く買わないと!」
ニュースで危険かも知れないと感じた人がそこそこ店に来ていたが、度重なる『緊急ニュースや警報』で感覚が麻痺していたのかあまり人は多くない。
「今のうちだよ!水に保存食、缶詰が良いって叔父さん言ってたよ!消費期限過ぎても多分いけるからって言ってたし!って言うか食べてたし!」
「さいちゃんそれって本当に平気なの?」
「食べ物がない状態なら仕方ないよ!今はいいけどこれから手に入らなかったら仕方ないでしょう?」
パパは私が叔父さんのおかげでしっかり育ったと喜んでいた。
私は日持ちするカンパンの他いろいろな種類のパンの缶詰を買う。
そして、ひよこ豆の缶詰にスイートコーンの缶詰、フルーツミックスの缶詰など、缶詰をどんどんカートに乗せていく。
パパはカップ麺と水を中心にどんどんカートン単位で乗せていて、ママは家庭菜園用の作物の種と肥料と土を買う。
「ママ種はどうなんだろう?パパ的には食べ物の方が………」
「パパ!万が一を考えるとママがあってるよ!天窓から外に出して日を当てればいいし、プランター栽培の多年草なら収穫も期待できるよ!長く生き抜く工夫をしないと!」
それを聞いたママとパパは『叔父さんとは一体どんな話をしてたんだ?』と目を丸くする。
しかし当然車に詰める量もあるので土や肥料は後日となった。
「毎度あり!アンタ達すごい買うな?……ニュース見たんだろう?その様子だと……良いか?人間は水がないと死ぬ!だからブルーシートは必ず買っておけ!今ここには5セットあるが買うか?」
パパとママは怪しい目で店員を睨むが、叔父さんは同じ事を言っていた……『水が無ければ間違いなく死ぬ……ブルーシートで雨水を引くのが一番手っ取り早いが、地面に穴を掘って引けば水を集める事ができるからな?何が何でもブルーシートは持っていろよ?』と言う言葉を思い出した。
「ください!5セット!叔父さんは死ぬ前に店員さんと同じ事言ってました!破ける事を考慮して多く持っていろとも!!」
店員と私のやりとりに一番驚いたのは、周りの客だった。
会計が終わった周りの客は、慌てて戻りブルーシートを買っていた……
「お嬢ちゃん!サバイバルに詳しいな?良い先生を持ったもんだ!俺はボーイスカウトで習った事が切っ掛けで、陸自に居たんだ!親父の店を継ぐために今は辞めちまったけどな!今は危険な状態だ……生き残る事を最優先にな!」
店長はそう言って私に、フィストバンプを求めて来るので返すと、笑いながら棒付き飴をくれた。
この気さくな店長を見るのがこれが最後になるとは、この時の私は知らなかった……そんな8日目が終わろうとしていた……
登場人物
主人公 石川 彩姫
従兄弟 石川 颯眞(彩姫の従兄弟)
石川 武(彩姫の父)
石川 ゆかり(彩姫の母親)
『専門用語』
ポータルゲート
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