7日目

 

 6日目に起きた動画配信者の事件は拡大に拡大を重ねた。


 大きな事件としてニュースに取り上げられ、本人だけでなく匿った人は『国家反逆罪・隔離措置違反・感染者報告義務違反』など様々な罪が増えていった。


 この状況から推察できるのは、国としてこれ以上被害の拡大は何が何でも抑えたいのだ……



 と言っても感染者と接触した動画配信者など、匿う人など既に居ないだろうが……



 その大きな理由は町単位で被害が拡大した事だ……彼らが逃げた先は間違いなく破滅しか無かった。


 彼らが逃げ込もうとすると、町民は感染者と濃厚接触の恐れがあるので銃で威嚇発砲した。



 すると今度は、その銃声で感染者が進行方向を変えたのだ。


 結果的に中山寺都市の周囲にあった、国道を利用する新たな町3つが動画配信者の被害に遭い壊滅した。


 合計すると1都市6町が感染者で溢れかえっている。



 それらの町は、自衛隊の前哨基地とする予定だった為、多くの物資が現場に集められそして残されてしまった。



 自衛隊と警察は、政府機関関係者に回収をしてから後退をする様に言われた。


 その関係者は誰よりも早く逃げ出したが、近隣の関連事務所には帰って来ていないと言う。



 ちなみにその殆どは徒歩による撤退だった……


 撤退中に襲われ、最終的には荷物を放り出してバラバラで逃げた。


 生存者は自衛官451/1000で、警察官116/250だった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 中山寺都市から隣町を経て、その先にあるのは『ポータル都市』と呼ばれる場所だ。


 所謂空港だが、大きく違うのは異世界の技術だと言う事だ。



 背信者『無敵』の彼が行った行為は、一番避けるべき行動の一つだった……



 ポータル都市は名前の通り、異世界を繋ぐ『ポータル』と呼ばれる施設がある場所だ。



 このポータルは異世界に通じている他、他国とも繋がっている重要かつ危険な場所である。


 特定時刻にポータル間を繋ぎ移動できる様にした物だが、小規模の転移魔術に比べると格段に転送人数の規模が大きい。


 その単位は、万単位で送れてしまうのだ。



 小規模魔法は多くて5人の転移が可能だが、魔力消費が大きいのでおいそれと使える物では無い。


 それに比べてポータルは魔石を使った異世界の構造物だ。



 特定期間転移の出入り口を作れる。


 しかし閉じるのに問題があり、起動を止めても1時間はポータルは開きっぱなしになる。


 要は、止めた直後から1時間はそれを使い移動できるのだ。



 異世界からの魔物の多くは、その1時間に多く流入する。


 魔導士もそこを守る兵士もポータル付近にいると、強制的に反対側へ飲み込まれてしまうのだ。


 反対側へ到着した場合、逆転現象で再度飲まれることはなく、逆に一定時間ポータルから弾かれて使えなくなる……



 なので手薄どころかポータルの警護はできない……行ったら最後暫く帰れないからだ。



 その事もあり、ポータル付近には建物含めて余計な物は何も無い。



 尚、地球側にあるポータルは2箇所で一つは『東京』もう一つは『熊本』だ。


 そして異世界のポータルなので、当然管理者が居る。



 東京のポータルはかなりの設備費がかけられていて『帝国の所有』である。


 熊本のポータルは逆に素朴な作り(質素とも言える)で『王国の所有』だ。


 作りの違いの理由は、異世界とのパイプラインにある。



 帝国は異世界との繋がりを早くから行った。


 王国はその逆で慎重だったのだ。



 その事があり、出資者の多くは帝国と繋がりがあるのだ。


 言うなれば大手空港会社と、それ以外と言う感じだ。



 問題は……帝国の管理するポータルの管理者にあった。



 名前を『マネー・D・ゴールディ』と言い公爵家の三男坊である。


 ゴールディ家は異世界では名前を知らない者はいない……魔導士家系であり様々な魔道具を生産しているのだ。



 問題は彼が非常に性格が悪く、金に汚い上に賄賂が大好きなのだ。


 異世界の基準はこの地球には通用しない。



 異世界の帝国領は力と権力が全てで賄賂も接待も何でもありだから、地球側の各国は『それを踏まえて』ポータルの接続時間を決めてもらっているのだ。



 ちなみにポータルの発明は困った事に彼だ。


 彼の才能は、不正と金にのみ反応し華開く困った人物だった。



 奇しくも彼が東京での接待を受けていたのが、ラボで事件が起きた日だった。



 彼はその事など気にせず、気が済むまで東京の中心部で豪遊した。



 その結果が7日目の今日である……東京と異世界のポータルを繋ぐのは明日で、1日早くポータル付近の5つ星ホテルに来ていた。


 彼は、まだ中山寺の都市が都市として機能していた頃に、市長と面会し今後の約束を取り付けていた。


 中山寺都市の市長は『中山メロン』の異世界への輸出を『マネーの望む量』で約束していた。



 このメロンは異世界の貴族達の間では、皇帝陛下がこよなく愛する果物とされていた。


 その為に扱える貴族は少数で、選ばれた貴族達しか食べられない高級感溢れる果物として、取扱が貴重でとりわけ有名だったのだ。



 そのシェアを一手に入手したかったマネーは、ポータルの設置を中山寺都市の付近にして、ポータル時間を延長する話を持ちかけた。


 思いがけず転がり込んできた話に市長は大喜びで答えた結果、今に至る。



 何故メロン如きに?と謎が残ると思うが、理由は簡単だ。



 異世界産の特定の果物には、なんと『寿命延長効果』があったのだ。


 特定のゲームの設定の様に、異世界には特定の木の実に特殊な効果があった。



 その効果が一番大きいのがこのメロンだったそうで、それであれば長生きしたがる皇帝も欲しがるだろう……


 ちなみに異世界のメロンは木になるそうだ。


 だがマネーの問題は、その都市が壊滅したと言う情報だ。



 その上、よりにもよって自分の命が脅かされる状態までになっている。



「おい!早く繋げ!今逃げないと、どこにも逃げ場なんかないんだよ!!この周辺はポータルしか置けねーんだよ!!あのただの箱のホテルって言う施設で凌げる訳ねぇだろうが!何度言わせんだ!!」



「マネー・D・ゴールディ様!今ニューヨークの門が完全に閉じました!すぐに繋げますので、後10分いや5分お待ちを!」



「何でも良いから急げ!!お前達も死ぬんだぞ?本当にわかってんのか?見ただろう?『テレビ』とか言う物でやっている『ニュース』って奴を!アレは絶対に俺たちの世界とこの異世界の弊害だ!!だから言ったんだ!生産した物は良いにしても、ヤベェ素材やダンジョン絡みだけは売るなと!アレはゾンビ菌だ!この異世界で変異しやがった!!ダンジョンとみなしたんだよ!あの菌はここの世界その物を!!」



 マネーはそう言うと、後ろを振り返る。


 すると遠くで『ダダダダダン!ダダダダダン!!』と連続する音が聞こえる……



 マネーは思った……『自衛隊と呼ばれる異世界の兵士達が、凄い速度で弾丸という物をばら撒いている音が聞こえる』と……そして同時に『もう長くは持たねぇ……ゾンビはそう簡単に死なねぇ……燃やすか祝福で消滅させないと無理だ!!奴等は大馬鹿か?』と心で叫んでいた。



「くそ!まだか?早くしろ!!もう音がすぐそこに聞こえてんだろう!来やがったんだ……ゾンビの群れだ!ヤベェ事になった……俺らの世界で歩く屍だった奴等が、この世界のせいで『狂気』を持って今は走ってやがる!!まじでヤベェんだって!!アレは絶対にヤベェ!下手すると聖水も祝福も効かねぇかも知れねぇ!!あんな数この異世界ではまず燃やせねぇよ!!早くズラかるぞ!」



「「ひ!開きました!!マネー様!」」



 兵士と魔術士がそう言ったので、彼は大慌てでゲートに飛び込む。



「お前らも早く来い!ここはもう無理だ!ゲートは俺たちの世界から封鎖するしかねぇ!じゃ無いとこっち側にもアイツらが……まじい!自衛隊とか言う奴らの武器の音が止んだ!!奴等は全滅だ!!あのデカイ箱型宿が餌になってる間にゲートを閉めるぞ!」



 大慌てで周辺に居た、職員やら兵士がやら魔導士が一斉にポータルゲートに飛び込む。



 しかし恐怖で我慢が出来ない翌日の移動予定客は、ホテルの外に出て様子を伺っていて、運悪くポータルゲートが開いているのを見てしまった。



 翌日の移動客は『なんとか感染者の被害から逃げられる』と思い、家族に『早く走るの!遅れないようにね!!』と叫びながらホテルから飛び出してくる。


 しかし大きな間違いであった……



 自衛隊の一斉射撃が終わり、離れた場所に突然現れた人々に感染者が反応するのは当然だ……


 それも馬鹿みたいに大声をあげているのだから、こっちに来てくださいと言っている様な物だった。



 ホテルのある周辺の鉄柵の前で群れは寄り集まり、その重みで鉄柵は薙ぎ倒されてしまう。


 そして続々と感染者の群れがホテルに押し寄せる。



 我先にとポータルゲートに逃げ込もうと走る客達だったが、手ぶらで逃げれば良かったのに荷物を律儀に持っている。


 そのカメのように襲い彼等のその後を、疲れを知らない感染者が生前の全速力を超えて走り、物凄いスピードで追い上げて行く。



 マネーの考えで間違えていたのは、現時点で『ポータルゲート』を開いた事だ。



 開けたら最後、一定時間は開くのだ。


 彼はその場から逃げたい余り、そのゲートを開いてしまった。



 当然自衛隊の壁が持つと予測もしていたが、考えは甘かった。



 埋葬される予定だった6000人近い感染者は、都市を襲ったその日に中山寺都市の被害者を加えて14000人強に増えた。


 中山寺は人口が多い都市なので、都市の総人口数から見れば増加したのは8000人だった。


 しかし感染者は、その後も爆発的に増えたていた……二次被害や二次感染だ。



 そして例のお馬鹿さんがやらかした事件で、周りの街を飲み込んだことでも更に増えた。



 ポータルゲートがある場所に来た感染者は、その全部では無いが2000人以上は居た……とのちに推測された……



 その感染者は怯まずに、そして止まる事なく自衛隊に突っ込んで行ったらどうなるか……彼らを仲間にして、もっと増えるに決まっている。



 そしてホテルにいた宿泊客を襲い、更にゲートに向かう客を追いかけて行く感染者は、客に喰らい付くと一緒にゲートになだれ込んだ……


 その結果、ラボで起きた事件から7日目にして、異世界にまで拡散してしまう新型レイジ・ウイルスだった……






登場人物


『マネー・D・ゴールディ』公爵家三男坊


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