6日目

 

 学校が閉鎖された……


 昨夜は叔父さんの彼女が落ち着くまでかなり時間がかかったが、顧客名簿を見たら中山寺都市のお客さんは50名近くも居た。


 そして例の革ジャンをプレゼントしたお客さんは中山寺だけで15名も居た。


 拳銃のほかにショットガンやマシンガンを買った人にプレゼントする企画だったので、親の言う通り割と客は多かった。


 私はそのことを伝えて、本来見せるものでは無いが私が任されている店舗の名簿を見せた。


 そして彼女は漸く落ち着いたのだ。


 勿論私はエンブレムの事は口に出さない……これは誰にも言わず私だけの胸にしまっておく……



 そして、まどかさんはうちに泊まって行った……


 一人でいたくないだろうから、母がそうしろと言ったのだ。


 朝の全体集会で校長は『登校には危険を伴う為、一時学校を閉鎖する事になりました。尚授業はオンライン授業にて行いますので、家庭の事情で自宅に設備の無い方は、後日補修にて対応します…(云々)…………』と言った。



「ねぇ!さいちゃん今時ネット持ってない人なんかいると思う?居ないよねぇ?」



 声をかけてきたのは歌波だ。


 フルネームで『厚見 歌波』苗字が一緒だが叔父さんのと彼女とは縁もゆかりも無い。


 ちなみに同じ苗字は、学校にもそこそこ居る。



 彼女は保育園から一緒の友人で、軽音部に入って居る。



 彼女は見かけとは裏腹に、かなりヘビーな曲を聞く……私が好きなヘビメタにドップリと浸かってしまった子だ。



 叔父さんの銃砲店でも彼女はアルバイトしているので、日常的にほぼ一緒に過ごしている。


 多分親よりも一緒に居る時間が長いだろう。



「歌波……引っ越ししたばかりの人はネットないと思うよ?」


「あ!確かに!昨日と今日で転入生多かったもんね!ウイルスで閉鎖した学校の生徒受け入れで、臨時試験だったとか言ってたしね!」



 今歌波が言った通り、新型になる前のウイルス蔓延で学校が幾つか閉校したのだ。


 うちの学校はその生徒達に転入テストという形で機会を与えたそうだ。



 当然特殊学科である私たちのコースは、転入前も同じコースである必要があるが……


 生徒の受け入れは普通科が25名で、私たちの科が6名だった。



 そして、なかなか個性的な人達が転入してきたのだ。


 彼等は引っ越したばかりでネット環境など無いだろう……


 今は政府のやり方に反発している、ネットスーパー・ポッポのネット工事が一番早いと朝皆が話していた位だ。



 何故なら業者も外出には制限がついているからだ。



 しかし私達の一番のニュースは朝から別のものだ。


 何かといえば、当然『中山寺都市の壊滅ニュース』だ……



 結果から先に言うと、この街から援軍の制圧隊が行くことはなかった……


 何故かといえば、駐在中の自衛隊120名が生存不明そして、警察官45名も生存不明。



 中山寺都市は孤立無援状態にある。



 と言うより、近寄れず既に手がつけられない状態だ。


 周囲には防波堤の様に簡易的な感染者止めが築かれた。



 そしてあの群れは『バイター』と何時の間にか呼ばれ始めた……その理由は『噛む』の英語から取られているのだろう。



 群れの数は膨れ上がり、既に当初の6000名を遥かに超えて倍になっているだろうと、ニュースキャスターと専門家は話していた。


 その群れは朝になると、直射日光を避けるかの様に散り散りになってしまい、今は『ハグレ』と呼ばれた群れから離れた個体を処理する状態になっていた。


 しかし銃声が響くと、何処からともなく30名くらいの群れが幾つも来るそうで、カメラマンや自衛隊そして警察官の被害は増える一方だった。



 ちなみに鎮静剤も煙幕もスタンガンも効かない……効くのは鉛玉だけだ。


 そしてニュースの情報では『頭が弱点ではありません」とのことだ……頭を撃っても数時間で活動を再開し始めるそうだ。



 被害の拡大は『仕方無く安楽死で処理済み』と考えた感染者が起き上がったからだ。


 その感染者に多くの人間が襲われてしまったそうだ。


 ちなみに何故再活動を始めたかなど、その理由など誰も分からない。



 そして朝のニュースの最中でさえ、ライブ映像で現場の状況を伝える最中にハグレの制圧中に襲われるシーンが何度もあった。



 朝からそんなニュースを流した各社にはクレームが殺到し、学校に来るまでの電車内の液晶モニターで何度も謝罪のシーンを見た。


 そして早々に中山寺都市の近辺は、立ち入り禁止区域に指定された。


 4都市は事実上の無援助状態になってしまった。



 昨日の惨事を見た、近場に居た数人のライブ配信者達は不謹慎にも面白がってそこに向かっていった。



 配信者数人は『現在群れのいる場所を知らせます!逃げ脚には自信がありますから!皆さん知っているでしょう?俺は毎回動画で逃げてますからね!今回も逃げ切りますよ!!』と其々が同じ様なセリフを言って、近隣の都市から向かっていったのだ。


 その中でも特に人気のある、自分の愛称に『無敵』と言う名をつけた有名な人が、群れに囲まれて感染者の仲間入りした映像が今も止まらずに流れている。



 無敵と言うだけあって、確かに逃げ足は速かった。


 しかし相手は6000人から膨れ上がっているのだ……1000人でも逃げられそうもないが……それが散り散りなのだから政府は困っているのだ。


 それなのに立ち入り禁止地区に入ってしまった。


 動画で見る限り、検問付近は無人だった……と言うより既にもう襲われた後で、それから誰も近づけないのだと思う。



 彼はそんな中、偶然巨大な群れを見つけた。


 しかし当然だが逃げ道を確保できなかった。



 大きな群れを遠巻きで撮影していたら、のちに増えた感染者が別方向から合流してきたのだ。


 当然逃げるが、携帯電話の着信音が鳴り響き、彼は延々と追いかけられる事になった。



 この感染者は疲れない……理由は簡単だ『既に死んでいる』からだ。


 しかし彼は生きている……疲れもするし、食事も呼吸もする……絶対的に不利なのだ。



 それに毎回携帯をかけながら逃げるスタンスだったのが災いした……


 彼は逃げる最中に『馬鹿言ってんじゃねぇ!!お前のせいで死にそうだ!この相手は警察官とは訳が違うんだよ馬鹿が!』と言っていた……


 そして群れの気を引く為に、携帯を投げ捨てたが時は既に遅い。



 逃げても逃げても周りにいる感染者が減る事などはない……だからこその立ち入り禁止地区だから……



 安全な場所など政府でさえ、用意できていないのだ。



 彼は隣町付近まで逃げてしまい、そこでなんとか身を隠したが最後は囲まれてこの世を去った。



 正確にはまだ歩いているが……



 配信アカウントに課金して『配信を常にオン』にしている為に映像が今でも消えないのだ。


 配信側も収益を上げる為に『運営による強制オフの無い配信』をうたって客集めをした結果、『消す設定がそもそも無い』と謝罪会見をするくらいだ……


 記者会見で、『ならばサーバを停止すれば良い』と言われたが、サーバ管理は別会社でそれも無理だと言う……


 自分の会社のシステムをシャットダウンすれば済むのでは?と思うが、理由はどうあれやる気もないのだろう。



 なので配信カメラを繋いだまま、未だに歩き回っている……と言うより上着のベストやら様々な場所に縫い付けてある。


 彼は感染者となった後、他の感染者と共に逃げてきた隣町を破壊し、その後何処かへ歩き続けている……


 意識など等に無くだらだらと歩いている……



 彼は自分勝手な行動で、町を一つ破滅に追いやった……


 一部の彼の擁護者は『街は近かった……遅かれ早かれこうなった』と言っていたが、その擁護者の一人は別の配信者が連れ込んだ群れに町ごと飲まれた。


 その最後の言葉は『なんて事してくれたんだ!くそ馬鹿野郎』だった……



 それからと言う物、危険行為に対して擁護するものはあまり見なくなった。


 しかし居所不明だった大きな群れの一つは、政府関係者がその発信信号を元に現在位置を特定して、上空からの強襲作戦をするそうだ。



「それにしても……あの動画配信者大変な事になってるね!怖いよね……あれだけ応援してた人まで、今は手のひら返してるし!」


「まぁ、あの人とすれば隣町付近まで逃げたら助かるかも!って思ったんだろうね……1000人でも襲ってきたら、小さな町程度だと無理だよね……」



「だよねー!でもまだ数人配信者が隠れて逃げ回っているらしいよ!それに対象地区から逃げてくる人について、近くの街は発見次第威嚇射撃で追い返してるんだってさ!匿ったら『隔離対象』だって言うんだから……まぁ分かるけど……」



「実は私……この事件が起きる直前ウイルス対策ラボに犯人の向かう車と、警察車両と救急車見たんだよね!バイト先の叔父さんの銃砲店から近いじゃない?」



「だねぇ……凄かった?」



「まさかラボ襲うなんて思ってもいなかったよ。防犯カメラにその車の映像が映ってて、警察がコピー持って行ったよ」



「うわぁ……怖いねぇ……さいちゃん……」



「歌波も武器持ってなよ?せめて拳銃位はさ!」



「私はさいちゃんみたいに、ショットガン持ってたいな!週末にでもパパに買ってもらおう!危険だからね最近!」



 全体集会に飽きた私達はそんな話をしていた……



 しかしこれは始まりに過ぎない……とは誰も思っていなかった。



 現時点で日本の一部で起きた事件で、ニュースも断片的であり、報道各社は知っている内容の『ある真実』を隠していた。



 それに今こうして呑気に全体集会に参加しているからだ……


 6日目の大きな出来事は、SNS配信者が行った被害の拡大だった……




専門用語


『バイター』


登場人物


動画配信者『無敵』(敵屋 与無 てきやあとむ)


厚見 歌波(友人)

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