5日目
埋葬候補地が決まった……場所は中山寺都市という地区だ。
新型新幹線が停まる最高の都市だ!!そして中山メロンは私も大好きだ……
候補地に幾らか手を挙げた都市があったが、一番の決め手は環境だろう。
問題のあった3都市から近く、都心からも近い。
自然も豊かで、特産品も素晴らしい。
しかし問題もあった……お墓の数が間に合わないので合同埋葬なのだ。
上手い話には裏があり、個人のお墓では無い。
デモ隊や反対派が奮闘すると朝からニュースが流れている。
しかしながら都心に土葬をできる環境も無く、火葬場の空きも無い……そうなれば否応なく話は進み仕方が無いと諦めざるを得ない。
因みに北方への移動はまだ出来ない……感染者が6000人も出たのだから当然だ。
ウイルスの調査や、問題箇所の閉鎖が続いている。
3都市で無事だった人達は、完全自宅待機で外出不可の状態で、食料品は自衛隊による配給のみだと言う。
コンビニは勿論営業しておらず、個人経営の店がシャッターを開けたら即座に警察が飛んでくる始末だと言う。
テレビのニュース速報では、連日警察と住民が揉めていると言われている。
しかしながら、感染防止装備なしで外に出たら実際に感染する可能性があるようで、昨日デモで出た人が今日感染したとニュースでもやっている。
旧レイジ・ウイルスは潜伏期間が約1月はあったが、新型は遅くて1日で早くて秒だ……
今回の新型は口から血の泡を拭き目から出血をする。
そして我を忘れて暴れ回り、力の限り暴力を振るう……指を骨折しても、腕が折れても殴り続けるそうだ。
政府機関の遺体の解剖で、今日わかった事実だった。
末期症状がすぐに出る新型は、蔓延防止というレベルでは無い他者との接触は完全禁止するべきだ……と専門家が言う。
叔父の遺体を移動する通知が母と私の携帯にメールで送られてきた。
宛先は連名でだった。
ちなみに私は授業中だったが、メールを見て怒られたので叔父の葬儀と言ったら、先生が謝って来た。
先生も叔父が推し進めた制圧隊に助けられた一人で、職員室で後程個別にお礼を言われた。
実は学校では私の叔父は英雄と言われている。
叔父が居なかったら、結果的に制圧隊に助けて貰えなかった人が多かったようだ。
集合埋葬の事を先生に伝えると、先生はクラスメイトに叔父のために黙祷をするように言ってくれた。
感謝しかない……
ちなみにメールの内容は、『遺体の移動が始まった事をお知らせいたします。移動は本日15時に東京を出発。中山寺への到着は16:30の予定です。専用路線にて移動しますが、感染防止の為に駅への見送りは出来ません。直接墓地に移動後埋葬処理されます。報道制限をする予定のため状況報告は致しかねます。ご了承ください』だった……実に身勝手な政府のやり方だ。
と言っても、遺体からの感染まで確認されているのだから、致し方無いというのも意見のひとつでもある。
しかしこの日を境に事態は急変する……
5日目の深夜だった。
携帯電話に緊急速報が流れる……
『緊急速報です!緊急速報です!これはテストではありません!中山寺都市にて感染者が確認されました。中山寺都市にお住まいの方は例外無く自宅から外出は禁止されます。制圧隊が到着するまで、決して外に出ず、ご自宅で身を守って下さい。万が一自宅の外に出た場合『例外無く隔離対象』となります。様子見で外に出るのは危険ですので、絶対に控えてください』
北上都市や本庄赤羽都市そして目白山都市に続き、中山寺都市まで感染者が確認された。
感染者の封じ込めに失敗したのかと思い、飛び起きて居間に向かうと、父も母も既にテレビをつけていた。
報道の力は凄いと思った……緊急宣言が出ていたが、その都市の外側から望遠レンズやドローンを使って撮影をしていたのだ。
「ニュースをお伝えします!現在中山寺都市では非常に凄惨な状況となっています!どこからとも無く現れた感染者が町民を襲っています!警察も対応していますが……ああ!警察官が襲われています!!逃げて!逃げてーー!!」
遠くから望遠レンズやドローンを使っているのだから声など聴こえないだろうに……と思ってしまうが、画面に映し出されたのは酷い状況だった。
暗がりの中人が走り出して、民家にへばりつく様だ。
そして逃げるように住民が窓から逃げ出すと、それに気がついた感染者の山ができる。
自宅で身を守る事など100%出来ない……と現実を思い知らされる。
壁の高い豪邸には感染者が折り重なり、下の感染者を踏み潰しながら壁を越えていく。
「これって……映画じゃないの?本当に感染者なの?下敷きの人は生きているとは思えないんだけど?」
私がそういうと、『パンパン』と銃を撃つ発砲音が画面からする……警察官だ。
その音の元に感染者が群れで襲いかかる。
「無理だろう!!これは……自衛隊でもいない限り……」
父がそう言った矢先カメラが切り替わる……自衛隊らしき人間が一斉射撃をしている画面になったかと思うと、ニュースフロア画面に切り替わる。
「えー只今のニュースにて、現場の一部の凄惨な画面が流れてしまいました……心よりお詫び申し上げます……えー、速報ですが、現時点では中山寺都市の感染者の封じ込めを、いち早く自衛隊と警察が合同で行なっています。対象地区の住民は戸締りを厳重にしてください。繰り返します。対象の住民は戸締りを確実に行い、自分の身を守ってください」
「次のニュースです……中山寺都市の集合埋葬についてのニュースです。本日15時に東京を出た電車は…………云々………」
ニュースを見ていた私達はびっくりしてしまう。
あの状況のニュースを打ち切って、別のニュースに移行したからだ。
すると父は、
「報道規制だろうな、臭いものにはなんとやらだ。まぁ一斉射撃など見せたら想像つくしな……既に6000人の被害者……感染者と言うべきか……感染者の実例があるからな!これ以上は、感染者問題を国民に見せたくないんだよ!」
そう言われた私は、SNSで今の情報を漁ってみる。
「パパ!ママ!コレ…………何?おかしいよ!!だってどう見ても……この人たち首が変な方に曲がってるよ!?ゾンビが走ってるって撮影者がいってるし……」
画面に映っているのはどう見ても映画のゾンビだ。
異世界が確認された今ゾンビの存在は明らかだが、向こうのゾンビとは似ても似つかない。
しかしながら異世界が確認された以上、偶然に此方に居てもおかしくはないが……向こうのは走らない。
パパもママも同じようにSNSを漁る……
フェイク動画かと思った様だが、どうやらそうではない様だ……理由は、違う映像が山の様に出てくるからだ。
動画を漁ると、面白半分にライブ配信をし始める人もいて、窓を開けて撮影をしている……
しかし次の瞬間ライブ動画には、塀を攀じ登る群衆が映し出される。
その後、部屋から家の奥へ逃げ回る撮影者……窓を開けた事で存在を知られて、窓を破られて部屋に侵入され、その窓からは感染者が続々と入ってくる。
「誰か!誰か助けて!誰かーーーー!!」
その声に見ている人は、『逃げてー』の言葉をかけ『good』を押す。
もはやこの動画の撮影者は、これを見ることはないだろう事を、閲覧者の皆が理解しているのか疑問が残る。
しかし次の瞬間映し出されたものに、私もパパもママも息が詰まる。
着ていた服が、叔父さんの服と瓜二つなのだ。
「今の服!!……まさか……そんなはず………」
「たまたま服が同じだっただけだ!」
「そうよ!さいちゃん!プレゼントしたじゃない!企画で!偶然で持っていただけよ!!」
パパとママの言葉は、慰めであるだろう事は理解している……
あの着ていた革ジャンは銃砲店のエンブレムがついた限定革ジャンだった……叔父さんのと私のは特別でエンブレムの色が違うのだ……見間違えるはずがない。
私も持っているのを引っ張り出して、寝る前に叔父の事を思い出しそれを見たんだから!!
そのあとのニュースで更に私たちには衝撃が走る……
「緊急速報です!現在中山寺都市を襲っている感染者の群衆は、集合墓地から歩き出ていることが判明しました!繰り返します!感染者の群衆は、中山寺都市の集合墓地から歩き出しています!既に生きて居ない『死者の群れ』だと、逃げてきた中山寺現場責任者から報告がありました!!皆さん自分の身を最優先で守ってください!繰り返します………」
『ドンドン』
「康二さんが!!康二さんが!!…………ゆかりさん!!あの人が……わぁぁ………ああああ…………」
「まどかさん!?今開けるわ!武さん早く中に入れてあげて!!」
まどかさんは、あのライブ映像を偶然見てしまった様だ……そして家の中で政府の緊急速報を聞いて倒れてしまった……
『緊急速報!緊急速報!中山寺都市の皆さん自分の身を最優先で守ってください!現在襲いかかるレイジ感染者の群れは、既に生者ではありません。集合墓地の遺体です!繰り返します……』
私はまどかさんの為にテレビをすぐに消した……この世界の今迄の常識がひっくり返った5日目だった……
地域名
北上都市 『特産物・餃子』
本庄赤羽都市 『特産物・梨』
目白山都市 『特産物・目白牛』
中山寺都市 『中山メロン』 人口は『1,423,891』人
登場人物
石川 ゆかり(彩姫の母親)
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