4日目


 私は学校に居る……変わらず日常と変わらぬ面子……とは言い難い。


 クラスメイトで5人程感染したと報告があった。


 そのうち3名は既に亡くなった……チャラい格好をして深夜まで遊び歩いていた新野グループが襲われたそうだ。


 死因は感染者に噛まれたそうだ。



 残り2名は噛まれた友人を背に逃げた事での感染……


 二次感染だと言うが、ワクチンが全く効かず現在集中治療室で隔離中と言う。


 当然見舞いは許可が降りず、家族でさえ面会禁止。



 防護服を着た状態で医師のみ立ち入りが許可されるらしい。


 教師である手前、朝早く家族の家まで事情を聞きに行ったそうだ。


 他者の立ち入りさえ禁止され、家族の保菌検査のため会うのも禁止だと言う。


 インターホンでの質問になったようだ。



 生徒達は『学校で星見会』があると嘘をついていたようで、私たち生徒は教師から『嘘をついて外出している事がわかった場合、『停学処分』に処す』と言い渡された。


 流石に『星見会』と母に言ったらうちはバレそうだ。



 私の通う高校は父や颯眞の親が務める高校では無い。


 私も颯眞も進学校に通わせてもらっている。



 学科は『魔導力学』異世界の産物を扱う新学科だ。


 現在の化学に応用したいと思って、この学科を選んだ。



 叔父が武器マニアで私が幼い時から母の元に遊びに来ていたので、結果的にこっちの道になってしまった。


 ちなみに私は武器馬鹿では無い……電車好きで特に『新幹線』が好きだ。


 魔導力学の新幹線への応用……その事もあってこの学科を選んでいるのだが……



 昨日の事が嘘のような一日に、叔父の事も悪い夢だったのでは?と思ってしまう。


 しかし今日は学校が終わり次第、警察へ行きそのあと遺体が安置されている安置室に向かう。



 感染者に噛まれて死んだ叔父は残念ながら、遺体の受け取りは出来ず共同墓地に埋葬も決まっていた。


 葬儀の費用は国持ちだと言う。



 お昼休みに母からそう電話があった……ちなみに今は5限目の『数学α』の時間だ……非常に眠い……


 今日は6限目の授業は自習……理由は教師が不在だから。



 当然その教師も被害者だ……昨日の今日で講師など用意出来るはずもない。


 全員が避難所生活だったのだから。



 平和な日だった……家に帰り着替えて颯眞の親子と合流。


 叔母さんと抱き合い無事を確認して、叔父さんのお悔やみをお互い言う。


 母の妹は颯眞の母で、叔父さんは独身……ちなみにあの銃砲店は私の物になった。



 叔父は小さい時から私が大好きで、目に入れても痛くないくらい可愛がってくれた。


 文字通り目をつっついた事があるが、滅茶苦茶怒られた。



 本当に好きだったのか?疑問だ……


 それはそうと、叔父は私と武器の仕入れをしていた事もあり『店の将来を任せるなら私』と決めていたようで、遺言書や店の権利書、武器の所持規約全てに『私の名前』が書いてある。



 武器取扱免許は15歳で所持が可能なのだが、私はその上の『武器卸売り免許』も持っている。


 それどころか叔父の叩き込みで『武器改造免許』まで取らされた。



 銃の改造はできるが、そもそもその部品が無ければ意味がないので、改造は依頼がなければやっていない。


 最近ではモスバーグMZ10という、10発装填の化け物銃を御所望のショットガンマニアからの依頼でカスタムを受けたが、改造は楽しかった。


 9発装填は既にモスバーグにあるので、その上を行きたいと息巻いていた熱狂的な人だ。


 元々モスバーグには3000発の耐久があるが、モスバーグMZ10は残念ながら2500発の耐久しか見込め無いと説明すると、2丁拳銃ならぬ二丁ショットガンにするから良いと言っていた。


 両手で銃を持ってはフォアエンドを引けないじゃ無いか!と言ったら『魔物に転職して腕を生やす』と馬鹿なことを言っていた。



 私は颯眞の両親そして自分の両親と一緒に霊安室へ向かう。


 そこは特殊な部屋で遺体は別棟から搬入、建物内部が二層構造になっていて遺体安置の部屋には入れない仕組みだ。


 ウイルス対策のために丸々建物が切り分けられて、一部分だけ特殊ガラスで見える状態になっているのだ。



 叔父の遺体には布が被せられ、見えない状況になっていた。



「叔父様である康二さんは損傷が激しく……とても見せる事が出来ません……ご遺族には申し訳ないのですが、この状態でお別れとなります。ご了承ください」


 最後に一度でも叔父の顔が見たかった私は、『そんな』と口に出して言ってしまうと係員が……



『お顔は……残念ですがもうありません……見せられないとはそういう意味でございます……』という………意味を把握するまで時間は必要なかった。


 『噛まれた』と言われたのは『そういう事』だったのだから……


 叔父宛の棺に入れる贈り物を用意された木箱に入れる。


 この後叔父はその贈り物と一緒に埋葬されるという。



 残念ながら、火葬場は既に予約3ヶ月待ちと言われたのはショックしかなかった。



 どの火葬場も、政府の借り上げになっていた。


 北方の都市での感染者の一斉対処があったので、政府もてんてこ舞いだと言う。


 私は涙を堪えられず、泣き崩れてしまう。


「叔父さん!有り難うございました!叔父さんの一言が無ければ私も颯眞君も今こっち側には居ませんでした!!本当に有難うございます!!」



 そう私が泣きながら言うと、颯眞も同じ様に泣きながらお礼を言っていた。


 叔父の2番目のお気に入りは颯眞だったからだ。


 颯眞は銃に関心があるので、改造免許こそ持っていないが他は私と同じだ。



 石川銃砲店の2番館は、今は颯眞の名義になっている。


 全3店舗あったが、最後の3番館は今お付き合いしていた人の名義らしい。


 その人の名は『厚見 まどか』さんと言う……



 同じ部屋にいるが、来年の6月に結婚する予定だったらしく、酷く泣き崩れている。


 スピード結婚だった叔父達は出会ってからまだ1年未満だと言う。



 強盗に襲われていたところを、叔父が颯爽と現れお得意の銃で一掃したそうだ。


 過剰防衛じゃ無いか?ともされたが、犯人の家を捜索した結果分かったのは盗難品から今までに既に5人も殺して金品を奪っていた凶悪犯だった。


 叔父は結果的に、大量殺人犯の犯行を止めたとして表彰された。



「僕は……この女性が酷い目に遭わないか心配になっただけです!か弱い人を守るのが銃を持つ男の役目ですから!彼女が無事で本当によかった!」



 などと記者会見で恥ずかしげもなく言ったその事がきっかけで、急接近したという。


 しかしその叔父は、感染者が来た時に彼女を庇い噛まれたそうだ。



 彼女を車のトランクに押し込めて『制圧隊が来るまでは、絶対に出てくるな!出たら死ぬ!』と言って、自分は囮になって感染者達を引きつれて行ったそうだ。



 結婚式も挙げていないが彼女は叔父の後を自分が継ぐと言い、子供のために叔父の苗字と同じに変えると言っていた。


 故人になった叔父の事もあり名実ともに家族にはなれないが、実はお腹には叔父の子が居るそうでサプライズとしてその事を黙っていたそうだ。


 いざ言うぞ!という叔父の誕生日に感染者が現れ、叔父は知らないままこの世を去ったそうでだ。



 たしかにあの日は叔父の誕生日で、『何があっても仕事には来ない!電話も出ない!』と言っていた。


 彼女は子供に最後までママを守ったパパの勇姿を伝えて行くと泣いていた。


 私はどうやらこの歳で叔母さんになるようだ……いずれ銃砲店もその子に返さないと!と思った。



 私達は叔父のフィアンセと一緒に食事をした。


 叔父の家は感染者がいた病院付近だったが、もはや中には入れない。


 消毒殺菌程度の話では済まないからだ。



 国の関係者の話では、既に規制テープが貼られたという。


 貼られたそれは、中に入った者は『隔離対象』のレッドテープだった。



 以前見知らぬ若者が、そのレッドテープを超えて中に入る動画を撮影した事がある。



 その若者は1ヶ月後に感染が発覚し、彼の通っていた高校で大量感染が確認されて当然両親も感染した。



 その後若者はレイジ化が激しくなり、レッドテープ場所への潜入と部屋の物を盗難した事が明らかになった。


 それが原因で末期と診断されやむなく安楽死処分された。



 末期になった者は回復の兆しは見られない。


 どんどん悪化して、ウイルスが本人の命を奪うまで暴れ続けるからだ。



 レッドテープとはそれだけ危険な数値の『場所』だと皆が理解する事件だっただけに、それ以降どんな馬鹿でも誰もその場所には近付かない。


 当然彼女もその場所には戻っていない。



 彼女はトランクの中で隠れている所を、制圧隊に救われたのだ。


 そして管理隔離宿舎A(感染者に噛まれた対象のそばにいた人間)としてA宿舎を充てがわれた。



 経過確認と血液検査を即日した結果、『感染無し』『異常ホルモン無し』『変質細胞無し』だったので今に至るという。


 ちなみにA宿舎で感染者は出ていない。



 感染者がいたら、彼女を含めて皆未だに隔離中だからだ……



 何はともあれ、彼女は家には帰れない……


 彼女の心配を皆でしていたが、実は叔父は私達の住む家の目と鼻の先に彼女と暮らす新居を買っていたのだ。



 皆で向かうと、その家には既にベビーベッドが買ってあった……


 叔父は妻になる人が、自分の子供を妊娠していることに気が付いていたようだ。



 サプライズにサプライズをするいい叔父だった……そんな事があったのは事件から4日目事だ。



新登場人物


厚見 まどか(叔父の恋人)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る