3日目
避難所へ移動した翌日は大変だった。
3箇所の都市で感染者が爆発的に増えたせで、避難所移動もままならない状態にまでなっていた。
私は避難所Bに移動を申し出ていたが、当然却下だ。
「どうしてですか?向こうには母がいるんです!制圧隊の移動時に私達も一緒に乗せれれば済む事じゃ無いですか!」
「ですから、彩姫さん!トラックへ民間人を乗せるのは、この避難所に誘導する際です!通過中に何があるか分からない上、避難所への希望者ものせねばなりません!1人でも多くです!分かりますか?」
私と係員の押し問答が続くが、颯眞は私に無理を言わないように言う……
「辞めなって!気持ちはわかるけど、今は色々対応が忙しいんだって!!」
「だって!颯眞……母が向こうにはいるんだよ!?
「俺の両親だって避難所D地区に移動してんだよ!自分だけじゃ無いんだって!!」
颯眞が声を荒げて初めて気が付いた。
私だけじゃ無く颯眞も親と離れ離れだった事を。
彼の親は学校閉鎖の当日宿直で学校に居た。
愛妻家の父親は母の夜食と朝食を作り、車で学校がある場所へ向かったそうだ。
そうしたら、事態が急変し帰れなくなったと言う。
警察による検問所の設置でだが……
係員の話では、そこの検問に携わった警官も感染者の群れに襲われて誰も帰ってきていないと言う。
その話を颯眞から聞いていた。
私は自分の我儘でこれ以上、颯眞に悲しい思いをさせたく無いと思い、係員に詰め寄るのを辞めた。
「彩姫さん……お気持ちは察しますが、今この避難所から外は危険です!自宅に隠れていた住民の多くは『感染者』の襲撃に遭って良くて『新たな感染者』に悪くてお亡くなりになっています。どう見ても危険以外無い状態です。見た限り武器をお持ちですが、その武器では群れで来た感染者には対処しきれません!」
その言葉に私は叔父の事を思い出して反論したくなった……だが係員の話は終わっていない。
「貴女の亡くなった叔父さんがその武器と同じ物を、警備していた物達に降ろしていました!ですが、その彼等が帰ってこない状況なんです!良いですか?それだけ危険な相手です!感染者は『人間』です!誰かの親であり、子です。貴女はその『人』を殺す事が出来ますか?外に出れば、そうなる事は間違いない現状が待っています」
係員は警備している全員の精神的影響を案じていた。
そして、私がこれ以上苦しむ状況にならないように誘導していてくれていたが、そこまで気が回らなかった。
「政府から『身を守る為に武器を所持する許可』が出ていますが、あくまで魔物に対してです!人を撃てば当然『裁かれ』ます。彩姫さんは一般市民で警官では無いですから!良いですか?叔父さんはその事を把握して、より安全にな世の中を目指して武器を制圧隊に譲っていたんです!それを無駄にしないように!!」
どうやらこの係員は、康二叔父さんと面識があったようだ。
皆の前であったが、叔父さんのやっていた事が今に繋がっていると言ってくれた。
「お嬢ちゃん、アンタの叔父さんのお陰で私の家族は救われたよ!武器がまともじゃ無かったら私たちは死んでいた!政府の用意した武器を所持していた警官は、皆感染者に対応できなかったんだ!そこにここの制圧隊が来てくれた!アンタも外に出て死んじゃダメだよ!叔父さんが悲しむだろう?」
制圧隊に救助された新しい避難民が、私にそう言った。
私は颯眞と自分の居場所に帰った……しかし避難所ではやることが無く、自分の簡易ベッドに乗り武器の手入れをし始める……
政府からの緊急報告が、朝から引っ切りなしに響いている。
既に事態は深刻だが、先程は自衛隊がなんとか言っていた。
そして今は、デモ隊が感染者と鉢合わせして『生き残りはゼロ』だと言う。
周りの人間は……『感染者を風邪と言っていたくらいだから、その感染者になるんだから本望だろう!』と言っていた。
しかし後々その言葉を聞いた私でさえ後悔するとは、夢にも思っていなかった。
何もすることが無く夕暮れが過ぎた……既に時間は20時、政府の緊急会見で埋葬の候補地が云々言っている。
国民感情を考慮しての事だろう……
何故なら明け方流れた3都市での爆発的感染に続く速報では、『感染者は末期症状と診断され、全員射殺された』と報じたからだ。
異常状態が続き、都市の安全をこれ以上維持出来ないと各市長から政府が緊急連絡を貰ったそうだ。
各都市2000人も凶暴な感染者が出れば、安全など維持出来ないだろう。
警察官も自衛隊も人数など限られている。
私達でさえ、一度に複数人の感染者にターゲットにされたのだ。
後の事を考えず武器で応戦しても、多分私か颯眞のどちらかは感染初期になったか、下手すれば同じ重篤感染者になていただろう。
ちなみに今はそじょ貴重な放送を、議員の埋葬地アピール合戦で占拠中だ。
しかし埋葬地は確かに必要だ。
戦争でも無いのに多くの人が死ぬ……
場所はここから少し離れた地なので実感が湧かないが、向こうの避難所は此処よりもずっと酷いというのだから、贅沢を言わずしっかりとしないとならないと颯眞と話して、援助物資の夕飯を食べた。
電話で母の存在が確認できたのは、24時間近く経ったあとだった。
私との会話の後、電話の充電が切れてしまっていたそうだ。
母は看護師の経験があるので、避難所の看護助手を買って出てたと言う。
『私より、ずっとしっかりしているじゃ無いかさすが母親だ!』と思ってしまうが、『充電くらい気がつけ!』とも思ってしまった。
母は看護の疲れが出ていたのか、話の途中で寝てしまった。
また充電が切れないか心配だが、多分明日かけようとした時に気がつくだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
3日目早くも『周辺の安全を確保した』と自衛隊と警察の合同会見が避難所であった。
午後には自宅に帰れることが決定した。
ただし、帰宅後ウイルス検査キットを即時提出する事が『義務化』された。
それは仕方ないことだと思う……あの異常な姿を見てしまえば義務化は当然だ。
それはそうと、感染者と対峙していない周囲の避難民は、政府のことを『虐殺政府』と罵っていた。
中には制圧隊を罵る輩までいて、感染者を実際に見てその場から助けられた人と喧嘩にまでなっていた。
『あの感染者は今までと違う』と説明しても、全く理解しようとしないのだから『自分は本当に運が良く此処にいる』と自覚して欲しい……と被害者達は口を合わせて言っていた。
3日目にしてようやく私は、自宅で母と再会できた……
母の手料理を食しながら、叔父の最後を話す……3日目の夜は私も母も……父でさえも泣いていた。
叔父さんの機転が無ければ、私は感染者になっていただろう。
数分遅く叔父が連絡していたら、私達はあの店から出てしまった……
本当に間一髪だったと、夕食の時に父に言われてそう気が付いた。
私達は明日にでも叔父の遺体を引き取り葬式に……とそう話しその日は就寝した。
自宅に居るのに私は武器を手放せず、父は『寝ている時は危険だから、窓の外に銃口を向けておきなさい』と言っていた。
そう言う父も腰ベルトに『拳銃』を離せないでいた。
父も学校の門で、感染者と遭遇したそうだ。
因みに父は颯眞の親と同じ学校の教師だ。
「乗り越えて襲いくる感染者は怖かった!制圧隊が彼等を狙撃して無かったら、立て篭っていた私達は死んでいた」
と言っていたので、危機一髪だったそうだ。
因みに感染爆発が起きた3都市ではまだ状況が終息していないそうで、そちらに向かう北方には検問所が設置されていた。
只々、平穏な明日が来れば良い……と思ってしまう……
日々の日記にはそう書いて、叔父への感謝も綴った……
叔父のおかげで、明日があると感謝しかないからだ……書いている途中で私は寝落ちして、翌朝は通常の朝を迎えた……それが3日目の出来事。
登場人物
石川 武(彩姫の父)
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