2日目


 私達はパジャマ姿の患者と目が合ってしまう。


『グルルル……ガウオオオオオオオ!!』


 シャッターは特注だが、横長の鉄板は上下の間に隙間があるので中が見えてしまっていた。



「大丈夫だ!彩姫。あの窓は防弾ガラスだアイツらは入って来れない!」



「何言ってるの颯眞!!防弾ガラスだってだけで強度があるだけよ!衝撃受け続けたら破られかねないわ!アイツらが持っているのは銃じゃ無くて、鉄と石で出来た庭飾りよ!!」



 颯眞の防弾ガラス無敵説に意を唱えて、店の武器に弾を込める。



 今持って居るのはモスバーグM500……ショットガンだ。


 装弾数8発を詰め込み颯眞に渡すと、次に自分用に弾を装填する。



「入ってきたら遠慮なく撃たないとダメよ!叔父さんの仇もあるんだから!!それに……ああなりたく無いでしょう?颯眞が従兄弟でも、ああなったら私は遠慮なく頭を吹き飛ばすからね!」



 そう言って颯眞を見ると、彼は目前で泡を吹く保菌者より私の方を怖がっていた。




『そこの患者!手に持つ物を捨て、直ちに腹這いになりなさい!繰り返す!直ちに腹這いになりなさい!さも無ければ射殺する!!警告射撃後、射殺する!!繰り返す!!………』



 既に何人も襲ったのか、目の前の患者が持つ金属部位や石の部分にはベットリと血糊がついている。



 患者が『ゴゲ……グルルル……ガウオオオ』と叫ぶと、警官に向けて走り出していく。


 すると横から警官の一斉射撃を受け、そこに居た3人の患者が蜂の巣になる。




「助かった?……警察だ……あの装備は箱山部隊の制圧隊だ……まさか……本当に射殺するとは……」



 颯眞がそう言うので、彼等が持っていた鉄製の庭飾りを指さす……


「アレを見なさいよ……あの血の量からして襲われた人は間違い無く死んでるわ……運がよくても重体よ?」


 円盤状の鉄製飾りからアスファルトに滴る血は決して少なくどなかった。



 私達は箱山部隊と呼ばれる特殊部隊に助けられて、避難所まで向かう事になった。



 私は銃砲店に鍵をして、炎熱セキュリティーを起動する。


 異世界の産物はセキュリティーに最適で、セキュリティーキー無しで泥棒が店の中に入ろうとすれば灰になるまで焼かれる事だろう。



 私は銃砲店のショットガンを持ち予備の弾100発を鞄に詰めてから、制圧隊が用意したトラックに乗り込む。



「お嬢ちゃん……俺は康二の同級生で幼馴染の横山って言う者だが……彩姫ちゃんだよな?康二の従姉妹の?彼は残念ながら、ウイルス感染した暴漢に襲われて亡くなった……最後に誰かと話していた様だが……非常に残念だ」



「グス……叔父さんと最後に話していたのは私です……最後に店に籠り安全になる迄そこに居ろって……自分は噛まれてもう意識がって言ってました……レイジ・ウイルスが進化したって言ってましたが……本当なんですか?」



「そうか……最後の電話は君だったか……そうだ、ウイルスは間違い無く最悪な方に進化をした。僕達は彼を助けに向かったが既に遅く……多くのレイジ保菌者に噛まれていた。彼の遺体は見ないほうがいい……生前を知っている君には酷だから」



 そう言った彼は、自分の自己紹介兼ねて色々教えてくれた。


 叔父さんは武器を調達すると、一番危険な任務をこなす制圧隊に一番に打診するそうだ。



 保菌者と対峙する制圧隊は、時には対象を射殺しなければならない為に皆から嫌がられた。


 しかし末期の保菌者を放置すれば、彼らは自分が死ぬまで周りを襲い続けるのだ。



 その保菌者と接触してしまえば、次は自分が感染する……そんな危険な仕事なのに皆から疎まれていた。


 ちなみに保菌者を隔離もしくは処理するのは、安全防護服に身を包んだ特別隊の役目だ。



 その防護服も、使用後は即焼却処分の対象になるくらい危険な任務だ。



「まぁ君もわかっていると思うが、僕達は掃除屋と呼ばれている。要は嫌われ者さ。だが彼はそんな僕達を支えてくれる大切な専門業者だったんだ。彼の様な人間がいなければ武器もまともに揃えられない。国からの支給は型落ち装備だからね!銃砲店あっての僕らさ!だから君の叔父は、誰がなんと言っても僕達には偉大な人だった」



 彼がそう言うと、周りにいた兵士の全員が私に向かって敬礼をしてくれた。


 私と颯眞が避難所に着くとそこはごった返す場所だった。


 保菌者と以前にも接触があった人はA宿舎、なかった人はB宿舎と明確に分けられ、それが原因で喧嘩も所々であった。



 B宿舎に回された私達は非常食を受け取って、其々に充てがわれた簡易ベッドに案内された。


 間仕切りは布で、真横が颯眞と言う……プライバシーのかけらも無い場所だった。



 母が来て無いかあちこち探すが、見つからなかった。


 制圧隊に聞いて調べてもらうと、居るのはこの避難所では無くB住宅街避難所だと言う……


 今居る此処はC地区避難所と呼ばれている様で、商業地区の人間が集まっている様だ



 B避難所は主に住宅街の人間が集まっているそうだ。


 母親が居るので翌日B地区へ向かいたいと受付に言うと、外の状況を見てじゃ無いと許可はできないと言う。



 避難所に連絡手段はなく、魔石電話を使ってみるが避難所地区に移動している筈なのに母からの応答はなかった……



 既に時間は22:00を過ぎていた。


 颯眞と与えられた非常食を食べて、歯を磨いてから就寝する。




 私はその日の事は忘れない……避難所に予想して無い人数の保菌者を知らせる緊急連絡が流れたからだ。



『緊急連絡!緊急連絡!北上都市、本庄赤羽都市、目白山都市にて各2000名を超える保菌者の報告がありました!ご家族がお住まいの方、外は大変危険です。ご家族様には家から出ない様にご連絡をお願いいたします……繰り返します……』



『ざわざわ…………ざわざわ………』



「聞いたか?彩姫……2000人の保菌者って………2000人だぞ?どの都市も車で2時間位だぞ!?此処も危険じゃ無いか?即隔離しないとだよ!」



「合計したら6000人よ?病院は?って言うか……そんな大勢何処に隔離するのよ?アイツらは家の扉を壊して入って来るのよ?叔父さんの件で知ってるわよね?」



「マジで大丈夫かな?そんな大勢襲ってきたら……此処に来るまでにもっと増えるぜ?」



 明け方に叩き起こされた私達は、昨日の事を思い出して怖くなっていた。



 ラボで起きた事故で保菌者となった研究員6名が車を使い逃走、深夜に行き着いた先の都市で感染が拡大した。


 そして明け方にはその都市の3つで、被害者が6000人を超えた。



 深夜に研究員が街に着いたせいで、被害は拡大した様だ。


 住民は寝静まっていたこともあり、次から次と襲われたと言う。



 その事件発覚後、同日8時に対象地区には完全自宅待機の発布。


 12時に自衛隊派遣要請が出て16時に再三の注意喚起の末、自制の聞かない襲い来る保菌者の全ては射殺された。



 因みに13:30に自宅待機を守らなかった住民が複数反発行動に出たが、デモ中に保菌者の群れに襲われ皆咬み殺されたと報じられた。


 レイジウイルスは既に暴力の域が『殺戮集団』にまで変わっていた……



 同日20時に政府は『緊急会議』で『集合墓地』を設立し、今回の葬いは国の葬儀とすると発表。


 候補地は被害者と話し合いの上、埋葬の為に数日中で決定すると報じた。



 ちなみに季節は『夏』だった為、フル回転で火葬場を使ったが間に合うはずが無かった。



 葬式の業者にも限りがあり、日取りの目処も立たず多くの家族が満足に葬式も出せなかった。


 そのせいで、仕方無く土葬になる家族が続出する事になる。



 恨み辛みはラボに向いたが、ラボの関係者はそもそも悪くなど無い……悪いのはラボを襲った奴らだ。



 その上、急いで現場に駆けつけた研究員全員が保菌者となって我を失い、全員が射殺されていた。


 そのせいで、この事件の本当の事を語れる者は誰も居なくなってしまった。



 当然だが、我々はこのウイルスについて何も知らなかった……


 何故ならばラボで何のウイルスがどう混ざったのか、そして変異はどうなったのか……調べるには数時間では無理だからだ。



 そして国葬地は3都市の中間にある『中山寺都市』が受け持つ事になった。


 政治家のアピール合戦でこの都市の市長が、遺族の人気を集めて獲得した。



 眺めの良い場所に埋葬地を作ったが、街からも近い場所だった。


 この都市の人口は『1,423,891』人で、特産物の『中山メロン』が有名な為、この都市の名前を知っている人間が多かった……



 この都市の市長もウイルスの本当の脅威を知っていれば、自分の足元に墓地など立てなかっただろう……






地域名


北上都市 『特産物・餃子』

本庄赤羽都市 『特産物・梨』

目白山都市 『特産物・目白牛』

中山寺都市 『中山メロン』 人口は『1,423,891』人


登場人物


石川 康二 彩姫の叔父

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