1日目


 私は予定外の出勤で仕事をしていた。


 都市封鎖されていても、しっかり仕事がある場所がある。


 休むこともできない職場なら、出ざるを得ないのだ。



 私の職場は『銃砲管理店』と言う店で、2030年に日本でも銃の所持が解禁された。


 理由は簡単で、異世界に居る魔物の流入が激しいからだ。



 身を守る武器は国で管理されていて、武器を扱う店舗は『20時までは原則店を閉めてはならない』となってしまった。



 それもこれも、異世界から爆発的に流入が増えている魔物のせいだ。


 警察などに任せていたら、場合によってはライカンスロープやフォレストウルフやゴブリンに噛まれて餌になってしまう。



 政府は異世界への渡航をウイルスの為に禁止している。


 私は武器の入手と管理で、予定時刻を3分過ぎて渡り損ねてしまった。


 カップ麺の時間程度だから融通を!と言ったが、異世界転移の為に安全を確認でき無いからダメだと言われてしまった。



 東京で今流れている噂では向こうでは『魔力結界』でウイルス対策をしていると言う。


 だから向こうへ逃げる人も多く、政府関係者も要人は向こうに居る事が多い。



「なぁ彩姫タイムカード押すぞ?」



 そう私を呼ぶ声がした。



「あ!うん!颯眞くんよろしく!……そういえば仕事の最中に警察車両が通り向こうのラボに向かったけど事故かな?だったら困るな……」



 私はそう言って窓から外を見る。


 警察車両が通り過ぎてから既に5時間は経っている。



「さっきやってたぞ?ラボに侵入したんだとさ!警備員もグルだってよ!今日はニュースを見た限り色々事件があるからな!」



 颯眞がそう言うので、数時間前の事件を思い出した。



「ああ!なんか凄い事になってたね!救急車もあの後多くラボに行ったって言ってたよ。さらに病院内で事故があって新しいウイルス株の可能性とか言ってたよ?」



 そう言って、帰る支度をしていたにもかかわらずテレビをつける……



『ニュースを読み上げます!!緊急事態警報!緊急事態警報!これはテストではありません!現在東京都立ウイルス対策病院では、新型ウイルスの院内感染が確認されております。この病院は現時点を持って閉鎖となりました。病院内部は感染率120%との事です。ご家族御親類が居ても絶対に近寄ら無いで下さい!繰り返します………』



 緊急ニュースのアナウンサーが緊急事態速報を流していたので、私と颯眞はそれに見入る。



「マジかよ!あの病院……ラボに居た奴が運ばれたってさっきやってたぜ?絶対それじゃん!!」



 颯眞のそのセリフに私も驚きが隠せ無い。


「でもさ……120%の感染率てなんだろうね?」



 私が颯眞に聞くと、彼は


「患者だけじゃ無く医師もって事だって話だよ?医師は病院内の感染のそれに含まれ無いって計算で、医師が感染した場合に使われる特別用語って事でこの間決まったって言ってた!ニュースのままだけど!」


 私以上にニュースに興味があるのか、颯眞は細かいところまで覚えていた。



『ジリリリ!!ジリリリ!!』



「「うぉぉぉ!びびった!!」」



 突然鳴り響く『魔石電話』に私達はびっくりした。



 魔石電話は携帯電話の内部の魔石を使った特殊な電話で、魔石を通じて離せるので電波を必要としなくなった新電話だ。


 ちなみに固定電話と携帯電話の両方があり、魔力を充填すればいつでも使える優れものだ。


 私は電話を取る。



 留守電にする前だったので、出るしかないからだ。



「ハイ!有難う御座います!石川銃砲店、販売担当の彩姫です」



「く………彩姫か!」



「あれ?叔父さん?ちゃんと今日の営業は終了いたしましたよ?今留守電にするところです!」



 電話の主は私の叔父だった。



「いいか!よく聞け、俺の家を知っているよな?あの東京都立ウイルス対策病院から僅かな場所だって!」



 叔父さんの声は何やら慌てて居るが、私は帰りたくて仕方がなかった。



「まさか……そっちによって帰れて事ですか?明日にしてくださいよ!どうせ新型の銃を仕入れる相談でしょう?」



 私はぶっきらぼうに、おじさんにそう話す。



「いいから聞け!!」



 叔父さんは声を荒げつつ、大声で怒りながら話を続ける……



「良いか?今すぐ店のドア全てに鍵をして、内側シャッターを下ろすんだ!武器全てに弾を込めろ!そして同級生の颯眞くんとそこに立て篭れ!外に出たら死ぬぞ!!良いか?俺はもうダメだ!噛まれちまった!」



『バギバギ……ドガン……ガランガラン…………』



「くそう!ドアが破られちまう!いいな?シャッターを下ろせ!武器を持てるだけ持て、非常食は地下のシェルターだ!!絶対に外に出るな!!いいな外はダメだ!………」



「叔父さん!?ちょっと!!」



「新ウイルスだ!それに感染した患者が暴れてやがる!素手で病院のガラスを破り外に出てきやがる!警察も出てるが全滅だ。即効性のウイルスに変異してやがる!!噛まれて感染するとあっという間だ!俺ももう……意識が……良いか?外だけはダメだ!安全になるまで……」



『パン!!パンパン!!パンパン!!パン!!』



「叔父さん!?叔父さん!?」



「彩姫!?今の……銃声だよな?なんで?叔父さん撃たれたのか?なんで!?」



「私に聞かれてもわかん無いよ!!あのラボに居た人が原因かも……噛まれたらなんとか……そんな全部覚えられ無いよ!あ!シャッター!!シャッター!と鍵!それと銃!」


 私は颯眞と一緒に銃砲店の室内シャッターを下ろす。



 基本的に銃砲店でシャッターを下ろす時は、都市で異常が起きた時以外は認められない。


 しかし叔父が『保菌者に噛まれた』そして多分『保菌者になった警官に撃たれた』のだ。



 こうなった場合異常でしかない。


 経営者の叔父が電話の先で死んだ上に、その病院事態目と鼻の先だ。



 自転車で向かえば40分位で着いてしまう。



 警察官でさえ既にレイジ・ウイルスに侵されたのだ。


 病院内にどれだけ人がいて、さらに警察がどれだけ出てきたかわからない。



 その警官全てが保菌者になっていたら最悪だ。



 銃砲店のガラスは全面防弾ガラスで、室内のシャッターも異世界鉱石で作った特注品だ。


 そうそう破られる事はない。



 それに比べて外にいた場合は、警察官が銃で撃ってくれば待って居るのは死で間違いないだろう。



「家族に電話!家から出ない様に言わないと!」



「ヤベェよ俺の家族……公立高校で教師やってんだよ!今日から学校閉鎖だって言うけど、宿直で学校だよ!」



 私は颯眞に親の携帯にかけ続けろと言うと、自分の携帯で家族へ電話する。



「ママ!?ママ!」



「はいもしもし?あらどうしたの?さいちゃん?今から帰ってくるの?叔父さんから電話あったんだけど、出られなくって!電話かけても通話中なのよね!」



「叔父さんが!叔父さんが!!」



「ちょっと!どうしたの?泣いて居るの?叔父さんがどうしたの?落ち着いて!!」



「聞いてママ!!今は落ち着いてられないの!今さっき……叔父さんが死んだわ!ウイルスの新種株が原因よ!いい!ママよく聞いて、家のドアに鍵をかけてすぐに外から人が入って来れないようにして!!保菌者がドアを破って入ってくるから!!」



「何!?聴こえないわ?今家の外で緊急事態速報の車が停まってて煩いのよ!!え?なに?」



「ママ!家のドアに鍵をかけて立て籠って!!」



 そう言っている最中に電話が切れて決まった……


 電話を見ると、充電が切れていた……急いで魔力を込めて充電する。


 少し前まで暇を持て余し、携帯で友人へメーセージを送っていた自分が憎らしい。



 そしてそのメッセージの事で『その友人にも連絡しないと!』と思い出す……



「もう!急いでよ!!充電魔力!!」



 そう言ってふと窓の外を見ると、目が血走ったパジャマ姿のどう見ての病人が口から泡を吹いて、こっちを睨んでいた……

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