屍枚目

 どうして、とはもはやいいますまい。


 私はこれから、死にます。ここまでは遺書ではありません。

 ここからが私の遺書になります。他ならぬあなたに当てた遺書になります。


 これはこういうことを意味します。この手紙はここまであなたが読むことによってはじめて遺書になったのです。わたしが亡くなって遺書をあなたが拾ったわけではありません。ここまで読んでしまったあなたがいたから、わたしは亡くなる。そして、手紙は遺書となるのです。


 あなたがこの手紙を読むまえ。もっとはやくにほんの少しわたしの話に耳をかたむけてさえくれていたら、わたしは死なずにすみました。あなたが私を殺したのです。あなたがわたしを殺した。おまえがわたしを殺した。


 あなたはいまごろどこか安全なところで、

「ようやく登場人物が死ぬぞ、物語が動きはじめる」と嗤っておられるかもしれません。物語は動きません。これで御仕舞いです。


 あなたがわたしを殺したのです。わたしは何度も何度も警告しました。あなたにわたしのような思いをしてほしくなかったから。でも、あなたは無視をしたのです。わたしのいうことを聞き入れず、わたしを殺したのです。


 とうぜん、わたしはあなたを赦さない。


 わたしの命をいっぽうの天秤にのせてもういっぽうにあなたはなにを奉げられるのでしょう。あなたはどのように赦されようとするのでしょうか。これからわたしはあなたをいつまでも見つめています。

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呪いの手紙 はちやゆう @hachiyau

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