実力の証明
『最強の魔法使い』『指導者狩り』『完全な狩猟術』『究極の体現者』『理想の狩人』……数々の異名と輝く流星のようにいくつもの伝説をすでに打ち立てた若き狩人が決闘するらしいという噂は伝わり、野次馬たちは静かに練兵場を見下ろせる廊下に集まりはじめていた。
シュトラウトがベルトを締めなおし宝剣を腰にさげ準備を完了すると、その男はあらわれた。練兵場のみながアンナとキサラギが連れてきた、その青年の姿に刮目した。
「アーカム・アルドレアだ……」
「本当にいたのか」
「まじで本部にきていたか」
「絶滅指導者を滅殺した狩人……あんなに若いのか? 嘘だろ?」
「すげえ、本物だよ、ほかのやつも呼んでこい。めったに見られないぞ」
噂ばかりで本部の狩人はだれもその姿を見たことがなかった、あつかいは幻の生物と同格だ。
シュトラウトはざわめきのなかで、アーカムのまとう歴戦の猛者の雰囲気にのまれそうになってきた。数多くの死線をくぐりぬけてきたからこそ宿る覇気は、得ようと思って得られるものではない。あるいは周囲があの男に向ける視線と期待が、必要以上にかれの存在感を盛り立てているのか。
「それで決闘ってなんですか」
アーカムが穏やかな声でアンナにたずねる。
アンナはシュトラウトを見やり「アーカムが最強ってこと教えてやってほしい」と厄介信者丸出しの弁舌でアーカムにお願いする。
「本部に舐められないようにガツンとさ」
「アンナ、ガツンとさじゃなくてですね、トラブルを起こすなってアヴォン先生に──」
「アーカム・アルドレア!」
シュトラウトが腹から声をだして名を呼ぶと、アーカムはのっそりと赤い瞳を向けてくる。視線でいぬかれるだけで、のどが渇き、変な汗が沸いてきたが。シュトラウトはそれを心地よいと感じ、高揚感ととらえた。
「あんた本当に強いのか、気になってる。たぶんみんな。俺とひとつ手合わせしてくれよ」
シュトラウトはそういうなり、宝剣を抜いた。
風と水の魔力が波をたてて、彼のまわりに反響する。
アーカムは目を細め「魔術剣士……か」とつぶやいた。
「珍しい。二重属性ですか」
「俺のこと覚えてねえのかよ……」
シュトラウトは苛立ちを感じながら、ゆっくりと構えをとる。
アーカムはなにもない空間へ手を伸ばし、中杖をとりだす。
(アヴォン先生に面倒ごと起こすなって言われてる。手早く済ませよう)
「いくぞ、水と風の魔力よ、いま呼び声に応じ──」
「《アルト・アブソリュートゼロ》」
杖をゆるく構え、アーカムはパチンっと指を鳴らした。
魔力感覚のあるものは高濃度の魔力がうねり、現象を結んだことを察知した。
シュトラウトはハッとして回避しようとするが、アーカム・アルドレアの速攻を避けられるはずもない。刹那のうちに、足元から凍てついた氷に襲われ、剣を構えた姿勢のまま、彼は氷のなかに封印されてしまった。
「アルドレアの氷魔術か……」
「早いとは聞いてたが」
「……。はやすぎるな。もはや人の身では避けきれまい」
噂でのみ伝え聞いていた逸話が本当だったと知ってみんな興奮していた。
練兵場に野次馬していた狩人たちは、絶滅指導者を倒す狩人というのがどういう狩人なのか、その驚異の力の一端を目撃し、愉快げにするのだった。
その恐るべき力が自分たちの仲間であり、伝説の証明であり、怪物たちの悪夢となり、敵を屠るのだ。味方が頼もしいなんて、これほど面白いことはない。
「アンナ、キサラギちゃん、もう行きますよ。今度から探検は禁止にします」
「クーン、とキサラギは兄様の処罰に憐憫で抵抗します」
「もっとけちょんけちょんにしてほしかった。氷漬けなんて優しすぎるよ」
「文句言わないで。トラブルはあと処理が大変なんですから」
アーカムは二人を連れて、そうそうに練兵場を去っていった。
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