王都エールデンフォート入り

 ━━5日後

 

 俺とアンナとキサラギはヨルプウィスト人間国首都エールデンフォート入りした。

 エールデンフォートは大陸でもっとも栄えている都市だ。

 そして最も古い都市でもある。

 古の時代から幾度となく建て替えされ、時の王によって区画の整備がなされたのだろう、街並みは計画的に網目状に広がる道路が一部に見られる。

 この都市は1,000年以上のずっと昔から、脈々と人の文化を生み出し続け、伝え続け、だからこそ古い建築様式を受け継ぐ建物と、新しい背の高い建物が共存して風景を作っている。


「すごい都会だ」

「兄様、ミニJapaneseKawaiiを設置してきます」

「はい、いってらっしゃいキサラギちゃん」


 キサラギは通信帯域を拡張するためにミニJapaneseKawaiiをとりあえず設置したがる。小さな通信基地の力があれば、キサラギのスーパーシステムが使える。あと通信が強化される。壁や地面を挟んでも綺麗に声が聞こえるようになる。

 帝都ではさして活躍しなかったミニだが、その意味はある。

 ちなみに設置の仕方になかなか工夫が必要で、地形に合わせて最小の個数を最適に配置するのが楽しいらしい。


「ミニ置くの? 何と戦うわけでもないのに」

「好きにさせてあげましょうう。わざわざ禁止することでもないですし」

「怪しいことしてたら狩人にしょっ引かれるんじゃない」

「大丈夫ですよ、キサラギちゃんは頭がいいですから、なんとでもします。俺たちの名前を出せばいきなりしばかれることもないはずですから」


 キサラギには十分ま指導がなされている。

 もうひとりでおでかけしても大丈夫なくらいにしっかり者なのだ。


 ブラックコフィンを背負ってトコトコ去っていくキサラギを見送り、俺たちは宿屋にキングとバニクを預けた。商人や稼ぎのいい冒険者が使うような高級宿だ。盗まれる心配もあるまい。ただ血族の終わりだけは収納空間にしまっておく。万が一にも失われたら大変だ。魔力消費が多少増えるが、背に腹はかえられない。


「まだ協会行かなくてもいいよね」

「日にちの指定があるわけじゃないですから。何かしたいことでも?」

「観光」

「なるほど。悪くないアイディアですね。でも、その前に魔術協会で講演の予約をですね」

「それもやろう。あとお腹も空いた。美味しいもの食べようよ」


 はしゃぐアンナに振り回され、俺はエールデンフォートを満喫した。

 著名な聖堂や、時計塔、おいしいレストランをまわり、噴水広場で演奏聞いたり、絵描きに似顔絵を描いてもらったり……後で気づいたがこれ多分デートってやつだと思う。

 

 オシャレな街並みで観光を楽しんだあとは、魔術協会に立ち寄り、講演会を取り付けたり、大きな書店へ足を運び、サイン会の相談などもしれっとしておく。

 すぐに決まる話ではないが、なるべく早く「アーカム・アルドレア、この街にいますよ」というのを関係者に伝えておいたほうが、物事はスムーズに運ぶ。


「サイン会に人なんて来るの。アンナザウルスなんて本のために」

「失礼な、アンナザウルスシリーズは世界的な大ヒットしてるのに」


 この都市にも俺のファンがいることは間違いない。せっかく大都市まで来たので、狩人の仕事以外のことも、しっかりと進めさせてもらおう。


「紙と魔力結晶の販路もすこし見ておきたいですね。せっかくなら」

「アーカムの用事のほうが時間喰ってない?」


 ━━3日後


 エールデンフォートに到着した3日後の朝。

 ちゅんちゅん鳴く鳥の声で目覚めた。

 

 視線を横に向けるとアンナがすやすや眠っていた。

 白いシーツにくびれた身体の輪郭が浮かびあがっている。えっちだ。

 思わずちょっと触れたくなり、シーツからこぼれている豊かな谷間に手を差し込んで、温かさとか、柔らかさとかを感じる。楽しい。女の子のお胸は見てるだけでも楽しいのに、触るともっと楽しい。不思議だなぁ。


 次第に揉んだりして遊びたくなり、本能のままにしていると、ふと梅色の瞳が開いていることに気づく。急いで手を離し「あっごめん、つい」と謝るも時すでに遅し、眠れる獅子を起こした対価として、昨夜の続きをすることになり、夜のアンナザウルスに続き、朝のアンナザウルスにいいように食べられてしまった。


 アンナザウルスはいつだって凶暴だ。

 無闇に彼女の本能を刺激してはならない。


 昼過ぎ、アンナに喰い散らかされて疲れ切った俺は、ひとりゆっくりお風呂に入っていたところを、再びアンナに喰い散らかされてしまい、もはや精根尽き果てたような状態で、俺たちは狩人協会本部に足へ向けた。喰い散らかされすぎ。


「アンナ、凶暴すぎますよ……」

「ゲンゼに守るって約束しちゃったからね。アーカムが他の女にホイホイされないように先に精力を搾り取っておかないと」

「どんな対策ですか、死人でますよ」


 宿を後にしやってきたのは大きな壁に囲まれた建物の門だ。

 長大な赤茶けたレンガ作りの建物には、賢そうな若者たちの往来が見られる。


「ゴルディモア王立魔法大学。来るのは初めてですね」


 狩人協会本部の隠れ蓑、あるいは地上部と言うべきか。

 我ながらちょっと緊張した。狩人協会本部に来るのは初めてだ。

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