侵入方法
おそらく闇の魔術師だろうと思われる者たちが巣に帰ったと報告を受ける。動き出すタイミングだ。
我が小狼、予備で召喚しておいた狼含めて全40匹、見事に尾行任務を完遂し、進化論者たちのアジトと思われる施設を突き止めらしいた。俺とアンナは暗くなった通りを黒い外套に身をつつみ、お目当ての施設までやってくる。
施設の向かい通りの路地でしげしげと観察をする。
「本当にあそこなの」
「間違いないです。狼たちみんなあの施設の庭で待ってます」
「あそこ学校だけど」
ホブウィット大帝国神秘学院の威厳ある正面門がそびえる。白い歯をのぞかせたような3つの月のしたに威容を讃え、谷あいから溢れる怪しげな霧に包まれるさまは踏み込んではいけない秘密を隠しているように見えた。
「立派な門の向こうは帝国が管理する魔法学校敷地です。侵入者として見つかると面倒ですね」
「治安維持の兵士なんてどうとでもなるよ。帝国剣王ノ会がいきなり出向いてくるわけでもないでしょ」
ある意味では帝国剣王ノ会を呼ぶのはありだ。
彼らの懐にヤバい奴らが潜んでいることを警告するという意味では。
しかし、闇の魔術師たちが揃ってホブウィットの門を跨いでいるのは驚いた。
ホブウィットは闇の魔術師に対してはしっかりとした対応をしている。以前、この学校からウィーブル学派と呼ばれる魔術師の一派が離脱したのは、ホブウィットが彼らを排斥したことが発端だ。ホブウィットは秩序側にいるはずだが……闇の魔術師と関わりがあるのだろうか? これ以上は推測していても仕方ない。実際に踏み込んで調べてみるか。
「どう侵入する。門前に衛兵がいるけど。ヤル?」
ヤル? じゃないのよ。こんなところでやっちゃいけません。
「スニーキング任務です。極力、痕跡は残したくないです」
俺たちの任務はあくまで調査だ。
ただ、俺とアンナ━━協会内でおそらく上位の武力をもつコンビ━━を送り込んでいる時点で武力行使を想定には入れているだろうが、それでも情報を持ち帰ってもらわないと協会も困る。暴力は必要な時しか使うべきではない。
立地を考える。
ホブウィットは深い谷底を背面にもっている。
要塞としてみれば背後から攻められる心配を持たない。
「谷から行きましょう」
「わかった」
俺とアンナは学校を迂回して谷の縁に作られた公園へやってきた。
夜の公園は寂しげで、人影などひとつもない。
公園の端、谷を一望できる迫り出した部分にやってくる。手すり寄りかかり、真右をみればホブウィット大帝国神秘学院の横顔が遠くに見えた。
「高いね。下まで何メートル?」
アンナは手すりから身を乗り出し、谷底からふきあげる風に髪を揺らしながら聞いてきた。
「測った人間はいません」
「じゃあ測ってよ」
「……」
魔力で水のボールを作り、谷へ放り投げる。
「わかった。帰ってくる音で深さを測るんだ」
「へえ、面白い推理ですね」
「アーカムが前、なんかでやってた」
洞窟の深さを測ったときのやつか。
「流石はアンナ」
「ふふん」
「残念ながら違います。この高さだと多分、音は帰ってこないです。水を投げたのは直感の触媒です。情報量が増えるだけ燃費が良くなるので」
何秒待っても水の落ちる音は帰ってこなかった。
「僕の足元でたぶん543mですかね」
「多分じゃないでしょ」
「わかりませんよ。ただの勘なので」
「アーカム、雲が」
「ちょうどいいタイミングです。行きますか」
今夜は月明かりが少し強めだ。これからすることを谷の向こう側の人間に仮に目撃されたりすると、そこから俺たちの足が着くかもしれない。なので厚い雲が3つの月明かりを隠すのを適当に待っていた。
「お先にどうぞ」
「うん」
アンナはピョンっと手すりを飛び降りた。
相棒の自由落下を手すりに寄りかかって眺める。
谷側からの侵入。普通の人間には不可能だが、俺たちには可能だ。
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