ゲオニエス飯

「何か食事を取りませんか。初のゲオニエス飯です」


 長旅で腹が減った。都の美味い飯を食おう。


「いいと思う。アーカム最強話をこの帝都の奴らに言い聞かせる」

「それは本当にやめてください」


 宿屋を適当に見つけ、キングとバニクを預けておく。馬屋係が優しそうなおじいさんで安心だ。ついでにチップとして銀貨を一枚握らせておくのがトラブルを避けるのに有効だ。この2年、いろんな場所へ出かけた経験から学んだ。


 高級レストランへと足を運ぶ。気品ある格好をした貴族やら、商人たちの往来の多い、街並みのなかに堂々と建っている店だ。旅先でのグルメは主要な楽しみのひとつ、大陸屈指の大都市、貴族たちが食す店で、どんなグルメがある食べられているのか。ワクワクしながらメニューを開く。

 我が目を疑った。上品な銀食器の器に映っていたのは……ラーメンだった。何度瞬きをしようと事実は覆らない。アンナは「美味しそう」と迷いなく2人前を注文する。


 給仕の手でラーメンが運ばれてくる。目の前に来てもラーメンだ。

 給仕の男性は「ゲオニエス伝統料理でございます」と、ラーメンについて説明してくれた。食べ方についても。帝国の老舗では伝統にならって箸を使って食事をすることが気品あることだという。

 満を辞して口へ運ぶ。ちゅるちゅるとした喉越し。コシのある麺、スープは辛味が強く、ちょっと味が濃すぎる気がしたが、なかなか癖になりそうだ。

 肉を食べてみよう。これはチャーシューではないな。豚でもない、牛だ。普通にステーキが乗っている。黒胡椒をふんだんに塗された肉だ。これまで生きてきて高い料理もたくさん食べてきたので知っている。香辛料をどれだけ贅沢に使うかが肉料理の値段であり、同時に高級かどうかのステータスだ。なので俺はあんまり好きじゃあないが、別に不味くはない。というか普通に旨い。


 総じて地球のラーメンとは微妙に違うが、ほとんどラーメンに違いない。


「まさかラーメンを食えるとは……」


 向かいの先を見やれば、アンナも満足そうにもぐもぐしてる。

 満足な食事を終えると、デザートタイムだ。コース料理ラストを給仕が運んでくるのを待っていると、ふと、アンナの視線が壁に向いた。


「あれ誰だろう」


 肖像画が壁にかかっている。

 荒野のなかで刀を握りしめ、人々を導くような姿が描かれている。


「マグナライラス・ゲオニエス、記録上最古の皇帝であり、一代で国を築きあげた偉人と言われてます」

「聞いたことない名前。直感使った?」

「元から知ってましたよ。ただマイナーではありますね。二代皇帝の方が有名ですから」


 話によれば剣術の最大流派”剣聖流”の前身”帝国剣術”の開祖と言われている。ゲオニエス帝国はヨルプウィスト人間国と並んで、最も古い国々のうちのひとつであり、剣とともにあった国と言われる。

 この地は、かつては魑魅魍魎が跋扈する怪物の土地であり、人間たちは弱く、小さな集落を点在させて細々と生きていた。怪物たちがその気になれば、抵抗することはできず、ただ蹂躙されるがまま……ある時、ひとりの辺境の村に生まれた男が、そんな状況を嘆き立ち上がったという。


 その男こそ、マグナライラス・ゲオニエス。

 まあ古い話だし、やたらヒロイックなのでどこまで本当かはわからない。俺も狩人協会が保管している古い蔵書を読み漁っていた時期に読んで「へー、そうなんだー」と思ったくらいで済ませている。

 動乱の時代にゲオニエス帝国が築かれて1,000年、侵略が大好きな不良国家としての側面を持ち、一時は落ち着きを見せたわけだが……今はまたよくない雰囲気を持ち始めている。


 表向きには魔法王国への間接的な侵略、裏向きには進化論者たちとのつながり……俺の勘が囁いている、ここには悪意が隠れていると。


「デザートです」


 給仕が丁寧に真っ白ふわふわのデザートを配膳してくれる。

 これを食べ終われば仕事をはじめなければならない。狩人の暗い仕事を。

 束の間の平穏、俺とアンナは噛み締めるようにショートケーキの甘みに舌鼓を打った。旨すぎる。しかし、このコースメニュー……胃もたれするな。

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