帝都入り

 新暦3065年 春三月

 

 魔法王国ローレシア、クルクマ村から霊馬グランドウーマを走らせること5日、俺と同行者たちはゲオニエス帝国の都にやってきた。

 地質学的に大地に亀裂が生まれやすいらしく、同時にその亀裂は天然の要塞としての側面を持つために、帝国の都市は谷あいに築かれていることが多いらしい。ゲオニエス帝国最大の都市、帝都ゲオニエスも例に漏れず、深い渓谷に築かれていた。

 古い時代に名匠たちが手がけた価値ある建築物が今も数多く残り、旧時代の古き良き伝統と最先端が融合した街並みが広がる。深い谷底は濃霧が沈殿し、その深さを知ることは叶わない。濃霧より何百本もの高塔が突き出し、それぞれに空中橋が架けられ、複雑に入り組んでいる。訪れた旅人に、この土地で発展してきた特異な建築技術の威力を見せつけるかのようだ。


「帝都、聞いてはいましたけど、すごい場所ですね」

「ワクワク」


 アンナもワクワクしてます。


「ところで、キサラギはどうしてるの。あの子も来る予定じゃなかった」

「キサラギちゃんは別行動です。装備の待機場所とか通信帯域を補強するための設備とか……まあ初めての土地なので下準備が必要なんですよ」


 今回のメンバーは3名だ。霊馬のキング&バニクも数えれば5名と言えるか。


「狩人協会いわく、僕たち以外にもメンバーを送り込んでるらしいです。そちらにも似たような任務を与えてるらしいですけど、向こうは僕たちのこと知りません」

「連携取れないじゃん」

「連携必要ですか」


 アンナは首を横に振る。


「作戦の都合上、僕は向こうの存在を知らされてますけど、まあ別に接触する必要はないかなって連中です」

「知り合いなの」

「存在は認知してますよ、アンナも」


 狩人協会は現場の人間に必要以上の情報を語らない。

 作戦の最小単位は1名、最大でも4名程度だ。討伐作戦などの例外はあるが、ゲオニエス帝国のような狩人協会に反対的な姿勢を見せている場所での調査任務では、大人数で連携は取らせない。

 誰かが捕まり、情報を抜かれた場合、作戦が筒抜けになる可能性があるからだ。ただ、より重要度の高い任務を与えられている側は、別働隊の存在を教えられることがあるが。今回のように。


 そんなものだから、”上位”や”下位”と言う言葉が生まれる。

 上位は知らされる者。下位は知らされない者だ。

 もちろん下位は下位であることを知らされない。なお、上位側は状況に応じて、下位を自分たちの作戦に組み込むかを選択するよう裁量権を渡される。


 今回は下位を使う予定はない。

 もしかしたら協力を要請するかもしれないが。


「さて、どこから手をつけますか」


 広大な帝都。

 進化論者たちについて調べるにしても足がかりが欲しいところだ。

 

「帝国剣王ノ会だっけ、帝国の英雄組織」

「ええ、そうですよ」

「誰か拉致して尋問しよう。あたしたちよりこの国の暗闇に詳しいはずだよ」

「隠密任務ですよ」

「目撃者を全員倒せばいいよ」


 とりあえず、アンナから目を離さないようにしようと思った。

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