帝国派遣
ゲイルは人使いが荒い。
今回のは特にそう思う。
「いきなりゲオニエスへ行けって言われても困ります。説明を」
「ドフィリア医師が有益な情報をもたらした」
ドフィリア医師、教導地区で人造怪物をつくっていた碌でもない闇の魔術師だ。
「君たちは進化論者という言葉に聞き覚えはあるか」
「いえ、まったく」
「人造怪物の作成技術が近年、勢いを増している。闇の魔術師を中心に人造怪物、魔獣シリーズの使用が目立っている」
「言われてみれば確かに」
闇の魔術師どもはやたら魔獣を繰り出してくるとは思っていた。
「進化論者は魔獣の大元だ。冒涜的な実験を繰り返し、自分達の手で怪物を作り出すことに成功しているようだ。君がかつて戦ったという人造厄災オブスクーラもその末端だろう」
「11年前にジョブレス王女の暗殺未遂に使われたのもそうなのでしょうね」
「そう見ていいだろう。しかし、闇の魔術師たちはあくまで魔獣の使用者でしかない。進化論者を潰さなければ。ドフィリア医師はその進化論者だった」
「尻尾を掴んだと」
「ああ。ただの異端者として追放されていた身ではある。古巣の情報をしっかりと覚えていたから問題はないのだが」
「人間を厄災レベルの化け物に改造する技術を進化論者たちは完成させているんですかね」
「それを調べるのは君たちの仕事だ。世界各地で報告されている魔獣被害といい、教導地区での一件といい、進化論者は確実に活動を活発化させている。どこかで息の根を止める必要がある。……君たちには帝国へ向かってもらいたい」
「ゲオニエス帝国ですか。大丈夫なんですか。あそこは狩人に敏感でしょう」
あの国はヨルプウィスト人間国と歴史的な対立関係にある。
狩人協会は人類保存ギルドではあるが、その発端はヨルプウィスト人間国だ。
ゆえにゲオニエス帝国は「自分の国は自分で守る」と、狩人協会の介入を拒否している。普通の国ならそんなことできないし、させないし、そもそも厄災に対抗できる組織を他に用意できないわけだが……あの国は特別だ、『帝国剣王ノ会』と呼ばれる組織が狩人に代わって仕事をしているという。同時に狩人への警戒も。
「ゲオニエス帝国帝都に進化論者の根城がある可能性が高い。帝国剣王ノ会に人類を守るつもりがないのならば、我々がその役目を全うする」
「帝都まで近づくんです? 絶対に黙ってませんよ、あいつら」
「それでもだ。必要ならば荒事も覚悟しなければならない」
ゲイルはそう言って、資料をずいっと渡してくる。
「尋問の調書と任務詳細だ。確認したら破棄しろ」
受け取り、収納空間へしまいこむ。
「健闘を祈る」
「祈るだけでいいなんて楽な仕事ですな、ゲイル支部長」
「その分、意味を背負って釣り合いを取ろう」
俺とアンナは背を向け、支部長室をあとにする。
「アーカム、今度はゲオニエスに遠征だ。頑張ろう」
アンナはホクホクした顔でいう。
なんだか嬉しそうだ。任務を言い渡されるといつもそうだが……羨ましいな、彼女は生粋の狩人なのだろう、こうして自分の使命に没頭できている。
俺ももっと集中しよう。
数日後。
俺たちはクルクマへ一旦の帰還を果たした。
また任務を言い渡されてしまった。ゲンゼがっかりするだろうな。
少し億劫な気持ちで、俺はアルドレア邸の敷地を跨いだ。
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