拠点襲撃者
『アーカムは狩人協会でだいぶ浮いた存在として扱われている。それは伝説が突拍子なく、お前の能力を認めてもらえていないからだ。ここで戦果を上げればひとりの狩人として評価されるに違いない』
俺もちょうどそう思ってたところだ。
さて直感よ。
この先の危険を考える時が来た。
ただのダンジョン探索とはもう訳が違う。
狩人協会の敵へ対処する話に飛躍される。
アディたちを連れて行くべきだろうか。
迷うところだ。
俺は直感と相談し、結論を出した。皆の元へ戻る。
「父様、エーラから目を離さないでください」
「それは構わないが。アーク、何があったんだ?」
「少し面倒なことになりまして」
俺は皆にウィーブル学派という危険な組織がこの先に待ち受けていることを教えた。これから俺はそこへ攻撃を仕掛けるつもりだとも。
「アリスを救うにはそれしかないのか……よし、やろう」
「父様とニーヤン、それとエーラは何もしないでください」
ややきつめの声で言う。
「キサラギと僕が対処します」
「だが、相手は狩人殺しだぞ? アークたちだけで……」
「僕も狩人ですよ」
言うと皆がハッとして息を呑む。
皆へ説得力を働かせるためには身分を明らかにした方がいい。
この事態へ俺とキサラギは対処できると。
「アーク、お前……」
「お兄ちゃん、狩人、だったの?」
エーラは目をしばたたかせた。
驚いている。狩人がなんなのか理解しているのか。
「話していませんでしたか?」
「とぼけないでよ、わざと秘密にしてたんでしょう、エーラ知ってるもん。周りには言っちゃいけないって」
ん? どこでそんなこと学んだんだろう。
『もしかしたらエーラはアーカムの敵討ちをするためにアリスと共に狩人を志していたのかもしれないな!』
今日も冴えてるな、直感さん。
なるほど確かにあり得る話だ。
これはお兄ちゃんポイントを稼ぐチャンスなのでは。
「どうですか、意外とお兄ちゃん、すごいでしょう?」
「嘘つき……」
エーラはプイッとそっぽを向く。
お兄ちゃんチャレンジ、0ポイントでフィニッシュです。
「テラさん、アディたちのことを見ててくますか」
「みんな普通に戦えると思う。頭数大事」
テラは俺の意見にはやや反対している。皆で戦うべき派、と言うわけか。
彼女の戦力は是非とも迎え入れたいところだ。
俺とキサラギだけと決めつけるよりかは、柔軟にできるように言葉を選んでおこうか。自分の首を絞めかねない。
「相手の規模を見て判断させてください。必要だったら助力をお願いします」
「うん」
テラはこくりとうなづいた。
俺たちはアリスを救出するための行動に移った。
捕縛したウィーブル学派の魔術師たちに道案内をさせ、彼らの拠点へ連れて行ってもらうことにした。彼ら自身、アリスがどこにいるのかは知らなかったが、誘拐した者を連れて行くとしたらソコしかないとのことだった。
俺もキサラギも臨戦態勢をとった。
俺はマナスーツは着込んだし、キサラギもブラックコフィンを背負うのではなく、起動状態にして浮かせている。今ならスムーズに戦闘へ移行できる。
「アーク、お前ならキサラギさんの魔術も理解できるのか?」
「父様、話しかけないでください」
「俺、息子に超嫌われてるな」
「そういう意味じゃないですって。この先は危険だと言う自覚を持って、と言うことです。ほら、エーラはキリッとしてますよ」
「え? あっ」
エーラは咄嗟にキリッとしてしっかり者をアピールする。素直だ。
俺の直感が働いてないので、この周辺は安全だとは思うが。
この場でアディに科学の説明をするのが面倒なのではぐらかした。
アディは学者としての性ゆえか、ブラックコフィンが気になって仕方ないらしい。至極真っ当な反応だけど。なんで浮いてんだよって思うよね。
魔術的な興味と言えば、ウィーブル学派の魔術には興味がある。
剣を飛ばしてきていたが……。
俺はエーラやアディたちより先を歩く魔術師たちへ話しかける。
「さっきの魔術、属性式魔術じゃなかったな」
「……別に特別なものではない。ホブウィットで学んだ魔術師、あるいはホブウィットの系譜の魔法学校で学べば剣の魔術くらい履修するものだ」
ホブウィット大帝国神秘学院。
アーケストレス魔術王国で言えばドラゴンクラン大魔術学院。
ローレシア魔法王国で言えばレトレシア魔法魔術大学。
つまるところゲオニエス帝国の最も有名な魔法学校だ。
「剣の魔術とはなんだ」
「はっ、私は狩人に魔術の講義をするつもりはないのだがね。授業料を納めてホブウィットにでも行ってみたらどうだ」
教えてくれないので直感に教えてもらおう。
『帝国魔術に見られる武装生成系の魔術……な気がする! 二代皇帝アガサの存在は帝国魔術史にも多大な影響を与え、その奥義と思想は剣を作りだす魔術を進化させてきた……のかもしれない!』
帝国特有の魔術思想と言うわけか。国柄が出る。
「狩人、その特異な魔術技能はどこで修めた。師は誰だ。属性魔術を無詠唱で行使するなど聞いたこともない」
「授業をするつもりはない。黙って歩け」
「……ちっ」
俺たちは歩き続けた。
いくつかの道の分岐があったのち「この先だ」と、魔術師たちは顔を見合わせてこちらを見てきた。
「考え直した方がいいぞ。我々、ウィーブル学派はお前のような若造たちにどうこうできるものではない」
「口を閉じてろ。妙なことをしたら殺す」
キサラギに見張りを頼み、アディたちへ向き直る。
「アリスを見つけたらすぐに託します。その後は地上へまっすぐ引き返します。父様たちはここで待機でお願いします」
「アーク、俺もアリスのことが心配なんだ。それにお前のことだって……自分の息子を危険な連中の拠点へみすみす送り込まれるか。後方から支援させてくれ」
「手が滑って背中を撃たれたらかないませんよ」
「どんだけ俺のこと信用してないんだよ、そりゃあコントロールはお前ほどうまくはないが」
「冗談ですよ。支援は欲しいですけど、そっちに相手の注意がいくことを避けたいんです。僕とキサラギは大立ち回りに慣れてますから、どうか任せて。父様は僕のことを信じてくれているのでしょう?」
「アディ、ここはアーカムに任せるにゃ。アーカムはプロにゃ。きっと上手くやるにゃ」
ニーヤンはポンポンっとアディの肩を叩く。
「……気をつけろよ。アリスを頼むぞ、俺の誇りよ」
「もちろん」
俺とアディは固くハグをする。
なおエーラにハグしようと両手を広げてみたが飛び込んでこなかった。
皆を待機させ、俺とキサラギは魔術師たちと先へ進んだ。
「狩人、お前は愚かだぞ。とても愚かだ」
「黙って歩け」
「絶対に後悔させてやる」
「次喋ったら頭を吹っ飛ばす」
暗闇の中、炎の灯った松明が壁に打ち付けられている。
人の手によるもので、ダンジョンの広い通路に設営されたキャンプ地であった。ダンジョンの拠点。間違いない。ウィーブル学派のものだ。
さてどう攻略したものか。
気がつかれていないなら、先制で氷属性式魔術を使ってもいいが、流石に広すぎる。この範囲を十分な威力を持って攻撃するとなると燃費が心配だ。最近、ぶっ放しすぎて魔力量が目減している。何よりアリスがどこかにいることを思えば、彼女を巻き込みたくない。
こちらには人質がいる。
ちょうどいい。こいつらを交渉材料にして、人質交換と行こうか。
アリスをゲットしたらウィーブル学派の危険な目的を打ち砕いてやる。
狩人の仇と協会からの評価という実益が掛かっているのだ。逃す手はない。
「キサラギちゃん、人質作戦で行きます」
「了解です、兄様。ところで人質が逃げたとキサラギは報告します」
「狩人が来たぞーッ!」
魔術師のひとりが大声で叫びながら走り出した。
ダンジョンの閉鎖的な空間に、声はよく反響した。
あーあ、もう。クレバーに行こうと思ったそばから。
「キサラギちゃん、プランAです」
「プランAとは」
「暴れる」
「なるほど、とキサラギは納得にポンっと手を打ちます」
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