ウェイリアスの杖
「ウェイリアスの杖。風と水の魔獣ウェイリアスの体内で醸造された質の高い魔石を芯にこしらえたオズワール作の逸品よ」
「これを僕に? 失礼ですが、話が見えないのですが」
「アディが2年と半年前にプレゼントしてくれたの。アディはあなたがレトレシア魔術大学に入学すると思っていたらしいから、これほどの杖を注文していたの。でも、あなた死んじゃったでしょ。だから私にくれたのよ」
アディが俺のために注文してくれていた杖……。
「時が来ればあなたの妹に譲渡する予定だったのよ。でも、本来の持ち主はあなたでしょう、アーカム・アルドレア」
俺はウェイリアスの杖を受け取る。
柄をずらすと杖の性能が書かれた品質証明書が確認できる。
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ウェイリアスの杖
四等級
・消費魔力軽減30%
・魔力還元40%
・魔力装填量増加100%
・攻撃魔術強化80%
・高等魔術最適化100%
・現象範囲強化20%
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メルオレの杖
三等級
・消費魔力軽減20%
・魔力還元10%
・魔力装填量増加70%
・攻撃魔術強化40%
・高等魔術最適化 60%
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俺がカイロさんからもらった現在の主力杖メレオレの杖に比べると、その品質の優秀さに鳥肌すら立つ。
魔力装填量増加100%、攻撃魔術強化80%、高等魔術最適化100%ここら辺は嬉しいオプション性能だ。
概算でメレオレの杖より3倍くらい攻撃魔術の威力は高まる計算だ。
四等級、伝説級の杖、これまで握ったあらゆる杖のなかで最も高品質だ。
「言わなければ僕は気づかないのに。こんな杖、そうそうに手に入るものではないでしょう?」
「私は宮廷魔術師よ? 手に入れようと思えばいつでも手に入れられるわ」
そういうものだろうか。
宮廷魔術師ってやっぱり凄いんだな。
順調に表世界で出世すれば、俺もそこを目指したかもしれない役職だ。
「アディをよろしく。きっとあなたを待っているから」
言ってスフィアはひらひらと手を振って背を向けた。
素っ気ないようだが、情に厚い人物のように思える。
この杖は古くからの友人のもとへ駆けつける俺への餞別なのだろう。
あるいは本当に義理堅く本来の持ち主である俺へ返却しただけかもしれないが。
俺は迎賓館をあとにし、騎士団兵舎へと戻った。
その日はなかなかに豪華なもてなしをされた。
アーカム・アルドレアという名前が広まっていることは嬉しいようで、嬉しくないようで、なんとも複雑な気持ちではある。
だが、まあ、知られてしまったものは仕方ない。
この際、ふっきれて楽しむことにした。
入れ替わり立ち代わり、皆が俺に会いたがるのは存外に気分の良いもので、そのなかに英雄に目をキラキラさせる女の子たちがいれば、それなりにテンションもあがる。俺はパーティは隅っこで雰囲気を楽しむ派なのだが、主役ともなれば流石にそういうムーヴも許されない。俺の主義ではないが、酒に肉に、歌って踊って、可愛い子に囲まれるのは楽しいっちゃ楽しかった。
馬鹿騒ぎをした翌朝は死ぬほど気持ちが悪かった。
アンナとの帰還の旅の道中、たびたびぶどう酒を飲んでそれなりに酒の楽しみ方というものを学んでいたつもりだが、大人数でのパーティなどは初めてだったこともあり、明らかに飲み過ぎていた。
「これが二日酔いか……騎士どもに煽られて飲みすぎた、ヴぉえええ!」
昼頃まで気分の悪さは抜けず、地獄を見たが、正午も過ぎればずいぶんとマシになった。
昼下がりには尋ね人がやってきた。
扉を開ければ、梅色の瞳がこちらを非難の眼差しで見て来るではないか。
「アンナ!」
「どうして相棒にまっさきに会いに来ないの? キサラギだってほったらかして」
「いや、まさかドレディヌスに来てたなんて」
「来てるでしょ。普通」
来てるかな?
王都から6、7日は掛かる距離だ。
合戦の集結から2週間経過したと思えば……まあ、来てるか。
「あらぁ~? あなたがアンナちゃん、ね?」
たまたま通路を通りかかった母親に見つかる。
まずい。だるいのが始まってしまう。
「アンナ、行きましょう。ここは危険です」
「この女の人は?」
「他人ですよ」
「アークの母です、アンナちゃん。うちの子がずいぶん長い事お世話になったみたいで──」
だめだめ、だるいだるい。
俺は全力でアンナを担ぎ上げて、逃げるように兵舎を飛び出した。
背後ではエヴァが「もう! ママにもいろいろ教えてよ!」と文句を叫んでいる。
あれは放っておくのに限る。
「アーカム、母親と会えたんだ」
「まあ、なんとか。再会したら再会したで面倒くさいことが多くてなんだかなぁって感じですけど。それより、アンナはどこに泊ってるんですか? そっちを拠点に今後の話をしましょう。ああ、それとキサラギはどこに?」
俺はアンナの案内で彼女とキサラギがいる冒険者用のわりとお高い宿屋へ。
「やあ、アーカムくん、待っていたよん」
「エレナさん……」
「お姉ちゃんと相部屋」
なるほど……まあ、そうか、ありえる話だ。
「うちのキサラギはいづこに?」
「ここ~」
エレナはロッカーを開いた、
なかにキサラギが寝かされている。
ブラックコフィンの残骸もいっしょであった。
王都に置き去りにされず、ちゃんと連れて来てもらえていた。
ひと安心だ。
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