嵐の騎士団長、巨人槍術四段、ストームヴィル・ヴェルフランテ
「王女殿下はいらっしゃらないか。穢れた血であろうと仮にも王族。即時展開はできずとも、不死鳥をたずさえて乗り込んでくるものと思ったが……」
アーカムは眉根をひそめる。
(穢れた血……? エフィーリアのことか?)
その意味はわからなかった。
「エフィーリア王女殿下はまだ来ません。僕があなたを討ってからです」
「となると、この私ストームヴィルを倒しうる最大の実力者というわけか」
ストームヴィルは槍をくるりとまわし「ふむ」と舐めるようにアーカムを観察する。
「お前たち、周囲の雑兵を片付けろ」
ストームヴィルの声で叛逆騎士たちはいっせいに剣を抜いた。
同時に彼自身も動いた。
狙いはアーカムだ。まっすぐに向かっていく。
「『嵐の騎士団』団長。ストームヴィル・ヴェルフランテ。押して参る」
「アーカム・アルドレア。その首、頂戴する」
まっすぐに突き出される第一の鎗。
風霊の指輪より収納空間からアマゾディアを抜剣しかろうじて受け流す。
たとえ相手が四段保有者であろうと、超直観による攻撃推測と厄災の挙動すらとらえる夜空の瞳があれば、自分から攻めることは難しくとも、受け身に徹すれば安全にいなすことができる。
「ほう、眼が良いな」
ストームヴィルは感心しながら第二の槍を放った。
ぐんっと引いて剣気圧の手刀がアマゾディアを叩いた。
素手でアーカムの剣を払ってから、差し穿つ算段なのだ。
アーカムは弾かれた瞬間に抵抗せずアマゾディアを手放した。
ストームヴィルはその潔さに瞠目する。
杖がプレートアーマーへ向けられる。
手刀→槍と攻撃を組み立てたため、ストームヴィルはアーカムの無詠唱に間に合わせることができなかった。
猛烈な風の槍が放たれた。
風の魔術とは思わない金属を砕く音がビキィィンっと響いた。
騎士団長の誉多きフルプレートを刺し、玉座の間中央の会議机まで押し戻す。
ほかの騎士たちへ襲い掛かろうとしていた叛逆騎士たちは思わずふりかえる。
「騎士団長!」
叛逆騎士のだれかが叫んだ。
「案ずるな」
言ってストームヴィルはたちあがる。
胸部のアーマーを手で抑える。
ベッと血の塊を吐き捨て、キっとアーカムを睨む。
(いまの風属性式魔術……遅延詠唱であらかじめ準備していたのか。魔法のフルプレートアーマーを着こんでおいて正解だったな)
「用意周到と言う訳だな。だが、もうその手は使えない」
ストームヴィルは槍をふりはらい一足で一気に迫る。
遅延詠唱はあくまで事前準備をしていた場合、実質的に最速で魔術を行使できるというものだ。使ってしまえばあとは詠唱をし直さなければいけない。
剣を捨て、遅延詠唱分も使った。ならばもはや手札は使い切った。
そう思いストームヴィルは果敢につっこんいく。
アーカムの狙いは別はあった。
いまの一撃で倒そうとしたわけではない。
ただ「近えよ。離れろよ」という距離を確保するための一撃だった。
吹っ飛ばした間をつかってアーカムは氷の魔力を練りあげていた。
冷風があたりに吹きすさび、高濃度の魔力が現象化し、武骨な氷塊を形成。
高度な魔力操作で先端の尖った砲弾へと姿を変えていく。
(《ウルト・ポーラー》二つ分の魔力をひとつに──)
(こいつ……っ、無詠唱で……! しかも氷の魔術だと!)
ストームヴィルは一瞬、足を止めかけるが、すぐに攻撃を続行。
(大丈夫だ、魔術である以上、鎧圧と魔法のフルプレートの防御の前では最悪の相性だ。間合いのアドバンテージを失うくらいなら一発耐えて、突き殺せばよい。それだけの耐久力が俺にはある)
ストームヴィルは自身の前方に全オーラを集中させ、強固な鎧圧の壁をまとった。
アーカムは冷めた眼差しですぐ目の前までせまったストームヴィルを見据える。
瞬き一回のあとにはその槍が届くというのに、まだ引き付ける。冷静だ。
その間も氷属性式魔術にアーカムの膨大な魔力が注がれていく。
ついぞ《ウルト・ポーラー》4つ分の魔力が注がれたところで臨界に達した。
放たれる氷の砲弾。
ストームヴィルの身体がいともたやすく弾き飛ばされた。
拮抗はわずかだった。
鋭角の砲弾は戦車装甲をつらぬく徹甲弾のように、たやすく鎧圧を砕き、魔法のフルプレートすら貫通し、騎士団長の鍛えあげられた肉体に風穴をあけた。
そのまま砲弾は飛んでいき、玉座の周辺に着弾、大爆発を起こし、大きな氷柱を爆破するように発生させた。
静まりかえる玉座の間。
身の毛もよだつの冷気のなかでアーカムはそっと杖先をおろした。
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