王女との再会



 太陽のように輝く黄金の髪。

 どんな宝石よりも美しく色づく碧眼。

 周辺諸国で名を馳せ、勇気ある行動の数々で、味方と敵をつくりつづける魔法王国の王女様は、8年経ち立派なレディになりいっそ可憐なお姿となっていた。

 エフィーリア・ジョブレス。かつて暗殺されかけた現場に居合わせたまたま命をすくった魔法王国王女さまである。


「そんな、まさか、アーカム、なのですか?」


 エフィーリアは目をしばたたかせ、茫然として俺をつま先から頭のさきまで実態を確認するように視線を動かした。

 

「どうして、ここに……というより、その姿、いえ、そんなことより、なんで生きて……ああ、もうなにがなんだかわかりませんわ!」

「ひどく混乱しておられるようですね」

「なにをそんな平然と! あなたは2年前、バンザイデスで吸血鬼騒動に巻き込まれ死んだはずなのでは!?」

「アーカム……いや、ありえない。生きているはずがない。偽物と考えるべきでしょう。どこかで姫様との関係を知り、知己に化ける魔法をつかっている……そう考えたほうが自然です」


 言ってヘンリックは油断なく剣先をこちらへ向ける。

 彼も混乱しているようだ。理屈が通っているようで通ってない。


 俺は《ウィンダ》《ファイナ》《ウォーラ》の三つの魔術を順番につかって、手のひらの上にそれぞれの風の魔力、火の魔力、水の魔力を捻出し、それぞれを小さな竜巻、小さな炎、小さな水玉にして浮かせた。


「三重属性詠唱者はなかなかいないでしょう。ご存じのとおり無詠唱です」

「そんな……っ、まさか、本当にあの、アーカム・アルドレアなのか……!」


 ヘンリックもようやく信じてくれたようだ。

 俺は手元の魔術現象を握りつぶして霧散させ「信じてください」と答える。


「アーカム、よくぞ無事にもどりましたわ!」

「っ」


 エフィーリアがガバっと飛びついてくる。

 その身体は細く、薄く、ちょっと力加減を間違えただけで壊れてしまいそうなほどに華奢でる。全身がやらかくて、か弱くて、とても尊い物のように思える。別に比べる訳じゃないが、心身共に元気で丈夫なアンナとは大違いである。感覚としてはエレントバッハに似ているだろうか。高貴の血筋の方は儚いジンクスがあるのかな。

 あんまり胸元の厚みを感じないのも、昔と変わっていないようでどこか微笑ましい。

 ぎゅーっとされること10秒ほど。ハっとしてようやく放してくれた。

 エフィーリアの表情は高揚し、頬はわずかに朱色に染まっている。俺も絶世の美女に熱い抱擁をされてはかなり恥ずかしいので咳払いしてごまかす。だがみっともなく慌てることはない。なぜなら俺は童貞じゃないから。そこらへんの童貞ではとても耐えられないだろうけど、俺は童貞じゃないからな!

 

「こほんこほん。失礼しました、取り乱してしまいましたわ」

「いえ、別に」

「一体どのようにして、吸血鬼の災害から、いえ、というより生きていたのならどうしてアディフランツ様やエヴァリーン様のもとへお戻りになられなかったのですか!  ちいさな妹たちも置いて……皆さまひどく傷ついていらっしゃったのですよ!」

「おっしゃる通り、返す言葉もありません」


 エフィーリアの追及を「どうどう」と押さえていると、ヘンリックが剣で倒れている者たちにトドメを刺し始めた。

 別に止めはしないが、傍らで息の根を止められると気になる。

 というか、一国の王女であるエフィーリアがどうしてこんな下水道みたいな場所にいるのか。

 

「エフィーリア王女殿下はどうしてこのような場所に?」

「それはこっちも質問です!」

「僕は勘で説明できますけど、エフィーリア王女陛下がいる理由はわかりませんよ?」

「全然説明できていませんわ」


 呆れた表情をし嘆息するエフィーリア。


「姫様、驚愕の邂逅ですが、いまは急ぎましょう。アーカム様、まるで事情はわかりませんが、貴方ほどの御仁がいまは同行してくださると大変に心強い。どうかなにも訊かずいまは姫様を護衛する役目を請け負ってはくださりませんか?」


 ヘンリックは倒れている全員の息の根を止め、ごく真剣な表情で言った。

 なにが起きているのかはわからない。


『これはクーデターだ! クーデターに違いない! 王女とその付き人はいましがた王城の秘密の抜け道をつかって城から脱出したところを待ち伏せされたのだ!』


 前言撤回。全部把握しました。


「わかりました。非力ながら尽力させていただきます」

「ありがとうございます。しかし謙遜も過ぎれば嫌味に聞こえますね、無詠唱魔術師殿」

「ふふ、強力な助っ人をゲットですわ」

 

 ヘンリックへランタンを返す。

 うなづき、彼は先導して地下の暗闇を歩き始めた。

 エフィーリアと俺はそのあとを駆け足でついていった。

 

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