地下遺跡の邂逅
『奥だ! もっと進め!』
啓示が具体的になって来たなー。
なにが待っているのか全然想像つかないけど。
俺は暗い地下遺跡を松明を片手に歩く。
だんだんと暗闇が濃くなっていく。
空気が淀んでいる。空気の流れがないせいか。
足元にはコケがはえている。
遺跡は地下水路のようになっており、通路の真ん中を濁った水が10cmほどの水深をつくってごくゆるやかに流れていた。
思ったよりも地下遺跡は広大だ。
すこし歩いたくらいではまるで全容を把握をすることができなかった。
それどころか、深く、深く、どこまでも通じているようなきさえした。
水の流れる音に耳を立て、数分歩み進める。
妙な音が聞こえてくるようになった。
それが鋼と鋼のぶつかり合う音だとわかるのに、さしたる時間はかからなかった。
俺は松明の火を消し、メレオレの杖を握り、音のするほうへ小走りで近づいた。
だんだんと音の発生源はせまってくる。
「しぶとい奴だ」
「存外、諦めが悪いのだな」
角の向こう側、水の流れる音とともに、荒く息をつく声が聞こえてくる。
チラとのぞく。
まさにいま事態は動いていた。
足もとに転がったランタンの灯りだけが現場の光源だ。
薄暗い地下遺跡のなか、黒衣に身を包んだ者たちが、抜き身の刃を手にゆっくりと包囲を維持する。
彼らが取り囲むのは、暗いマントに身をつつみフードをかぶった人影と、それを守ろうとしているのだろうか、浅黒い肌をした剣士である。頬に傷があり、焦げ茶色の髪色をしている。
どこかで見たような気がするっと直観的に思った。
しかし、どこだったか。遠い記憶のようでよく思い出せない。
「賊どもめ。貴様らなにをしているのかわかっているのか」
「当然だろう。わかったうえ、だ」
「いまさら引くとでも? こんな場所で待ち伏せまでしているんだぜ」
「ヘンリック、どいてください!
風の精霊よ、力を与えたまへ
──《ウィンダ》」
浅黒い剣士の背後、暗色のマントにすっぽり姿を隠した人物が、風の弾を放った。声から察するに若い女性のようだ。
ヘンリック……どこかで聞いたような名前。
それにいまの声……これまたどこかで聞いたような気がしなくもない。
なんだ、あとすこしのところまで出掛かっているのだが。
そんなことを思っているうちに、風の弾は黒衣をまとった怪しげな者どものひとりに命中し、見事に吹っ飛ばして無力化してしまった。
「っ、魔術師め」
「手早く行くぞ!」
「いえ、ヘンリック、わたくしも戦いますわ」
動きだす黒衣たち。
その数は1人減って5人。
挑む浅黒い青年。その背後、フードをふぁさっとはずし、姿をあらわす。
それを見て、俺はハッと息を呑んだ。
「姫様、お下がりください!」
ああ、そうか。
思い出した。
8年前のクルクマでの記憶が蘇る。
どこか懐かしいと思えば、そうか、またしても運命的に俺は居合わせたらしい。
「このエフィーリア・ジョブレス、ただでは殺されませんわ」
俺は物陰からスッと飛びだす。
黒衣をまとう者たちは機敏に俺に反応する。
軽くスナップを利かせて杖を振る。放たれる魔法の風弾。
黒衣のひとりがふっとび、暗闇に消えていく。
「なっ!?」
「あいつ詠唱を──」
間髪入れずに4発追加で風の弾を放ち、およそ怪しげな男たちをまとめて気絶させた。
「……何者だ」
言って浅黒い肌の青年はこちらを睨みつける。
足元のランタンをサイコキネシスで拾い上げ、俺は手元にもってきて掴みかかげた。
「お久しぶりです。エフィーリア王女殿下、ヘンリック殿」
「……無詠唱……そんな、貴方は、まさか……っ!」
「お前は……っ」
8年経ってれば忘れられるか、と期待せず話しかけた。
だが、かつて見せた無詠唱魔術の印象はまだ十分に記憶に残っているようで、エフィーリア王女と付き人ヘンリックの表情はみるみるうちに驚愕に染まっていった。
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