王都クーデター勃発
ランタンで照らすヘンリックについて行き、地下通路を進む。
「むっ、うわ! だれか来やがった!」
「騒ぐな、城から逃げ出した王女と護衛だ。しかしまあ、本当にこんな辺鄙な場所から出てきやがった」
俺たちは地下通路で黒布につつまれた暗殺者たちに再び遭遇した。
超直観くんの推理では王城から抜け道をつかって逃げて来たところとか言っていたが、どうにもその抜け道がバレバレだったようである。こうして第一陣だけでなく、第二陣まで構えて貼り付けてあるのだから。
「アーカム殿、姫様をお願いします」
ランタンをパスされ受け取る。
ヘンリックは抜剣し、新手の襲撃者3名へ斬りかかっていく。
鋭い太刀筋だ。
剣気圧を纏い刃を弾き飛ばす。
無駄のない強靭な剣舞で、ヘンリックはあっという間に3名の不埒なる輩を斬り捨てた。
「おお」
「さきほどよりずっと練度が低い襲撃者です。この程度なら私でもどうとでもなります。さあ、行きましょう」
ヘンリックが実に頼もしく導いてくれる。
以前はもっと寡黙な少年で、すこし頼りないイメージだったが……人は変わるな。
地下遺跡を抜けて、遺跡街まで戻ってくる。
外は薄暗くなっていて、夜空には爛々と星が輝いていた。
深くフードをかぶったエフィーリアとヘンリックは、ごく自然な足取りで夜の町を歩き、ある宿屋に入る。
「いらっしゃいま……」
その店の主人はいいかけて、エフィーリア王女がフードをチラとめくると、顔パスで裏手への扉を手で指し示し、うやうやしく一礼した。
「ここまで来ればひと安心ですね」
裏手から出れる宿屋の倉庫には落とし戸がついており、そこから地下室へと繋がっていた。地下室は決して広くないが、手入れが行き届いており大変に綺麗だ。
魔法王国王家の紋様がはいった旗がかかっており、剣が壁際のラックにズラッと並んでいたりと普通の宿屋の地下にしてはどこかおかしい。
「あの、それで、クーデターとはどういうことですか?」
「どうしてクーデターのことを……?」
「え? ああ。勘……いえ、状況から推理しただけです」
いつも勘で説明を済ませているが、俺以外の人にとってはほとんど意味不明だ。
なので説得力をもたせる努力をした。
「流石ですわ、アーカム。明晰な頭脳をお持ちですわ」
「ということは本当にクーデターが起きてるんですか?」
「その通りなのですわ。本当にさっき起きたばかりでして」
エフィーリアはそこから何があったのかを話はじめた。
「お父様もお兄様もみな、おおくの騎士をつれて戦地へ赴かれました。残されたわたくしが執務を一部引き継いで城に残っていたのです。急なことでした。おそらくは貴族派の配下の騎士だったのでしょう。あるいは寝返ったか……城内で戦いがはじまり、多くの騎士が死にました。城を防衛しようとしたのですが、力及ばず……こうして臣下を残してヘンリックと逃げ出して来たのです……」
エフィーリアは歯切れ悪く言う。
「貴族派筆頭の騎士が来ていた」
「貴族派筆頭?」
ヘンリックの含みある言い方に聞きかえす。
「ポロスコフィン卿の抱える『燃え盛る剣』と『嵐の槍』と呼ばれる騎士団長たち。その片割れ”槍”のストームヴェルが騎士を率いて王城を制圧したんだ」
「騎士団長が? 泣き声の荒野ではなく、こんな離れた王都に?」
それは予想外だろう。
腕利きであるほど戦地へ召喚されてしかるべきだ。
騎士団長クラスということは、つまりは将軍である。
多くの騎士を指揮するのにも将はひとりでも戦場に欲しいだろうに。
「将をひとりこちらへ寄越したのは、騎士が出払い警備が手薄になった城を確実に落とすためだと思われます。騎士の大部分がいなくなったのちに城を取られることは、都市を制圧されたことに等しい行為です。よりおそろしいのはそれが現実になること。ストームヴェル騎士団長は王都を押さえるだけの兵力を有していないはずがありません」
都市制圧は生半可な兵力でなせるものではない。
それを為せるだけの兵力をどうやって王都に忍ばせたのか……。
疑問は尽きないが、今の状況は非常によくないことはわかる。
王政の外見上の打倒により、敵を内側に抱えることになり王族軍の士気は低下し、騎士団本部を叩くことでの戦地への補給経路の根元を立たれてしまうことだろう。
「都市は今は平穏そのものですが、すぐに都市制圧のための兵力が動き出すかもしれません。そうなれば王都はおしまいです」
貴族派はおそろしく手際がよい。
城を制圧し、なおかつその後維持するとなると、小隊では難しいだろうから、それだけでも、かなり人数を送り込んできているはずだ。
『だのに、王都まで制圧するとなると、おそらくは1,041人はいると思った方がいいかもしれない!』
そんなピンポイントでわかりますかね。
まあでも超直観くんが言ってるので間違いないです。
「『嵐の槍』ストームヴェルは魔法王国十傑に名を連ねる猛将にして英雄の器です。並みの騎士ではまるで歯がたたないでしょう」
エフィーリアは俺をまっすぐに見て来る。
「アーカム、無茶なことをお願いしているのは重々承知です。ですが、いまはなによりも兵がいないのです。城を取り返すため力を貸してはくれませんか」
「お忘れですか。僕にウィザードの勲章を与えたのはエフィーリア王女殿下、あなたですよ」
俺はひざまずき首を垂れた。
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