環境適応


 わっちは違う。わっちだけは違うんだ。

 ほかの超能力者とは一線を画す能力者なんだよ。

 お前のようなクソカスに敗れるわっちではない──。


 ──荒垣は結晶のなかで鈍く、遅延する思考でそんなことを思っていた。


「完全に凍ってる……」


 アンナは寒々しい冷気がたちこめる通路に詰め込まれ、どうどうと塞いでいる氷の塊を見つめる。聖獣の異空間からもれる青白い淡い光が、氷を綺麗に鮮やかに反射してうつしだす。


 アーカムはメルオレの杖を握ったまま、白い息をホッと吐きだした。


「氷が弱点と言うカイロさんの助言は正しかったですね」


(正確には聖獣のアドバイスだけど)


「あたしの剣でも斬れたよ」

「本当ですか? ああ、なるほど。伝説級の剣だから魔力が宿っているんですね」


 アーカムはカトレアの祝福の冷たく輝く刃を見てそうこぼす。

 

「ここまでやれば封印する必要はないのかもしれないですね……」


 分厚い氷に閉じ込められた2人の荒垣を見ていると、氷からいったん出してから、再び封印するほうが危険なように思われた。

 とはいえ、いつか溶けるかもしれない氷に核弾頭のような危険を漬けて置いておくわけにもいかない。

 念のため、しっかりと魔術で封印することにした。

 メレオレの杖を右手に、封印用の杖を左手に握りしめる。


「ん?」

「どうしたの、アーカム」

「……氷が振動してます」 


 アーカムは嫌な予感を覚え、すぐさまその場を離れた。

 その時だ。氷の塊がせりだしてきた。

 無数の槍のごとく氷柱が放射状に広がった。

 

 アンナもアーカムも目を丸くして、氷を見つめる。

 パキパキと音をたてて結果していく氷塊。

 半透明の氷のなで、光の塊が心臓のように胎動し、やがてその胎動が一層強くなると同時に、氷塊は破裂した。


「かぁごめ、かぁごめ──」


 声が聞こえ、サイコキネシスの固め撃ちが通路を全面でとらえて向かってくる。

 アーカムは《イルト・ウィンダ》で相殺する。

 

「嘘だろ……?」

「あいつ凍ってたんじゃ……」

「はぁ……はぁ……うぐぅー、はあ。死ぬかと思ったじゃないか」


 荒垣は氷りついた体を、肩でも凝ったかのようにほぐし、気持ちよさそうにしている。


「だが、もう慣れた。生物進化とは環境への適応の歴史なのだよ。低温下で活動できるように進化すれば、まあ、何の問題もないわけだね、わっちのような天才には」


(バケモノだな……)


『アーカム、もう氷は効かないぞ!』


(言われなくてもだいたい察しますよ)

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