省エネはおしまい
頭を削られ、一瞬意識が飛びかけた。
だが、荒垣は立ち続け、攻撃された方向へ対して即応し、サイコウィップで薙ぎ払った。
壁も床も天井も関係なく、念動力の波動が破壊の波を伝える。
アーカムは身を翻して、鞭を避ける。
(当たったら死ぬな)
勘でサイコウィップの威力も原理もなんとなくわかっていた。
とはいえ、タネと仕掛けがわかったところで、並外れの精神力では、その事実がむしろ恐怖となり、体がすくませてしまう。
だが、アーカムはそうはならない。
これまでに乗り越えた戦いが、彼の命やりとりでこそ本領を発揮するすべを身につけさせているのである。
(アンナは特に外傷を負ってるわけじゃない。血の魔術の反動? そんな気がする)
「操り人形のほうが来たのかね」
荒垣はこぼれる脳みそを手で抑えながら、苦笑いをする。
再び飛んでくる3発の風弾。
脳を損傷したほうの荒垣は、焦らず膝をついて待機。
無理をする必要はない。
攻撃への対処は、先ほど血の毒から回復した荒垣複製体を操作して行えばよいのだ。
「無駄だよ」
サイコキネシスの壁が、アーカムの3連射の風弾を遮ぎらんとたちばかる。
しかし、
風の弾は3発ともサイコキネシスを貫通して、損傷したほうの荒垣へ命中。荒垣本体が誇るサイコアーマーすら貫いて、右腕と脇腹をぶち抜き、内容物を弾かさせた。
(っ! 威力が違う……!?
「省エネはやめだ。魔力も十分に込めた。なにより、パーフェクトな武器がある。同じとみくびるなよ、超能力者」
「……ッ、だから、どうした……! 抜かれたのなら、より分厚いサイコキネシスでガードすればいいだけの話しじゃないかね!」
アーカムはすかさず《ウルト・ウィンダ》を撃って、荒垣の片割れをまずは無力化しようと試みる。
だが、今度は宙空で風の魔力が爆発してしまった。サイコキネシスの壁に防がれたのだ。
荒垣はホッと一安心する。
不可視の壁の向こう側は瓦礫が砕けて、舞い散り、荒れ狂い、こちら側はまるでスクリーンの向こう側の出来事を鑑賞しているかのように被害を受けていない。
次の瞬間、今度は氷の弾が飛んできた。
サイコキネシスの壁に当たる。
すると、わずかに尖ったツララが壁を突き破った。
「っ、超低音のの飛翔体……だと?」
荒垣複製体はサイコキネシスの層をさらに分厚くする。
(60%でわずかな貫通……100%に高めれば防ぎきれる。大丈夫、ダブルによるストレージの圧迫がキツイが、わっちにはまだ余裕がある。オーバーヒートは起こさない)
アーカムは眉根を顰める。
(《アルト・ポーラー》でも抜けない? やはり、神宮寺のサイコキネシスより遥かに厚いな……なら──)
「白の星よ、氷雪の力をここに
あまねく神秘を、聖獣の御手へ還せ
彼が目を覚まさぬうちに、世界を零へ導きたまへ
──《イルト・ポーラー》」
完全詠唱氷属性三式魔術。
空気が凍てつき、パキパキと音を立てる。
白み、冷やされ、結晶化した氷の粒が、青白い空気を乱反射して、キラキラと輝く。
直後、極寒の砲撃が放たれた。まるで間欠泉から勢いよく吐き出す奔流のごとき氷魔力の暴威は、サイコキネシスを真正面からたたいた。
マナニウムが一瞬で活動を鈍くさせ、念力の層を貫き、氷の奔流が荒垣とその複製体もろとも飲みこんでしまった。
完全詠唱氷属性三式魔術は、その余波だけで通路を完全に凍結させてしまっていた。
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