新手


 広場の一角で、俺はうなだれていた。

 痛い出費だ。装備もたくさん失った。


 まず超能力者を倒すのに、これまで愛用していたトネリッコの杖と、コトルアの杖使ってしまった。

 そして、棺桶をあずけるためにアマゾディアを担保にしてからの50万マニー。

 

「超能力者がよ……くそがよ……」


 とりあえず、なにか杖を持っておいたほういいよな。

 無いよりはあったほうが格段に便利だし、魔力消費は抑えられるし、魔術の威力はあがるし、いいことしかない。杖を装備しないメリットはない。


「アーカム、換金してきたよ」

「ありがとうございます」


 アンナが帰ってきて、マニーが入った袋をかかげた。

 ルールー家執事ビショップさんが用意してくれた魔力結晶をしかべるべき場所──魔術協会へ持って行ったのだ。

 換金して50万マニーになってくれた。

 これで資金は十分だ。

 だが、逆を言えば、もう無駄な出費をしている余裕はなくなった。


 まあ、超能力者との戦いは無駄じゃなかった。

 やつらの戦力と状況を把握できた。

 戦局を見れたのは大きな収穫だ。


 残る神々の円卓ドームズ・ソサエティの超能力者は4人。

 仲間がどこにいるのかまでは聞き出せなかった。船の位置も不明だ。

 神々の円卓はイセカイテックの敵対組織だった。

 やつらは指導者災害の子供達サンズ・オブ・ディザスターをこちらへ招きいれ世界を支配させようとしてる。

 

 だが、わからないことがある。

 神宮寺智久も、あの女も、おそらくはカテゴリー4の超能力者だった。

 つまり、地球ではカテゴリー0の……ハッキリ言って超能力者を名乗るのすらおこがましいほとんど人間だったはずだ。


「なのい、首輪をつけられていた……神宮寺はイセカイテックに不満を持つことなんてないだろうに……なんで……」


 はっきり言って、なのである。


「アーカム、アーカム」

「なんですか、アンナ」

「なんか飛んでる」

「え?」


 アンナは空を指さす。

 釣られて見上げる。

 広場の皆が空を見上げて指さしていた。


 空には人が浮んでいた。

 黒い人だ。黒い人影と形容してもいいかもしれない。

 かなり距離があるのに、かなりはっきりと輪郭を捕らえられている事から、身長が10mほどはあると思われた。巨人だ。

 黒い巨人たちは、都市国家のまわりをぐるっと囲うように、実に数十人が等間隔に並んでいる。


 おそろしく不気味な光景だった。


 その時、広場をまっすぐに進んでくる老人の姿があった。

 怪しげな声音で歌いながらやってくる。


「かぁごめ、かぁごめ、かぁごの中の鳥は、いついつ出やある、夜明けの晩に、鶴と亀がすぅべった……──」


 かごめの唄だと?

 異世界にそんなものはない!

 こいつ……!


 老人は手を指でっぽうの形にし、俺を狙う。

 距離は20m。


「後ろの正面だぁれ♪」


 『アーカム、逃げるんだ!』


 超直観が叫ぶ。

 俺は空の巨人に気を取られているアンナを突き飛ばし、地面に飛び込むように伏せた。


 直後、強力なサイコキネシスが俺たちが先ほどまでいた地点を蹂躙する。

 石畳みがめくれあがり、塵が空へ帰っていき、空気が嬲られ、法則が愚弄され、ベンチがひしゃげ石くずとなり、空気が悲鳴をあげる。

 サイコキネシスの固め撃ち──サイコウェーブを受けた広場周辺の建物は向こう3棟にわたって倒壊し、砕け散った。


 とてつもない威力だ。

 喰らえばひとたまりもない。


 3人目が都市にいやがったみたいだ。

 厄介な。もしかしてほかにも?


「アンナ、新手です!」


 相棒の返事がない。


「アンナ? もしかして、どこか怪我を……!」


 超能力者の老人から視線をはずし、地面に押し倒してしまったアンナを見やる。

 アンナは頬を染めて、表情に乏しい顔をぷいっと俺からそむける。


 む。なんだこの感触は。

 手が沈む。むにむにしてる。気持ちがいい。

 柔らかくて、すごく落ち着く。

 まるでこれを触るためだけに産まれて来たかのような本能的使命感にせいで手が離せない。

 ああ、そうか、これはおっぱい、アンナさんのたわわな実り──


 って、ラッキースケベしてる場合じゃね! 馬鹿か俺は!


「す、すみませんッ!」

「……ん」

「ちゃんとあとで謝ります、それより今は、アンナ、敵です! 超能力者ですよ!」

「あ……うん」


 頬を染め、恥ずかしそうに顔をそむけるアンナさん。

 とても反応が悪い。

 いや、俺が悪かったです、本当に申し訳ございませ──


「いい目をしてるね! わしのサイコキネシスを避けるなんてね! じゃあ、わっちも本気出しちゃおうかな♪」


 直後、俺とアンナは強力な念力によって吹っ飛ばされてしまった。


「ぐああああああ! こ、こんなはずじゃぁああああ!」


 敗因:おっぱい。

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