担保
ここはクリスト・カトレアの銀行。
大事なものを預けるために、超能力者たちを封印した棺をかついで、アーカムとアンナはやってきた。徒歩で来た。
「とりあえず5年ほど、金庫を使いたいです」
「銀行ギルドのなかでも優良の認定を受けている当行は、資産のほかにも、あらゆるものをお預かりしています。銀行ギルドのセキュリティは万全なため、大事な物の保管にはうってつけでしょう。ですが、その、流石にそれは……」
行員はアーカムとアンナが持ってきた棺桶に顔をひきつらせる。
棺桶をカウンター前へ持ってきたアンナが血塗れだったせいもあって、殺人したあと、死体をどうにかしようとしている現行犯にしか見えないのだ。
アーカムは困った顔をする。
(超能力者の封印は間違っても解除されてはいけない。どこかに埋めるということも考えられるが、たまたま見つかったり、都市開発が進んで、将来的に掘り返されるような場所では困る。だから銀行ギルド加盟の信頼できる銀行を選んだわけだが……)
「どうすれば、預けさせてもらえますか」
「金庫の貸付料のほかに、担保を積んでいただく必要があります。それと問題が発覚した際に、あなたへ責任を追及するための魔術的な契約も結んでいただきます」
アーカムは沈思黙考し、腰のアマゾディアに手をかける。
(カティヤさん、すぐに迎えに来ます)
「この剣を一時、預かっていてくれますか、担保として」
「はい? これは……どういった価値があるものですか」
行員は剣に関しては素人だった。
ゆえ、アマゾディアを見ようと、それがどれだけの意味を持つ武器なのかわかっていなかった。
鑑定人がやってくる。
通貨の流通量が十分でない世界において、資産の代わりに物品や、芸術品、剣や防具、魔道具などを資産代わりに使うことは珍しくない。
そのため、銀行などの施設には必ず目利きができる者がいるのが常だ。
鑑定人はアーカムに応対している行員のカウンターまでやってきて、眠たげな眼差しを持ち上げた。
少年の夜空のように深く、星々の輝きを内包した目を見て、それが魔眼に属するものであるとわかると、すぐに背筋を伸ばした。もう眠たい目もしていない。
(なんという魔眼だ……魔眼も商品として扱われることがたびたびあるし、知識はあるつもりだったが……この魔眼ははじめてみるな……)
鑑定人はごくりとのどを鳴らす。
アーカムが只ものじゃないことは明白だったからだ。
「して、剣の鑑定でしたな」
鑑定人は分厚い本をカウンターに置き、モノクル──片目だけの眼鏡──をかけ、そして、視線をアマゾディアへ落とした。
伝説級の剣を前に、鑑定人の目が見開かれた。
「?! な……、おっ……ぉぉ、これは……っ」
「鑑定人? この剣は担保として十分ですか?」
「これは……素晴らしいという言葉では足りないほどの剣だ。おそらくは四等級、この波紋、艶、乱雑な戦い方をされてきた傷跡は目立つが、そのなかで魔力を吸収し強くなっている。戦士の手から手へ脈々と受け継がれてきたために、神秘的な魔法を内側に秘めている」
「魔力武器、ということですか」
アーカムはたずねる。
魔力武器。神秘の産物だ。
伝説級以上の武器の条件でもある。
長い年月、あるいは使用者の意志、魂、特別な素材、特別な敵を屠った──などなど、さまざまな要因で武器は”伝説”を吸収する。
「うむ、間違いなく魔法領域に到達しておるますな。『武器は育てる物』という言葉があるが、この伝説級の剣は、まさしくその典型といえる逸品だろう。素晴らしい、これの持ち主は?」
「あ、こちらのお客様です」
行員はアーカムを手で示す。
鑑定人の言葉を聞いて、すくみあがっており、緊張が顔にでていた。
アーカムは鑑定人へ視線を移す。
「それはアマゾディア。聖神国の未開領域の誇り高き戦士から継承した剣です」
「これが伝説のアマゾディア……なるほど、聞きしに勝る剣ですな。その剣を持つあなたはさぞ名のある英雄さまなのでしょう。ぜひお名前を。当行は怪物と戦うあなたのような方々に敬意を払います。その名でもって契約の楔としましょう」
「言えないほうの英雄です」
「……っ、その若さで……なるほど、そういうことでありましたか」
博識な鑑定人は理解した。
アーカムが持つ尋常ならざる気によって。
この少年を詮索する事は賢いことではないと。
「訳があって、協会のチカラを使えないです。だから、ここのセキュリティを信じて大事な荷物を預けたいと言っています。すぐに取りにきます。5年、ひとまずは金庫を借りたいです」
アーカムは50万マニーをどさっとカウンターに置いた。
「いいでしょう。守護者の方々の頼みを無下にはできません」
契約は成立した。
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