さっそく大ダメージ
サイコウェーブの直撃。
普通なら人体などたやすく引き裂かれる。
三段レベルの剣士程度の剣気圧ならば耐えきるのは難しい。
剣気圧がないのならばなおさらだ。
だが、アーカムは対超能力を心得ている。
ゆえに命中の
瓦礫の山の下で、アーカムはなんとか体を動かす。
激痛が走る。左肩口から先が血塗れであった。
重傷を負ったらしい。
アーカムは風霊の指輪を右手の指にはめていた。
ゆえ、風で盾を展開する瞬間、右半身にしか十分な防御力を確保できなかったのだ。
「アーカム、血が……あたしをかばって……?」
「大丈夫です……アンナは、動けますか」
「こっちは大丈夫だよ」
(左足にも力が入らない……か)
アーカムは顔をしかめる。
(緒方と戦った時、《アルト・ウィンダ》であいつの神の盾は貫通できた……だから、一段階うえの《イルト・ウィンダ》なら神の盾を攻撃に転用したサイコキネシスだろうとガードしきれると思ったが……アテが外れた……)
サイコウェーブを受け止められなかったのに二つの理由があった。
ひとつはアーカムが杖を持っていなかったこと。
二等級のトネリッコの杖ならば、ダメージは少なく済んだ。
三等級のコトルアの杖ならばダメージはゼロに抑えられたかもしれない。
とはいえ、後の祭りだ。
そして、もうひとつの理由……それは、敵がこれまでより強いこと。
(こいつのサイコキネシス、強すぎる。カテゴリー……4じゃない)
悠長に思考している暇はなかった。
「かぁごめ、かぁごめェ。はっはは、なるほど。直前でガードしたね。わかっているよ、生きてるんだろう、出て来ないなら攻撃しちゃおうかな?」
超能力者は瓦礫の山ごとアーカムたちを吹き飛ばさんと、指でっぽうで狙いを定めた。
「アンナ、機動力を失いました。僕を運んでこの場から離れてください」
「わかった」
(左腕と左足が動かない。いきなり大きなダメージをもらってしまったが、超能力者に負ける訳にはいかない。これは異世界を守る戦いだ)
アーカムは冷静沈着に勝つための思考を働かせる。
潜り抜けて来た数多の修羅場が、越えて来た死線が、彼に卓越した精神力を宿し、この思考を可能にした。
アンナはアーカムを片腕で抱き寄せると、瓦礫の山から飛び出した。
直後、サイコキネシスが先ほどまで2人がいた付近を一掃してしまう。
「ほう! わっちにサイコキネシスを三回も撃たせて生きているのは、エイリアンでは君たちがはじめてかもしれない!」
広場にトンっと着地し、アンナは剣を抜く。
左腕でアーカムを抱き、右手で剣を構える。
(主人公とヒロイン的には逆な気がするけど……今は緊急事態なのでヨシ。ただ、ただね、たださ、ただだよ──さっきからお胸が柔らかいのがすごく気になります)
この男、精神的にまだまだ童貞だった。
「伊介天成、君がエイリアンに共鳴してしまった裏切者であることはわかっているよ」
超能力者の老人はアンナを見てそう話す。
流暢な英語であった。
「どうやって……情報が早すぎるだろう」
「はっはは、操り人形に話をさせるのか。そうとうに変わった男だ。いや、いまは女か」
「?」
アーカムは首をかしげる。
老人は構わずつづける。
「超能力者にはテレパシーが使える者もいる。わっちは教え子のひとりの叫びを聞いてここへ来たのさ」
「なるほど、な」
「さあ、投降するか、戦うか、君が選んでいいよ、だが、ひとつ忠告しておく。わっちはあの2人より強い。カテゴリー5の超能力者だ。そして、裏切者を滅ぼすための準備を整えて来た」
老人は腕を荘厳たる所作であおぎ、天空に浮かぶ無数の巨人たちを示す。
アーカムはそれらの存在が気がかりだった。
なんのために都市を囲んいるのか。あれらは攻撃してくるのか。
どういった能力なのか。何もわからない。
「情報力で君はすでに負けている。この状況を覆すことは不可能だ」
老人はアンナを見つめて話す。
「情報力……な。はっ。こっちだってあんたが神々の円卓とかいう木っ端組織に属していて、イセカイテックとどんぱちやりたがってるのは知ってる。残りがあんたを入れて4人しかいないのも知ってる。この世界には守護者の秘密結社がいる。お前たちは狩られる。確実に」
「ほう、あのバカ、結構喋ったみたいだね。秘密結社と言うのは狩人協会のことだろう?」
「っ」
「確かに殺すに手こずるだろう。一番の障害となるのは明白だ。だが、スペックがまるで違う。お話にすらならないよ、わっちら
老人はそう言って、空に浮かぶ黒い巨人たちへ視線をやった。
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