裏切り者だッ!
アーカムは冷たい眼差しで、アンナの遺体を見下ろす。
「家畜は家畜。資源は資源。神宮寺、あんたの言う通りだ。俺たちはこの世界の絶対の支配者として中途半端なことをするべきじゃない。イセカイテックと戦うためのチェスの駒に、名前を与え、ともに眠る必要はない」
「その通りだ! 奴隷が欲しければ私の
神宮寺のすぐ横の男は、両手を広げて、自分をよく見せる。
私は従順な奴隷です。どうぞ隙に使ってください──とでも言いたげだ。
「ヒプノシス、それがあんたの能力か」
「私はかつてカテゴリー0の【催眠使い】だった。だが、転移覚醒後はこの通りカテゴリー4の災害級の超能力者の仲間入りさ。かつては1人に対して、猫を犬と勘違いさせる程度の催眠しかかけられなかったが、今では100人単位でこの通り、意のままだ。どうかな、素晴らしいだろう」
アーカムが仲間だとわかるや否や、神宮寺は饒舌に喋り出した。
自分がいかに素晴らしいのかを喋りたくて喋りたくて、仕方がなかったかのようだ。
「実は我々の同胞のなかには、異世界のエイリアンどもに同調してしまう輩がいてな。君がエイリアンを仲間などと呼んだ時には、てっきりそっち側に寝返った裏切り者かと思ったんだ」
「愚かなことだ。この世界のエイリアンに共感を示すなど。こいつらは死ねば光の粒になる。そんなバケモノが人間なわけがないのに」
アーカムはIT5のバレルを掴み、神宮寺へグリップを向けて返す。
「君を信頼していたエイリアンを見事殺してみせた。君はちゃんと線引きができる分別のある超能力者だと証明された」
「同胞はどこに。どれだけいる。どうやって異世界に」
「
「封印……そいつは、異世界側につこうとしたのか」
「ああ。愚かな話だ」
「……。そうだな。愚かな話だ。それで、73名死亡ってのはなにがあった」
「異世界には超能力者の環境適応能力がなければ耐えられない病原菌が常在しているようなんだ」
「病原菌……それで乗組員は死んだのか? 超能力者だけが生き残った?」
「そうだとも。君はひとりでこの世界へやって来たから知らないのか」
(緒方も同じようなことを言ってたな……発狂がどうとか……)
「まそして、超能力者として地球で覚醒していた私たちは、転移と同時に再覚醒を果たし、そして神となったんだ」
「6人、か……。船はどこにある。俺たち超能力者の重要なマザーベースとなるだけの装備があるだろう」
「まあ、落ち着け、伊介天成。君のことを仲間へ知らせなくはならない。とりあえず、ここへ呼んで……おや、運がいいな。どうやら、この町に来ているようだ」
酒場の扉が開く。
真白い肌の女が入ってきた。
鼻と耳とまぶたにピアスをしたパンクな見た目の女だ。
青暗い濃いメイクが特徴的で、マスカラで目元がキラキラしている。
女は床に転がった死体と、アーカムと、神宮寺の手に握られたIT5を見て、目を丸くしている。
「神宮寺、これは?」
「紹介しよう、彼は伊介天成だ。最初の転移者だよ。我々の新しい仲間だ」
「仲間? こいつが?」
「ああ。彼はイセカイテックと戦う覚悟がある。もちろん、ハンセンのように異世界エイリアンどもに共鳴もしてない」
「ふーん」
女はアーカムを舐めるように見やる。
その時だった──
「……? なんか変だね。あんた──」
女の目が青く光る。
この女の能力のひとつはテレパシー──すなわち彼女は【読心使い】であった。
「ッ! 神宮寺、こいつ裏切り者だッ! エイリアンに共鳴してる!!!」
とっさに叫び、女は腰からIT5を抜き放つ。
ただ、それでは遅い。1手遅い。否、2手すでに遅い。
アーカムの
女がサイコキネシスを展開し、
女の右肩と脇腹に大穴が空き、鮮血とピンク色の肉片が飛び散る。
神宮寺は一瞬の展開についていけていない。
「っ、ば、な、何をしてるッ?! 伊介天成、君は──」
むくっと、アンナが起き上がる。
剣を抜くと、なんの迷いもなく、神宮寺の背中から突き刺した。
「あがッ?!」
いかに強力な超能力者であろうと、サイコキネシスにより防御ができなければ攻撃は通る。
アンナの顔面はなく、頭も半分欠損している。
だが、彼女は天才アンナ・エースカロリだ。血の模倣者だ。
16歳になり、かつてよりもずっと血が馴染み。血の魔術の操作に優れ、完成体に近づいたことで、その不死性は強化され、人間離れしつつある。
神宮寺は致命傷を負いながらも、反撃してきたアンナに、おおきな恐怖を抱いた。超能力者といえど研究者だ。闘争においては素人なのだ。
「こ、このエイリアンめ……?! はやく、はやく、サイコアーマーを……!!」
アンナに刺され、神宮寺はようやく神の盾を展開しようとした。だが、それでは遅い。
女の超能力者を風で砕いたアーカムは、勘で挙動を先取りし、素早く神宮寺へ向き直る。
一足でバッと間合いを詰める。
杖を顎から突き上げて、先端を刺した。
間合いはゼロ。
目を見開く神宮寺。
神の盾は間に合わない。
《ウィンダ》が頭部を爆散させる。
天井の赤いシミがベチャッと描かれた。
素人とプロフェッショナルの差が、克明に勝敗を分けたのだ。
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