コンビネーション


 血塗れのアンナはアーカムと目を合わせる。

 

 アーカムは知っていた。

 アンナ・エースカロリの不死性の高さを。

 弱点を。だからこそ、死ねせず殺して見せた。


「元気そうで何よりです」

「すごく痛かった」

「すみません、あとでちゃんと怒られます」

「ん」

「それより今は、あの女の首を繋げさせないでください」

「首を繫げる? 死んでないの?」

「パーフェクトデザインという能力があって……とにかく頭部を完全に脊髄から切り離しておけば外界へのリアクションは遅くなります」

「よくわからないけど、わかった」

「……身体、大丈夫ですか?」

「あの弾きで撃つ前に心配して欲しかったよ」


 アンナは澄ました顔で苦笑いし、再生しようとする超能力者の女の首を蹴り飛ばした。

 カウンターの向こうにあったナイフを取ってくると、バラバラになった部位を次々に壁にはりつけにしはじめる。


 とんでもなくスプラッタな光景だ。

 ただ、アンナ本人が血塗れでNo1にスプラッタな子になってしまっている、さほど気になりはしない。


「さて──」


 アーカムは首から上を無くした神宮寺の死体を見下ろす。身体はわずかに動いており、アーカムへ手を向け、命乞いをするようにゆらゆらと空を掴んでいた。


 アーカムは杖を構えて、意識を集中する。

 普段使わないサイコキネシスを使う時がやってきた。


 多くの場合、サイコキネシスと風属性式魔術は似た運用ができる。

 火力レベルで言うと、流石にサイコキネシスの固め撃ちのほうに軍牌があがる。

 ただ、アーカムの風の魔術の熟練度は、燃費の面で、サイコキネシスを大きく上回るため、普段、この超能力を使うメリットも理由も存在しない。

 

 ただ、特別な用途をのぞいては。


 アーカムの風が神宮寺の身体を14個に分割する。


 頭、右肩、右腕、右手、左肩、左腕、左手、胴体胸部、胴体腹部、腰、右太もも、右膝下、左太もも、左膝下──すべてを超粒子の念動力の層で包む。


 このサイコキネシスを維持するためには、超能力者の持つとされる無限のエネルギーと架空機関が必要だ。対超能力者用封印魔術が抱えるこの課題は、封印対象自体の架空機関を流用することでクリアされる。


「『災害封じの鉄棺アイアンコフィン』」


 今回は酒場の床を引き剥がした木製の棺だ。

 アーカムはトネリッコの杖を握りしめる。

 父アディフランツ・アルドレアから送られた杖だ。

 こんなところで消耗するのはためらわれた。

 だが、敵は超能力者。確実に封印しなければならない。


「父様、あとはお願いします」


 『近づいたら離れる』まるで磁石のS極とS極をくっつけるようとするかのように、超能力者の肉片は念動力の膜のなかで生き続け、永遠に復活をすることはない。 

 『近づいたら離れる』──魔術式にこの単純な命令0→1を繰り返させ、固定するために、トネリッコの杖を木製の棺に突き刺した。

 

 これで封印完了だ。


(まずひとり)


 アーカムはすぐさまもう一本の杖──ジュブウバリでは苦しめられた闇の魔術師ランレイ・フレートンから押収したコトルアの杖を抜き放った。


 女の超能力者は、アーカムが神宮寺を封印したところを見ていた。

 想像を大きく上回る対処のされ方だった。


(こいつ対超能力者戦闘に慣れてるッ! 以前にも超能力者をこうして封印しているな?!)


 焦燥感が女を襲った。

 この世界ににおいて、何者も敵ではなかった。

 銃火器、高度文明の知識、超能力、不老不死──異世界人と地球の超能力者では、まさしく神と人間の関係性だった。


 女はカテゴリー4に至ってはじめて、恐怖を感じた。

 

「舐めるッ、なッ!  死ぬものか、こんなところで終わってたまる、かッ!!」

「あんたはここで終わり。アーカムがあんたを終わらせる」


 アンナは得意げに鼻を鳴らす。


「私たちは、選ばれし者だッ! 神々の末席に名を連ね、100万年の未来まで、この瞳を見通す超越者の権能を与えられ、最後の進化に到達したッ! 貴様らのようなゴミクズとは、命のレベルが、格が、価値が違うんだッ!」


「っ、アンナ! 離れてください!」


 女の生首の瞳がカッと見開かれた。

 腕が宙に浮かび、アンナの首へ掴みかかる。

 

「こっちのセリフ」


 アンナは剣を抜き放ち、たやすく斬り払った。

 壁にぶつかる腕。


 アンナは机の上に綺麗に並べて置いたナイフを手に取り、狙いすまして投擲し、壁にはりつけにしようとする。

 だが、すでにその腕は硬い。

 サイコアーマーによる武装が完了してしまっていた。

 ナイフの刃は、火花を散らし、弾かれる。


(身体をバラバラにしても意識がある個体もいるのか)


 アーカムは険しい顔をする。

 つくづく驚異的な生物進化を遂げた生命体だ──と。


「この、クソカス、どもがァァアッ!」


 女はバラバラにされ、それぞれ磔にされた肉体部位を、サイコキネシスで引き寄せる。

 まずは、頭と胴体をつなげ、下半身を繋げた。

 これだけあれば、最低限は充足したと言えた。

 

 次に腕が女の身体へ飛んでいき、本体にくっつこうとする。

 アーカムの《ウィンダ》が腕を撃ち落とす。

 舌打ちをする女。

 駆ける影。

 女は機敏に反応する。

 しかし、遅い。

 女の顔面を、顎下から剣が突き刺した。

 鋭いひと刺しは、そのまま脳天へと貫通する。

 脳を破壊され、一瞬、視界の映像が停止し、思考がチグハグになる。


「あ、ぁ、ぁ、ば、か、な……わ、たしの、神の盾、が……」

「あなたには気の毒ですが、うちの相棒アンナは一流なんです」


 剣気圧を剣先に集中させ、放たれた天才剣士の刺突は、カテゴリー4の神の盾だろうと突き破ったのだ。


 アーカムはトドメを刺すため《イルト・ウィンダ》を固めて撃った。

 まるで散弾銃のように、面で捉えて、一気に神の盾に負荷をかける。

 剣を抜いて、サッとどくアンナ。

 超能力者の身体を守る神の盾が、ビギィッ! と悲鳴をあげて砕け散った。

 続けて放たれる《イルト・ウィンダ》を固め撃ち。

 無数の穴を空けて、まるでガトリングで蜂の巣にされたかのように、手やら足やらが胴体から離別し、女は砕け散った。


 すかさず駆け寄り、アーカムは封印をはじめる。


 木製の棺を念力をつかって、付近の木材から捻出し、最後にコトルアの杖を突き刺した。


「流石に肉片にすれば、反撃してこれないか」


 アーカムが封印を終えると、酒場にいた客や店主たちがハッとして我に返り「な、なんじゃこりゃあ?!」と惨状に悲鳴をあげた。


 2人はうなづきあい、棺をかつぎ「失礼しましたー」と酒場を出て行った。

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