裏切り者


「座れ、こっちを向け、伊介天成」

「これはなんのつもりだ、神宮寺智久」


 アーカムは冷静な顔つきで問いかえす。


「あれは俺の仲間だ」

「開き直ったか」

「勝手なことを言うんじゃない。あんただって仲間を店中に、広場にだって揃えていただろう」

「仲間? 笑わせるな。我々は神々の円卓ドームズ・ソサエティだ。そのラウンドテーブルのなかに、エイリアンどもの席など存在しない」


 アーカムは目を細める。

 神宮寺の物言いから、なんとなく彼の思想が読み取れたからだ。


「いいか、伊介天成、我々は協力できるはずだ。そのはずだ。だがな、君がエイリアンのメスをはべらせて気持ちよく支配してることで、予期せぬ危険を招くことになるのだ。私はすでに何度も、やつらと戦った。大概は火器があれば対処可能な個体ばかりだが、なかには油断のならない敵が潜んでいる。知っているだろう。やつらは危険だ。我々は協力して対処しなければならない」


 神宮寺はアンナを見やる。


「アレを仲間などと呼ぶな。あれはただのエイリアンだ。いいか、伊介天成、こっちを向け、私の目を見てくれ」

「見てる」

「お互いに腹の探り合いをするのはやめよう。私は、君がまともな思考を持っていて、十分に信頼できる地球の進化人類かを確かめたかっただけなんだ。いいか、私の目を見ろ」

「見てる」

「君もわかるだろう。この世界に足を踏み入れた超能力者ならば、皆、わかるはずだ。我々こそが神だったのだと。選ばれた進化人類なんだと」

「……ああ。気持ちはすごくよくわかる」

「そうだろう。ここでなら人間に支配されずに済む。私たち超能力者は、旧人類よりも優れた存在だった。高次元を理解し、低次元を解脱した。神だ。まさしく、神だったんだよ。なのに、イセカイテック含め、成熟した超巨大多国籍企業どもは我々に首輪をつけた。『災害の子供達』サンズ・オブ・ディザスターが我々を解放する。この新しい世界へ彼らを招くのだ。カテゴリー4の能力者だけでは不足なのだ。我々は神だ。その啓示を得た。イセカイテック社がこの世界へ資本を投入するまえに、我々は我々の世界を盤石に支配し戦争に備えなくてはならない。わかるだろう? 仲間どうしで探り合っている時間などないのだ」


 アーカムは険しい顔をする。


(超能力者たちはイセカイテックと、たもとを分かったのか。そして、異世界をめぐって敵対し、将来的に戦争になる事を想定し、動き始めている。……こいつらの物言いは災害の子供達サンズ・オブ・ディザスターを異世界に召喚しようとしていると受け取れる。可能なのか、こちらから地球にアクセスする事が? もし可能だとしたら、確実に阻止しなければならない。……緒方の言っていた極めて強力な能力を保有する子どもたち……異世界でその力が再覚醒すれば、おそらくカテゴリー8、想像を絶する能力者となり、異世界勢にとって絶望的脅威になってしまう)


「伊介天成、私は君を信用したい。君に神々のラウンドテーブルの一席を譲ってやりたい。それだけの器だ。それほどの英雄だよ、君は。本当だ。伊介天成、君は偉大なる先駆者だ。だから、頼む、信用させてくれ」


 アンナに銃を突きつけていた男が、アーカムの元へやってきて、IT5を渡してくる。


「異世界にいるのは我々だ。我々は勝てる。勝てるんだよ、イセカイテック」

「……ああ。俺もその点に関しては疑っていない。この異世界を正しく利用できれば、エイリアンを十分に動員できれば勝てる。そうだろう?」

「っ、その通りだ! これは神の世界地球の戦いだ。異世界はあくまで舞台装置、チェスをするためのボードにすぎない! そのことを理解してくれたか!」

「ああ。もとより、遊戯盤としか見ていない。あのクソイセカイテックを迎え撃つ。ここをやつらの好きにはさせない」


 アーカムはIT5を受け取り、アンナのもとへ。

 神宮寺はアーカムの冷たい眼差しに、信頼を急速に募らせていく。


(伊介天成! 君はこちら側だ、間違いない、その目、よくわかっている者の目だ!)


 振り返るアーカム。

 神宮寺はうなづく。


「さあ、証明して見せてくれ、君がどこに立っているのか」


 神宮寺の問い。

 それは『神々の円卓』勢or『イセカイテック』勢or『異世界』勢か問うものだ。

 アーカムは銃口をアンナの頭につきつける。

 すでに神宮寺はアーカムが『イセカイテック』勢ではないことを確信している。

 それはアーカムの本心からくる憎悪への信頼だった。


 そして、ここで撃てば、エイリアンに感情移入していないこともまた証明される。

 そうすれば、神宮寺はアーカムを『神々の円卓』の一員として認めるだろう。


 アーカムはすやすや眠るアンナの肩に手を置いた。

 対象に直前に動かれないようにするためだ。

 狙いを定め、そして──


「悪いな、相棒。ちょっと痛いぞ」


 アーカムは引き金をひいた。

 後頭部から頭蓋が砕け、脳漿が飛び散った。

 カウンター席から少女が崩れ落ちた。

 対サイボーグ用の超粒子徹甲弾により、少女の頭部は原型をとどめずに破壊された。


「おお! やはり、君も同じ思想を持ってくれているんだな! 流石は偉大なる先駆者、エイリアンはあくまでエイリアンとして、支配層と被支配層の緊密な交わりの危険性を理解してくれたんだな! 君はともにイセカイテックと戦う同志だ!」


 アーカムは神宮寺の言葉を無視して、倒れているアンナのお腹へさらに3発続けて撃ちこんだ。


 片面の顔だけ残され、瞳を見開いたアンナと目線が合う。

 アーカムはその目をじーっと見つめ……そして、残るすべての弾を腹へと放った。


 カチ、カチ、カチ、カチっ……。

 もう弾は出ないというのに、執拗に引き金をひく。


 神宮寺はその様子に大変嬉しそうにしていた。


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