第7話
☆☆☆
そして翌日。
理穂と2人で学校に登校してくると見たことのない男子生徒たちがB組の前に集まっていた。
「あ、昨日はごめんな」
不意に話しかけられてあたしと理穂は目を見交わせた。
相手は制服をキチッと着ていて、黒縁めがねをかけている。
知り合いだったっけ?
と、同時に首をかしげたときにようやく思い出した。
昨日あたしたちを拉致した金髪男だったのだ。
理解すると同時に「えーっ!?」と、相手を指差す。
よくよく見てみれば、今集まっている全員が昨日いたメンバーなのだ。
だけどみんな黒髪だし、制服も着崩してないし、ピアスもついてないし、タバコだってはみ出してない!
まるで化け物でも見るような視線を送ってしまう。
「俺たちもふもふに触れたことでなんか心が穏やかになったんだよなぁ」
「そうそう! もうトゲトゲしいヤンキーなんて流行らないし、これからは癒しの時代だよなぁ」
そ、そうなの……?
彼らの言っていることはよく理解できなかったけれど、とにかく須賀君のもふもふのおかげで更生したということは理解できた。
昨日の今日でここまで変わるか?
という疑問は置いておいて、須賀君に新たなな伝説が生まれた。
須賀君をもふもふすると、ヤンキーが更生するというそのままの伝説だ。
それは瞬く間に有名になっていき、学校には他校のヤンキーたちまでやってくるようになった。
両親や先生につれられて無理やりやってきたヤンキーたちでも、須賀君に触れるとこぞって真面目な顔つきで帰っていく。
いつしか須賀君は金八スカンクという、あまりパッとしない異名までもらうことになった。
そして、今日……。
全校生徒が集まる体育館のステージの上に、とても小さな須賀君が立っている。
須賀君は猫背をどうにか伸ばして真っ直ぐにし、校長先生と向き合っていた。
あたしには須賀君の緊張感が伝わってきて、握った手に汗が滲んでいる。
「須賀永輝(スガ エイキ)君。あなたは沢山のヤンキーを更生させ、沢山の人々から感謝されました。あなたがいれば日本の未来は明るいでしょう。と、いうことに貢献したことを、ここに表します」
校長先生が須賀君に表彰状を渡す。
須賀君はそれを受け取る前に「校長先生。僕はスカです。須賀と書いて、スカと読みます」と、名前を訂正した。
校長先生は驚いた様子で目を見開き、それから目じりにシワを刻んで微笑んだ。
「これは失礼。須賀永輝君。おめでとう」
須賀君は表彰状をもらうとこちらへ視線を向けた。
そして軽くウインクをすると、体育館内は大きな拍手に包まれたのだった。
☆☆☆
「ついに表彰までされちゃったね」
その日の放課後、須賀君とあたしは一緒に帰っていた。
最近の須賀君はヤンキー更生に忙しくて、こうして一緒に帰るのは久しぶりのことだった。
だから隣を歩いているとなんだかくすぐったい感じがする。
「びっくりしたよ。僕のもふもふが役に立つなんてさ」
須賀君は頬を染めて嬉しそうにしている。
手をつないで歩いていても、なんだか須賀君が遠く感じられてしまって心の中に穴が開いたような感覚があった。
「すごいなぁ須賀君は。あたしなんてなにもできないよ」
須賀君のボディーガードをするなんだなんて意気込んでも結局失敗するし、い
いことなんてなにもない。
それに比べて須賀君はみんなのヒーローで、女子からの人気も高い。
こんなあたしと一緒にいていいのかなって思ってしまう。
「そんなことないよ」
須賀君はそう言うと突然立ち止まった。
「え?」
「美世は僕のことを癒してくれてるじゃん」
「須賀君のことを?」
ジッと見つめられてドキドキしてしまう。
何かを期待して体温が高くなっていくのを感じる。
「そうだよ。僕は毎日美世に癒されてる。だから、みんなを癒すことができるんだ」
「そうなんだ……」
そんな風に言われるとなんだか照れくさい。
あたしも影ながら役に立っていたんだと思える。
「だ、だから、これからもずっと僕の彼女でいてくれる?」
モジモジと照れながら言う須賀君は壊滅的に可愛い。
喧嘩でも、癒しでも、可愛さでも、須賀君に勝てる人なんてきっといない。
あたしの胸はキューンッと切なく悲鳴を上げる。
「もちろんだよ!」
あたしは須賀君の体を抱きしめて答える。
「ちょ、恥ずかしいだろ!?」
「だって可愛いんだも~ん!」
あたしの中で須賀君に勝る男子なんていない。
今までもこれから先もず~っと、須賀君しか勝たん!
END
スカ君しか勝たん! 西羽咲 花月 @katsuki03
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