第5話
☆☆☆
あたしは失敗してしまったんだろうか……。
朝の出来事から須賀君はすっかり不機嫌で、話かけてもあまり返事をしてくれなかった。
昼休憩中にはいつもどおりお弁当に誘ったのだけれど、断られてしまった。
結局、今日は理穂と2人で中庭でお弁当を広げている。
「須賀君も男の子だったんだねぇ」
先にお弁当を食べ終えた理穂がボンヤリと呟く。
「うん、そうだね」
須賀君が可愛いからつい忘れてしまいがちだ。
男子が女子に守られるなんて、きっとプライドが傷ついたに違いない。
あたしたちは須賀君の気持ちをなにも理解してなかったんだ。
落ち込んだとき、不意に影が見えてあたしと理穂は同時に顔を上げた。
見るとそこには今朝の10人の男子たちが立っていたのだ。
ハッと息を飲んで逃げ出そうとするが、後ろにも男子たちがいて取り囲まれてしまっていた。
あたしと理穂は同時に血の気が引いていき、真っ青になる。
「今朝の話だけどよぉ」
金髪が一歩前に踏み出して話しかけてきた。
「お前らが強いかどうか、しっかり見せてもらうことになったから」
口から除く歯の強制器具がギラついている。
「え……っ」
返事をする間もなく、こぶしが飛んでくる。
それはあたしの腹部に命中した。
痛みと同時に目の前がチカチカと光った。
「はっ! やっぱりはったりかよ!」
男子が同じように理穂を殴りつけるのが見えた。
しかしとめることもできず、あたしたちは意識を手放したのだった。
☆☆☆
目を覚ましたとき、あたしと理穂は体をロープで固定され、体育館倉庫の中に転がされていた。
倉庫の中にはさっきの10人と、今まで須賀君が相手にしてきた男子たちの姿もあった。
人数が多くて体育館倉庫の中はすし詰め状態だ。
こんなに大人数で卑怯じゃない!
そう言おうとしたが、ガムテープで口をふさがれていてくぐもった声しか出なかった。
理穂は必死でロープを解こうともがいているが、それもうまくいっていない。
絶体絶命の大ピンチだ!
血の気はとっくに失われていてもう1度気絶してしまってもおかしくない状態。
それでもどうにか意識を保って状況を確認した。
ここは体育館倉庫。
中にいるのは30人くらいの男子生徒と、拘束されているあたしと理穂。
逃げ出せる確立は……え、ゼロじゃない?
冷静になったことで残酷な事実を突きつけられて更にパニックになりそうになる。
どうしよう。
このままじゃあたしも理穂も好き勝手もてあそばれた挙句殺されて、それから海に沈められてしまうんだ!
と、よからぬ想像をして手足をばたつかせたとき、理穂が何かに気がついたように視線を男子たちへ向けた。
それにつられて視線を向けると、奇妙なことに気がついた。
男子たちは一様に扉のほうへ視線を向けているのだ。
あたしたちの目が覚めたことなんて誰も気がついていない。
あれ、どうしたんだろう。
ほら、美女2人はお目覚めですよ?
あなたたち、お楽しみタイムとか、そういうんじゃなくて?
声に出さずに混乱していると、体育館倉庫の扉が左右に開かれた。
両手を極限まで伸ばして少しだけ扉を開き、怒りを体中ににじませてその場に立っていたのは……須賀君だ!
須賀君の小さなシルエットが男子たちの足の隙間から見え隠れしている。
うつむき加減に立っている須賀君からは先ほど感じた怒りが感じられ、足元にはスモークでも立ち上ってきそうな雰囲気だった。
「よぉ、来たか須賀」
金髪が一歩前に踏み出して言った。
「2人を返せ」
須賀君のものとは思えない低い声が聞こえてきた。
それは背筋が凍るほどに冷たく、怒りに満ちた声だ。
その声にひるんだ男子も数人いるみたいだが、今日は人数が桁違いだ。
全員逃げ出す様子はない。
須賀君、お願い逃げて!
そう願っても心の声は届かない。
須賀君の影が揺れて体育館倉庫に入ってきたのがわかった。
男子生徒たちの隙間を歩いて真っ直ぐに近づいてくる。
須賀君の姿が見えた瞬間、あたしは泣きそうになってしまった。
ごめんね須賀君、こんなことになっちゃって。
自分の考えの浅はかさに情けなくなる。
結果的に須賀君に迷惑をかけてしまうことになっているし……。
須賀君はあたしと理穂を見た瞬間大きく目を見開いた。
「お前ら、覚悟はできてんだろうな?」
須賀君の声が震えている。
あたしは慌てて左右に首を降った。
あたしのことはいいから逃げて!
いくら須賀君のおならでもこの人数は無理だよ!
うーうーとうめき声しかもらせないのが歯がゆい。
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