第4話

須賀君は喧嘩が嫌い。



怖いのも嫌い。



平和が大好き!



ということを理穂に伝えたところ「それならボディーガードをしてあげたらどうかな?」と、提案された。



6時間目が終わり、掃除をしている最中のことだった。



「ボディーガード?」



あたしはホウキを持つ手を止めて聞き返す。



「そう! 男子たちもさ、女子を相手にはしないだろうし、美世がずっと須賀君と一緒にいれば絡まれにくくなると思うよ?」



理穂は窓拭きの手を止めずに言う。



「なるほどボディーガードか……」



あたしはあごに指を当てて思案する。



あたしが一緒にいることで邪魔になるかもしれないと思ったことはあるけれど、それが相手をけん制する効果になるとは考えてもいなかった。



ただし、それは女には手を出さないタイプの男に限る。



女にも手を出し、挙句人質にとるような連中がいたらどうしよう。



そんなところまで考えも及ばなかった。



「よし! じゃあさっそく明日から須賀君のボディーカードをするぞ!」



あたしは元気よくこぶしを突き上げて宣言したのだった。


☆☆☆


翌日、勇み足で登校すると校門前に理穂が待っていた。



「美世1人じゃ心もとないから、あたしもボディーガードしてあげるよ」



と心強いことを言われて更にやり気が倍増する。



1年B組の前に来るとここ数日間と同じ光景がそこにあった。



須賀君目当ての男子たちだ。



あたしと理穂は同時に立ち止まり、男子たちを見上げた。



ざっと数えただけで10人くらいいそう。



髪をツンツンに立てていたり、胸ポケットからタバコがはみ出していたり、みんな見るからにヤンキーだ。



一瞬体がすくんでしまいそうになるのをどうにか奮い立たせて男子を睨みつける。



突然睨まれた男子たちは瞬時に眉間にシワを寄せて睨み返してきた。



日常生活の中で睨みなれているような迫力がある。



「なんだお前ら」



男子たちはあたしと理穂を交互に見て言う。



「す、須賀君のボディーガードよ!」



あたしは声をひっくり返しながら答えた。



威圧感もなく、我ながら全然怖くないことがわかった。



でもこれ以上ひるむわけにはいかず、ジッと睨み続けた。



睨みすぎて眉間が痛くなってきた。



「ボディーガードォ?」



途端に男たちは大声を上げて笑い出した。



あたしは理穂を目を見交わせた。



今のは笑うとところじゃないのに、完全にバカにされてしまった。



「す、須賀君が強いことはもう知ってるんでしょう? あんなに小さくてもふもふなのに、3年生のラスボスみたいな生徒だって倒しちゃったんだから! 人は見た目じゃないのよ!」



あたしは威勢よく言ってボクシングの真似事をしてみせた。



あたしの言葉に数人の男子がひるむのがわかった。



「強くなきゃ、ボディーガードなんてしないでしょう?」



理穂が一歩前に踏み出して言う。



その顔は余裕に満ちていた。



あたしは背中に冷や汗をかいているというのに、理穂は本当に涼しい顔をしているから驚きだ。



「それもそうか……」



理穂の一言が聞いたようで、須賀君を待っていた半数の男子たちがこっそりと逃げ出していく。



「あんたたちも逃げなくていいの?」



逃げていく仲間の後ろ姿を指差して言うと、残り5人も小さく舌打ちをして逃げ出した。



その後ろ姿が見えなくなるまで見送って、あたしと理穂はその場でハイタッチをして喜んだ。



「あたしたちでも追い払うことができるじゃん!」



「ほんと! 理穂の演技迫真だったもんね!」



きゃあきゃあと騒いでいると、渦中の須賀君が登校してきた。



嬉しそうに騒いでいるあたしと理穂を見つけて駆け寄ってくる。



「2人ともおはよう。なんだか楽しそうだね?」



須賀君が低い位置から聞いてくる。



「そう! あたしたち、今日から須賀君のボディーガードをすることにしたの!」



理穂が胸を張って答える。



「ボディーガード?」



「うん。須賀君、喧嘩も怖い人も嫌いだって言ってたでしょう? だから、少しでも役立てればいいなって思って」



「僕のため?」



「そんな大層なことじゃないよ」



あたしは照れ笑いを浮かべて答えた。



しかし、須賀君は真剣な表情でこちらを見つめている。



「なんでそんな危ないことするのさ」



「え?」



予想外の言葉にあたしと理穂の顔から笑みが消えた。



須賀君は本気で怒っているようで、目が釣りあがっている。



野生的な怒りの熱量に思わず後ずさりをしてしまう。



「これは僕の問題だ。女の子が出てきちゃいけない」



須賀君はそう言うと、教室に入っていってしまったのだった。

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