第3話

☆☆☆


翌日、いつもどおり学校へ向かうとB組の前に5人の男子生徒が立っていた。



全員見たことのない顔で、ネームを確認すると2年生だとわかった。



しかも人目でヤンキーだとわかる容姿をしている。



金髪だったり、唇にピアスをしていたり、制服をまともに着ている生徒は1人もいない。



あたしは5人から遠ざかるように後方のドアから教室に入った。



「ちょっと、美世!」



教室に入ると同時に理穂が駆け寄ってきた。



その顔は青ざめている。



教室内も普段のざわめきが失われていて静まり返っていた。



「な、何事?」



「あの先輩たち、須賀君に用があるとか言ってずっとあそこで待ってるの!」



小声で言われ、思わず大きな声をあげそうになってしまった。



「須賀君を待ってるってどういうこと?」



「昨日あの3人組を1人でやっつけたでしょう? それが先輩たちの間でも噂になってるみたいなの」



そんな……!



あたしも理穂と同じように血の気が引いていくのを感じた。



いくら須賀君のおならがすごくてもあんな怖そうな人5人も相手にできるとは思えない。



すぐに須賀君に連絡しなきゃ!



そう思ってスマホを取り出したタイミングで、廊下が騒がしくなった。



後ろのドアから出て確認すると、背の低いもふもふが歩いてくるところだった。



須賀君だ!



駆け出そうとする前に須賀君は5人の先輩たちによって囲まれて見えなくなってしまった。



咄嗟に走り出そうとしたあたしの腕を理穂がつかんで引き止める。



「美世、やめときなよ」



「でもっ!」



須賀君は5人に囲まれて廊下を戻っていく。



このままほっとくわけにはいかないのに!



「須賀君がんばって~!」



「絶対に勝って来てね!」



須賀君が強いと思っている女子たちは軽い調子で送り出していく。



「美世が行ったって混乱するだけだよ。先生に言いに行こう!」



理穂にそう言われ、あたしたちは職員室へと急いだのだった。


☆☆☆


職員室からB組へと戻ってきたとき女子たちが何かを取り囲んでキャアキャアと騒いでいた。



まさかと思って女子たちをかき分けて輪の中心を確認してみると、思ったとおり須賀君がいた。



「す、須賀君大丈夫だったの!?」



瞬時に須賀君の体を確認するが、怪我はしていないようだ。



ホッと胸をなでおろすと周囲の女子生徒たちが「5人を秒殺したんだって! すっごいよね須賀君って!」と、頬を赤らめて言った。



5人を秒殺……。



昨日の中庭での出来事を思い出す。



あの3人も須賀君がおならをしてすぐにバタバタと倒れていたっけ。



「僕は平気だよ。心配かけてごめんね」



須賀君が申し訳なさそうに言う。



「ううん。須賀君が悪いわけじゃないもん」



慌ててそう言うが、これで須賀君最強説があっという間に広がってしまったことは言うまでもないのだった。



それからというもの、毎日のように須賀君目当てで1年B組にやってくるヤンキーがいた。



ヤンキーなりたての初心者から、3年生のラスボスのような体格のいい生徒まで様々だ。



しかし須賀君は負けなかった。



呼び出されて教室から出て行っても、次の授業に間に合うように必ず戻ってくる。



そして呼び出した相手が気絶した状態で見つかるのだ。



「僕は最強でもなんでもないのになぁ」



中庭でお弁当を食べながら、須賀君は空を見上げて呟いた。



「勝っていることは事実だからねぇ」



須賀君の必殺技を知っているあたしはなんと言えない。



「僕は喧嘩なんてしたくないんだ。呼び出してくるのは怖い人ばかりだし、殴られると思っておならをして逃げたら、次の日にはもっと怖い人が来るし。どうすればいいんだろう」



「今では無敵で優しいヤンキーって呼ばれてるもんね」



須賀君は困ったように眉を下げてあたしを見た。



「僕はヤンキーなんかじゃないよ。だから嫌いにならないでね?」



困り顔で小首をかしげてそんなことを言われて、嫌いになるなんてありえない。



須賀君最強説が出たって須賀君の可愛さは健在だ。



ズキューンッと見事心臓を打ち抜かれてしまった。



喧嘩上等の鉢巻を巻いて特攻服姿の須賀君を想像する。



それはそれで似合っていて可愛いので、もうなんとも言えなかった。



そんな須賀君が悩んでいるのを見過ごすわけにはいかなかった。



「大丈夫だよ、あたしがついてるから!」



胸をドンッと叩き、その衝撃でむせる。



須賀君は慌ててあたしにお茶を差し出したのだった。

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