第55話 ドキドキ体育祭

いよいよ体育祭当日になった。

日焼け止めを塗り、髪をしっかり結んで準備完了だ。

全校生徒が4つの巨大スタンドに集結する。このスタンド、夏休み期間中の授業日に3日ほどで組み上げられていた。頑丈だが隙間が多いため、練習中何度も下にペットボトルを落としては拾ってもらっていた。

体育祭の恒例行事とも言える入場行進が最初にあるが、全校生徒でやるととんでもないことになるので、実際に行進するのはブロック長をはじめとした各ブロックの応援団一行の15人程、4ブロックで60人くらいの面々だ。

私たちはただスタンドで見ているだけなので終わるまで友人達とお話ししていた。せっかくなら優勝したいね、だとか応援パネル緊張するねと言ってワクワクな気持ちを抑えきれずにいた。

国旗校旗掲揚では、グラウンドからはるか遠くの校舎の屋上に見える掲揚台に向かって国家を口ずさんだ。

校舎が丘の上にあるような感じの学校なので、グラウンドから校舎の1番上はかなり高い位置に見渡せる。おかげで私たち生徒には掲揚台が見えていても、一般観覧者には見えていない。


いよいよ競技が始まった。1年女子のダンスはかなり序盤の3番目にあるので、2つ目の競技が始まる頃には準備に入るようになっていた。

プログラム最初には1年男子が学校独自の伝統の体操を披露する。ラジオ体操を少しひねった感じなので正直見ていて面白いものではないが、懸命に取り組むクラスメイトの姿はカッコよく見えてしまった。

2つ目の競技は100m走だ。基本的に選手競技から溢れた人が出るものだが、体育祭直前に捻挫で走れなくなったクラスメイトの代理で私が出場した。

無論対戦相手は同学年の他ブロックかつ女子生徒だ。私は一切手を抜かずいきなりスパートをかけた。当然のように1着でゴールして後ろを見るとかなりの差がついていて嬉しかった。

涼しい顔でスタンドに戻ると、友人はおろか同学年の女子が誰1人としてスタンドにいなかった。一瞬焦ったが、ダンスの準備をしているのだと思い出してすぐさまスタンド裏に向かう。友人が手招きで呼び寄せ、余裕だったねと笑いながら歓迎してくれた。

外れないように固めに結んだハチマキを、ダンス用にリボン巻にセッティングしてもらってからダンスの順に整列した。

気づいた頃には100m走3年男子の部が終わりに近付いていた。1年の体育の先生が準備の状況を確認しに各スタンド裏を回る。

私はもう準備万端だし、ワクワクしている。


いよいよダンスの時間になった。私たちはスタンド裏からそのまま走ってグラウンドに集合する。

放送が読み上げられた後のダンスリーダーのAre you ready?の掛け声に合わせて、1年女子全員のOKという高い声がグラウンド中に響いた。音楽が鳴ったら走って入場だ。

鳴り始めと同時にコケないように、かつ踊り出しに間に合うように気を付けながらダッシュした。

スタートからいきなりテンポが速いので、ダッシュの際の息切れが治らないまま踊った。体力のある私でもこうなんだ。他の人もそうなっているに違いない。もっともそんな息切れの音なんて聞こえないくらい集中して、かつ楽しみながら踊った。

ダンスの醍醐味といえばやはり位置の移動だ。ずっと同じ場所だと誰が見てもつまらないと思うだろう。

8つの円形になるような配置や、踊りながら風車のように回る配置など、かなりこだわっていた。私たちが完成図を見られないのが何より残念だ。

スタンドのすぐ前で踊っている時に男子達が半分冷やかし、半分応援とそれ以外の感情で声援を送って来ているのはよく聞こえていた。あとで追求してやると思いながら、精一杯の振りを披露した。

最後はグラウンドの真ん中で横並びになり、横文字の曲のタイトルを人文字で表してポージングする。

あとから学校が撮った写真を見せてもらったが、これでもかというくらい綺麗でくっきり読めた。


ダンスはやっぱり楽しいし、私らしい。改めてそう思った。

体育祭はまだまだ終わらない。私たちには真剣勝負がまだまだ残っている。

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