第47話 大事なお話
ようやく夏服を受け取った。季節はもう5月半ばでしっかり暑い。私は受け取ったその日に直ぐに洗濯し、翌日から早くも着用した。
半袖なのはもちろん、白いベストは見た目からかなり涼しくしてくれた。やはりみんな暑かったようで、友人のうち2人も早速夏服に衣替えしていたし、冬らしい紺色だらけだった学校に一気に涼しげな白が増えていった。
そんな中、土曜日を利用して久しぶりにクリニックへ行った。前回と同じ先生が今回も診てくれた。もちろん新しい制服を着て行った。
一度診断が出た後なので問診の内容が大幅に変わり、量も増えていた。より詳しく、普段の心理状態や体の状態、性自認から恋愛まで事細かに答えた。
今回の問診結果もなかなかに驚く内容だった。
あくまで可能性の話だが、今後男性を恋愛対象とする可能性が高いといったことを言われた。確かに私は身も心もすっかり女性だ。そうである以上いつか男性に恋をするのかもしれないと思っていた。
それでも未だに男性として過ごした時間の方が圧倒的に長いので、自分が女性として男性に恋をする様子がなかなか想像できなかったのだ。でも、それが私としての自然な姿なのかもしれない。
私がもし女性に恋をするのなら、いつも過ごしている友人の誰かに既に恋しているに違いない。でも私の中で彼女らは友人であり、同志であり、そして親友だ。
今の私にとっては恋すること以上に価値がある存在なのだ。
2日後の月曜日、この日は朝からあまり気分がよくなかった。2限目が終わる頃だった、急激な腹痛に襲われた。トイレに行っても改善しないし、なんだか突き抜けるような痛みは昼過ぎまで続いた。昼休みの間にクリニックに電話して今日急遽受診することにした。
先生からは異変があればすぐに来てくれと言われていたし、自分でも病気ではないような気がしていた。
学校が終わるとみんなに事情を説明し、学校の最寄り駅から電車で直接クリニックへと向かった。
一通り事情を説明して検査を受けると、結果を見た先生は納得した顔で言ってきた。
私の身体には生理が起き始めたのだ。厳密には男性にも生理なるものはあるのだが、私にはきちんと女性としてのものが起きていた。
今は他の機能が未発達な分で痛みだけだが、成長度次第では高校生のうちに本格化するとのことだった。
女性として過ごしてきたこの数年、私には来ないものなのだろうと思っていたので動揺してしまった。中学の時には痛みをわかってあげられないことで友人と喧嘩にすらなったのである。もちろん、今から投薬で機能を失わせる方法を用いてそれを止めることだってできる。先生にどうするか尋ねられたが答えは決まっていた。
機能が完全になるその日を、私は待つことにした。
確かにどれくらいかかるか検討もつかないが、別に悪いことなんかじゃないのだ。本当の女の子ならみんな経験していることだ。むしろ私のような子にとってはその方がある意味望ましい。せっかく体が心に追いついてきたのに拒絶するなんて勿体ないとすら思えた。
先生もどこかホッとした表情をしていた。
次の日の放課後、みんなが帰ったあとの教室で友人4人にその大事なお話をした。
みんなはやはり驚いていたが、本格化する前に色々教えると言ってくれた。
中学の時の先生の配慮による、性教育を両性とも受けた経験によって少しだけ知識はあった。でも、いざその時が来ればどうすれば良いかなんて検討もつかなかった。
おすすめの道具や辛い時の対処法など、分かりやすく教えてくれた。この時までは知らなかったが、私が普段履いているサニタリースパッツはこのためにある道具だったらしい。
あとは本格化するのを待つだけだね。急にくるから慌てないようにね。最初は分からないと思うから、学校いる時にきたらすぐ言ってね。
そう優しい言葉をかけられて思わず涙が溢れてきた。
私が私になるその日まで、私には彼女たちの力が絶対に必要だ。このジェンダー問題に1人で向き合う必要なんかなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます