70:これから
バニシエルを倒したレイル達は竜に乗って再び半日掛けて王国に戻ると連合軍によって盛大に迎え入れられた。
バニシエルが倒されたと同時に魔物の軍勢はひとつまたひとつと逃げていき、やがて総崩れとなって崩壊していった。
連合軍が警戒する中、竜を少し離れた所に着陸させたレイル達をフラウが迎えて連合軍に伝えると少しの静寂の後に勝ったという事実と生き残ったという安堵に連合軍は世界が震えたのではないかという程の歓声が上がった。
レイル達が傷を癒す為に休んでる間も喜びの声は止まず、迅速に戦後処理が行われるとあちこちで宴が開かれた。
宴は日を追って人が戻る度に大きく賑やかになっていった、元の人の姿に戻ったレイルとセラ達が傷と疲れを癒すと王城の広場でウェルク王とエルメディア皇帝の二人から直々に労いの言葉が与えられ宴は更に盛り上がった。
宴で人々は生まれも、身分も、年齢も問わずただ大きな苦難を全員で乗り越えたのだという事実を喜び合った…。
―――――
「些か疲れたな…」
「ん…」
戦争の立役者とも言えるレイルとセラは少しだけぐったりとした様子で城壁から宴の様子を見る、レイルは寄ってくる人達(女性多め)の対応をしたり赤ら顔の皇帝からわりかし本気の勧誘を受けたり、それを聞いた酔った将軍が取っ組み合いとなったのを仲裁したりなど先程まで宴の渦中にいた。
セラも酔っ払ったフラウの介抱や寄ってくる人達(男性多め)の対応をしていたがレイルに誘われて宴を途中から一緒に脱け出していた。
城壁の上から見ているとシャルはウェルクとグリモア宰相と話しており、ローグは冒険者達と飲み比べをして場を盛り上げていた。
「酔いざましに少し歩くか」
「ん…」
セラと共に城壁の上を歩く、宴の喧騒から少し離れた所まで来ると二人で空を見上げる。
既に日が沈んでから時間が経っており、雲ひとつない夜空には満月が浮かんで星が瞬いていた。
「月を見るのが随分と久しぶりに思えるな…」
「ん、レイルがゼルシドさんと戦った後の時以来…」
「そうだな、あの時はセラに叱られて…」
月を見ながらこれまでの事を話し合う、まだ一年も経っていない筈なのにレイルとセラが出逢ってからの事はこれまでの何よりも濃密でしばらく話していたがぽつりとレイルは呟いた。
「随分と遠くまで来たな…」
レイルの呟きにセラも頷く、宴の最中に二人に浴びせられた称賛の中には自分達が何よりも求めていたものがあった。
レイルこそ並ぶ者なき最強の剣士だと
セラこそ魔術士達の中でも最高の魔術士だと
二人をそう呼ぶ事に多くの人々が肯定の意を示した、言った者はただの良くある称賛に過ぎなかったのかも知れないがそれは二人が手にする為に歩み続けた目標に届いた瞬間でもあった。
「…レイル」
徐にセラがレイルの名を呼ぶ、向き直ると竜の血の影響がなくなって元に戻ったアイスブルーの瞳がレイルを移した。
「ありがとう、貴方のお陰で私はここまで来れた…届くか分からなかった目標に辿り着けた、本当にありがとう」
「…俺もだ、セラがいなかったら、セラが支えてくれなかったら…きっとどこかで力尽きていたと思う、だから…ありがとう」
「…これからどうするの?」
「…そうだな」
セラの問いにレイルはそう言うと右手を持ち上げる、すると手の甲の紋章が輝くと消えていきセラの首に嵌められていた隷属の輪がガチャリと音を立てて外れて地面に落ちた。
「レイル?」
「それがあると
首元に触れながら困惑するセラにレイルは穏やかに、されどはっきりと告白した。
「俺と結婚してくれ」
「!!」
「共に生きよう、これから先に何があろうと俺の隣に…俺の傍にはセラが居て欲しい、だからセラのこれから先の全部を俺にくれ…そうしたら、俺の全てをセラの為に使っても良い」
レイルの言葉にセラは一瞬だけ驚いた表情を浮かべるがすぐに微笑みを浮かべる、月光に照らされた微笑みはレイルの鼓動を一際高鳴らせた。
「分かった、私の全部をレイルにあげる…これから先もずっと、永遠にレイルだけのものになるから…離さないでね?」
セラの答えにレイルはセラを抱き寄せて唇を奪う、セラもそれに応えてレイルの背に手を回した。
満月が照らす中、最強の剣士と最高の魔女は本当の意味で想いをひとつにした…。
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