エピローグ:剣士は語り継がれる


ウェルク王国の辺境の更に奥にある秘境の山、竜が空を飛んでいることが珍しくないそこの一角にぽつんと屋敷が建っている。


「今日はここまでにしておきましょう」


椅子に座った銀髪の女性が膝の上に座る少女に落ち着きのある声で話し掛ける、女性と同じ銀髪を揺らしながら金色の瞳を持つ少女は女性が語り聞かしてくれた本を見ながら呟く。


「やっぱり信じられないなぁ」


「あら、どうして?」


「だってお父さんが世界を脅かした大魔王より強いなんて思えない、竜だって皆大人しい子ばかりだよ?」


少女の言葉に女性は苦笑しながら頭を撫でる、この辺境の更に秘境とも言える場所で出来る限り色々と教えながら育ててきたがそろそろ王都に連れて行って外の世界を教えるべきかと考えていると少女が窓の外を示した。


窓の外には少女と同じ髪を持った少年と鈍色の髪をした男性が丸くなった竜に寄りかかって眠っており、先程まで稽古していたのか少年は木剣を抱えたまま寝息をつき、男性も似た様な格好で眠っていた。


「あんなお父さんが大魔王を倒したなんて思えないもん」


「ふふ…そういう事言ったら駄目よ」


少女の容赦ない言葉に思わず笑いを零してしまいながらも窘める、バニシエルが起こした戦争は後に“降魔大戦”と呼ばれ、バニシエルは最も世界を脅かした大魔王バニスとして語られている。


天使が全ての発端だと明かされれば正教への不信となって民の精神的不安を懸念された結果、バニシエルは大魔王バニスとして扱われる事となり真実を知る者はごくわずかとなった。


「…そろそろ剣術を教わった方が良いかしらね?そうしたらお父さんの凄さが少し分かるかも知れないわ」


「えー、剣術より魔術が良い、この前お母さんが使ってたあの綺麗な魔術使ってみたい」


「分かったわ、今度教えてあげるからお父さん達を起こしてきてくれる?ご飯にしましょう」


少女は顔をパッと明るくさせると膝から降りるとパタパタと部屋を出ていく、それを暖かい眼と笑みで見送ると女性は読みかけの本を開いたままテーブルに置いて部屋を後にする。


窓から少女の声と一緒に風が入る、窓から吹いた風は開かれた本のページを捲ると最初の前書きのページで止んだ。








“剣聖”“竜殺し”“竜を統べる者”“ウェルク王国の守護者”“勇者”“神剣の担い手”…彼の者を称える言葉や称号は数多くある。


だが筆者はこの本を書くならばなによりも彼を示すこの称号を使いたい。


この本は“最強の剣士”を目指し、そして至った男レイル・エルグランドの道のりを記したものであると…。







『傷心剣士は激情のままに剣を振るう』

~完~

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