68:辿り着いた極致


バニシエルがレーヴァテインを掲げたまま呟く、その刀身は最早焔などという表現すら生ぬるいほどの熱と光を発し、天を衝いて燃え盛りながら未だにそれは高まり続けていた。


「この一撃は今までとは違うよ、旧世界を支えていた世界樹を焼き尽くした葬世の焔そのもの、最強の魔剣と謳われたレーヴァテインに私の全力を注いだ一撃だ…これで君を消し去ってあげよう!」


バニシエルが灼光の柱と見紛うレーヴァテインを降り下ろす、最早大気を焦がす音すら呑み込んで迫るそれは遠くから見たら天を衝く塔が倒れていくかの様に映っただろう。


レイルはクラウソラスを構えながら静かに息を吐く、目の前に迫る滅びの焔から放たれる重圧感プレッシャーも、全身に襲い掛かっている熱も風も置き去りにしてゆっくりとした時間の感覚の中で思考する。


自分では師匠ゼルシドの剣は振るえない。


ゼルシドの剣は全てを失くしたから辿り着いた剣だ、その手に残ったもの…己と剣の境すらなくなるほど振るい続けた果てに至った極致の剣だ。


今のレイルは違う、レイルには手放したくない多くの大切なものがある、それらを失いなくないレイルにはゼルシドの至った極致には辿り着けない。


(だから…)


斬り開く、ゼルシドが至ったものとは別の果てを、力も、技も、想いも、託されたものも、己を構成する全てを手にした剣へと注いでいく。


それがレイルの辿り着いた剣の極致、己の全てを込めた文字通りの全身全霊の…未来を斬り開く一太刀。


「竜剣術奥義『開闢かいびゃく』!!!!!」


「“世界すらヴォーパル焼き焦がす焔レーヴァテイン”!!!!!」


最強の神剣と魔剣の究極の一撃がぶつかり合った衝撃が世界に響き渡った。









―――――



光の刃と焔の刃がぶつかって鍔迫り合う、互いに力を緩めたら一瞬で消滅するのではないかという程の力の衝突は並の人間では一瞬で焼け死ぬほどの熱を撒き散らしていた。


「認めるよレイル!君は私の焔と同じだけの力を手にした事を!」


バニシエルがレーヴァテインを握り締めながら叫ぶ、翼や全身から湧き出す焔はレーヴァテインへと吸い込まれていきその刃を猛らせた。


「だが!私は成さねばならぬ事がある!私の意志はこの世界にいる全ての人族の為にある!いわば世界を憂うものだ!私が人を導かなければこの世界は過ちを繰り返し続ける!私が正しい世界を築く為にも負ける訳にはいかないのだ!!!」


「…ふざけるな」


バニシエルの言葉にレイルは静かに呟く、溢れるほどに漲る生命力を魔力に変換してクラウソラスに注ぎ込みながらレイルは言葉を紡ぐ。


「バニシエル、お前の言う世界は誰かの大切な何かが犠牲となった世界だ…大切なものが傷つき、汚され、失われた人達を意図的に生み出す世界だ!そんな世界を!奪われる事が前提となった世界など認められるか!!!」


レイルが金色の眼をバニシエルの山吹色の眼に向けながら叫ぶ、ぶつかり合う衝撃は更に激しさを増していく中でバニシエルは口を開いた。


「君の言う事は分かるよレイル、だがこのままでは…」


「…悪いな、今のは半分は建前だ」


バニシエルの言葉を遮ってレイルは呟く、それと同時にレイルの竜の血が限界まで励起されてクラウソラスの輝きが強くなっていく。


「俺がここにいるのは!!」


レイルの頭の中に様々なものが駆け巡っていく、そしてレイルが最強の天使バニシエルに立ち向かう支えとなる者の姿が浮かぶ。


「セラと!俺を愛してくれる女と!俺が愛する女が笑っていられる世界で生きる!!その為にも俺達はお前を超えていく!!!」


レイルの右手の甲が輝く、かつて結んだ契約の証が浮かび上がった。


「主として命ずる!俺の為に命を使え!セラ!!!」


レイルが叫ぶと同時にバニシエルの背中に衝撃が襲う、バニシエルが眼を向けると後ろには“氷獄王サタン”を発動させ放つセラが杖をバニシエルの背に向けていた。


その眼はセラ本来のアイスブルーではなくレイルと同じ金色の眼となっており、その肌にはうっすらと鱗が浮かび上がっていた。


(まさか!?あの時血を与えていたのはこの為か!?)


レイルがセラに血を与えたのは逃がす為じゃなかった、バニシエルが全てをレイルに向けた時に生まれる隙の為に与えていたのだと気付く。


(今レイルと拮抗している状態で私の炎熱ちからを奪われたら…!!)


バニシエルの全身から溢れ出していた焔がセラが放つ冷気によって抑制される、その直後にクラウソラスの刃がレーヴァテインへと喰い込み刃に罅が入っていく。


そしてレーヴァテインが砕かれ、クラウソラスの刃はバニシエルを斬り裂いた…。

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