11:国盗り(アスタルツside)


魔物の第四波の侵攻と同時に戦っていた騎士団と冒険者達と入れ替わる様にしてアスタルツ王率いる軍が迎え射つ。


連戦によって疲弊していた騎士団と冒険者達は使い魔の伝令を受けて後方に下がると一列に並んだ民兵達が一斉に長槍を突き出した。


槍衾やりぶすまとなったそこに魔物の群れが衝突する、先頭にいた魔物達は槍に貫かれ更に後ろから押される形で槍が肉体を抉った。


それと同時に防壁の上に配備された兵達が弓を一斉に引き絞って矢を放つ、矢の雨は群れの中腹に降り注いでその動きを鈍らせる。


長槍部隊の後ろから兵達が魔物達に斬り込む、後方に下がった者達の中で魔力に余裕のある者達が魔術で後続の魔物達を攻撃しながら支援する。


勢いを削がれた魔物達も個々で暴れるがそれでも兵達の勢いと士気を削げるほどのものではなくやがて第四波の魔物達は全体的に見れば小規模な被害で倒された。


兵達を防壁付近にまで下がらせたアスタルツ王は将軍達と合流して布陣し直した、包囲している魔物達が一斉に侵攻してきた時に備えて防壁の一角に集まり防壁の上に配備した弓兵と魔術士によって徹底抗戦の形が取られた。


だが魔物達の群れは動かない、布陣が終わり周囲には魔物達の死臭が風に乗って届いているにも関わらず魔物達はぴたりとして動かなかった。


(どういう事だ?間隔的にはもう次の侵攻が始まっている筈だが…)


「あ、あぁ…」


アスタルツ王は陣の後方から動かない魔物達をいぶかしむ、だがその思考は隣にいた魔術士の声に遮られた。


その魔術士は探知などに優れた資質と術を持っていた、マイラの魔眼ほどではないが魔力を探知などによって魔物の奇襲や暗殺者の発見などを任されていた護衛の一人だった。


「どうした!?」


アスタルツ王の問いかけに魔術士は呆然と指を空に向ける、アスタルツ王は指が差す方に視線を向け周囲にいた者達も空を見上げた。


それはこちらに向かって飛んでくる影だった、アスタルツ王は飛行型の魔物が襲撃してきたかと身構えたが影はひとつしかない。


だがその影が近づきその姿が鮮明になるにつれアスタルツ王はそれを信じれない…否、信じたくなかった。


影は侵攻してきた中でも一際巨大な体躯をしていた、その体躯を包み込めるほど大きい翼を拡げてそれは地面に土煙を上げて着地する。


冠の様に並んだ角、黒鉄の如く重厚で硬質な鱗、更には10mを優に超えるであろう巨体を揺らしてそれはアスタルツ軍を弊倪する。


ドラゴン…それも翼を持つ上位個体だと!?」


目の前に現れた魔物に頂点に立つ存在がアスタルツ王の口から語られる、その直後に魔力を伴った咆哮が黒竜の口から周囲に轟いた。







―――――


「がふ、ぬぅ…」


剣を杖にしてアスタルツ王はなんとか立ち上がる、その周囲は凄惨な有り様だった。


黒竜の尻尾や巨体によって兵達は蹴散らされ、防壁はブレスによって穿たれ防壁の上にいた者達は黒竜が行使した魔術によって防壁と共に粉砕された。


唯一黒竜に善戦していた黄金級冒険者もやがて共に戦っていた者ごとその顎によって噛み砕かれていた。


古竜エンシェントドラゴンが…まだ存在していたとは…」


アスタルツ王の呟きと共に黒竜が上半身だけになった黄金級冒険者を喰らう、何度も咀嚼して鎧ごと噛み砕くと息を吐いた。


「つまらぬ」


吐き捨てられた言葉にアスタルツ王と周囲にいた生き残りが呆然とする、黒竜が人語を話した事にも驚いたがその内容に愕然とした。


「多少はマシなのは居たがかつて相対した者とは比べ者にもならん、勇壮なる者が集まると聞いていたが…この程度ではな」


黒竜が翼を拡げる、そしてとある山を見据えるとアスタルツ王達を一瞥する事もなく飛び上がった。


「今世には期待出来んな、眠気覚ましにもならん」


その言葉と共に黒竜は飛び立つ、周囲にいた者達は唖然としていたが絶望を形にしたかの様な存在がいなくなった事に遅まきながらも理解する。


「やれやれ、彼にとってはこのアスタルツすらあの扱いか」


突然どこか場違いな声音が響き渡る、気を取り直したアスタルツ王の前には純白のローブを纏った青年が立っていた。


「…貴様は何者だ?」


「ふふ、敗けたとは言え一国の王には礼を尽くさないとね…私はバニス、バニス教団の教祖にして開祖、そして君達からすれば魔物達を率いる侵略者という訳だ」


その言葉に周囲が色めき立つ、バニス教団の存在は多くに知られて日が浅いがアスタルツ王と側近達はその危険性を何より知っている上に今しがたバニスが放った言葉に周囲は怒りを昂らせた。


目の前に自分達を脅かした元凶がいる。


その事実に一人の騎士が背後から騎獣を生み出して駆けるとバニスに向けて槍を突き出した。


「貴様がぁぁ――――――――――

っ!!!」


憤怒と共に槍がバニスの頭を狙って放たれる、音を立てて大気を貫く槍をバニスは首を捻ってかわすと同時に掴むと騎士はそのまま引き摺り落とされた。


「良い憤怒だ」


その言葉と共にいつの間にか手に握られていた紅い短剣を騎士に振り下ろす、短剣は鎧を貫いて突き刺さり苦悶の声と共に騎士の姿が変容していく。


変容が治まるとそこには青白い肌に血管にも皹にも見える様な紋様が浮かび上がり、頭に山羊の様な角が生えた魔人がいた。


「さて、君達に選択肢を与えようか」


魔人を手で制して動きを止めたバニスはアスタルツ王を向き直ると指を立てた。


「ひとつはバニス教団に帰依し新たな道を歩むか、もうひとつは今ここで私や魔物達と戦い死ぬか…好きな方を選ぶと良い」


言い終えた瞬間バニスから一瞬で魔力が噴き出す、先程の黒竜に勝るとも劣らない圧にアスタルツ王達は息を呑んだ。


だがアスタルツ王は深く息を吸うと列帛の声と共に剣を振り下ろす、バニスはそれを後ろに飛んでかわした。


「後者を選ぶ、という事かな?君の眼なら私がどんな存在か分かっているだろう?」


「分かっているとも、今この眼で見ているものが未だ信じられん…だがそれがどうしたと言うのだ」


アスタルツ王は再び剣を構える、そして先程まで残っていた恐怖を自らを鼓舞して吹き飛ばした。


「何者であろうと我等に仇なす存在に我は、アスタルツは屈したりなどせぬ!覚えておくがいいバニスとやら!貴様がどれだけ力を持とうと我等が魂を従える事は出来ぬ!!!」


その啖呵に周囲の兵達も折れかけてた心を持ち直して武器を取る、そして怒号と共にバニスに迫った。


「やはり素晴らしいね、人というのは…」


バニスの口角が少しだけ上がった…。







―――――


「やりすぎてしまったかな」


焼け野原と化した大地でバニスは呻く、周囲には人型の炭が散乱しており生者はバニスのみであった。


「まあ人は二の次だ、今回は城…国盗りが目的だからね」


バニスは崩れた防壁から中を見通す、城下から城まで見たバニスは口角を上げて呟いた。


「国盗りの次は、国造りだ」

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