12:護衛
「私とマイラが生きているのは民と近衛騎士、そして父上が自らの命を引き換えにしてくれたからだ」
パンデラムで見聞きしたものをイデアルは語り終える、それはまるで四十年前の戦争を彷彿とさせる話だった。
「包囲を抜けた後も魔物達に追われ近衛騎士達もキリムだけとなってしまった、行く先々の村は壊滅させられていてもはやここまでかと言う時にレイル殿達に助けられたという訳だ」
「そうだったのですか…」
想定を越えた事態となっていた事に思わず言葉を失う、するとマイラが体を少しだけ傾かせたがすぐに姿勢を正したのを見て提案する。
「…ひとまず休息を取りませんか?話を聞く限りですと休む間もなかった様ですし今は魔物の襲撃があっても俺達で対処できますから」
「…心遣い痛み入る」
その後レイル達は明日の朝一番にウェルク王国に向かう事を決めると町の宿や店から食糧や物資を拝借して一夜を明かす。
互いに身を寄せ合って眠る兄妹にレイルとセラは必ず守ってみせると誓い合った。
―――――
一夜明けてレイル達は出発の準備を進める、馬車も所々が破損していたが昨日の内にある程度の補修はしていたのでとりあえずの問題はなかった。
「“我が身に宿る火よ、千里を駆ける蹄となれ、
キリムが詠唱すると体が炎で構成された馬が現れる、嘶きと共に火を吹く姿は迫力があった。
「これがアスタルツに伝わる魔術…」
「うむ、騎士団に所属している者にのみ伝わるものだ」
レイルが見入っているとセラが袖を引く、するとキリムが確認する様に聞いてきた。
「本当に良いのか?戦闘を君達任せにして」
「あぁ、この魔術を維持しながら戦ってもらうよりは役割分担して早く山を越えてしまった方が良い」
「…分かった、道中よろしく頼む」
キリムが馬に跨がると手綱を引いて馬を走らせる、馬車の上に乗ったレイルは山に入ると感覚強化をして探知に集中する。
「セラ、12時の方向から群れが来る」
「ん、分かった」
レイルが魔物のいる方向を示すとセラが魔術を発動して先制する、仕留め切れずに馬車まで来た魔物はレイルが直接斬り捨てていった。
魔物を倒すには馬車から降りなければならないが即座に斬り捨てては走る馬車に再び跳び乗るのは今のレイルには難しい事ではなかった。
「これが黄金級冒険者か…」
キリムがぼそりと呟きながらも馬車を走らせる、普通であれば魔物の襲撃の度に足止めを喰らっていた筈だがレイルが事前に襲撃を察知してセラが魔術による先制する事で走り続ける事が出来る。
山岳地帯を越えるのに時間が掛かるのはこの襲撃の対処しなければならないというのがあるがそれを二人だけで解決しているのだ。
「…?」
「どうしたの?」
しばらくして馬車の上に乗ったレイルが首を傾げる、それに気付いたセラが問い掛けた。
「何故かは分からないが魔物が離れていく」
「魔物が?」
山の中腹を過ぎた辺りから魔物の気配が離れていく、それをいぶかしんでいたレイルの耳にある音が届いた。
強化された聴覚が拾った音の正体がレイルには最初分からなかった、だがその音は徐々にレイル達に近づき大きくなっていく。
そして気付く、その音は地上からではなく空から何かで空を切り裂く様に響いている事に。
「馬車を止めてくれ!」
「何?」
「急げ!気付かれる!」
「見つけたぞ」
上空から体が震える様な声が降り注ぐ、それにレイルもセラにキリム、そして馬車にいたイデアル達も空を見上げた。
空には翼を拡げた黒竜が金色の眼をレイル達に向けて見下ろしていた…。
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