8:王子と王女


「王子とは知らず失礼しました」


我に帰ったレイルはその場で跪こうとするがイデアル自身がその動きを制する。


「構わぬ、それよりもこちらの状況を話すのと馬車にいる妹の為にも落ち着ける所で話したい」


そう言われてレイル達は宿場町へと戻る、町の有り様を見たイデアルは沈痛な表情を浮かべるが首を振ると町に入り冒険者ギルドへと向かった。


「マイラ、出てきてくれ」


ギルドの前に着くとイデアルが馬車の戸を軽く叩きながら語り掛ける、少しして戸がゆっくりと開いてイデアルよりもひとつふたつほど幼い少女が姿を現した。


イデアルと同じ金色の髪を後ろで一纏めにしており動きやすくはあるが装飾が施された装束を華奢な身体に纏っていた。


馬車から降りたマイラは水晶の様な瞳でゆっくりと周囲を見渡しレイルを見ると「ひっ」という短い悲鳴をあげてイデアルの後ろに隠れてしまった。


「マイラ、彼は私達の命の恩人だぞ」


「で、ですが兄様、その人は…」


イデアルの背中越しからマイラは水晶の様な瞳をレイルに向ける、見つめていると吸い込まれそうな不思議な光を灯す瞳にレイルを映しながら言葉を紡いだ。


「竜が…荒々しき竜の魂が傍にいます、その人はバニス教団に関わる者かも知れません」








―――――


「マイラの眼は特異体質だ」


あの後レイルの身の上などを話したりしてとりあえずは中で話す事になった一同はがらりとしたギルドのホールでテーブルとイスを見つけて対面する形で座っていた。


騎士であるキリムはイデアルの後ろに控えておりなにかあればすぐにでも動ける様にしていた。


「特異体質?」


「我等の一族特有のものだ、効力は発現した者によって様々だがマイラの眼は魂を見通す事が出来る」


「…魔眼、特異体質の中でも更に希少で強力なものだって先生が言ってた」


(なるほど、ならばその娘が我を捉えられたというのにも納得が行く)


剣ごしにエルグランドの声が響く、それが響いた瞬間マイラがびくりと体を震わせるがイデアルが頭を撫でて落ち着かせるとレイルに向き直る。


「レイル殿、失礼を承知の上で聞かせてもらう、貴殿はバニス教団の手の者か?」


「違います」


毅然とした態度で答える、エルグランドが剣をカタカタと鳴らして僅かな怒りを伝えてくるのを抑えながらレイルはイデアルを見返した。


イデアルはちらりとマイラを見る、マイラは恐る恐ると言った様子でレイルを見つめると僅かに頷いた。


「…嘘が分かるのですか?」


一部始終を見ていたセラがぽつりと呟く、イデアルは顔色を変えずに頷くと話し始めた。


「マイラ曰く嘘をつくと魂が一際のだそうだ、結果的に試す様な真似をして重ねて申し訳ない」


「いえ、信用してもらえたならば構いません」


お互いにどことなく張りつめていた空気が僅かに緩む、そこでレイルは抱いていた疑問を口にした。


「それでなのですが…何故王子と王女が魔物に追われていたのですか?護衛の騎士もそちらの方だけの様ですが」


「…護衛はいたのだ、今はキリムだけとなってしまったが」


イデアルは表情に影を落とすと少しの間だけ俯く、そして意を決した様に顔を上げた。


「アスタルツの首都パンデラムが襲撃された、バニス教団が率いた魔物の軍勢によってな」


「「っ!?」」


「我等は父王の計らいによって包囲される寸前でパンデラムを脱出しここまで逃げられたが、おそらく首都はもう堕とされているだろう…」


語られた言葉には色濃い悲しみと絶望が滲んでいた…。

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