57:師匠と弟子
爆風が治まった空間をレイルは這う様にして進む、爆発によって巨人の心臓は抉れており明滅は今にも消えてしまいそうなほど弱まっていた。
剣を杖にして魔物の死骸を越えて進んでいく、そしてようやく爆発によって吹き飛ばされたゼルシドの下へと辿り着いた。
酷い有り様だった、全身に裂傷が出来ており皮膚どころか筋肉の一部すら剥き出しとなって血が流れ出ていない箇所がないのではないかというほど血塗れで四肢が繋がってるのが奇跡的だった。
「が…くふっ…」
「師匠!」
だがそれでもゼルシドは生きていた、転がり落ちる様にして傍まで行くとアイテムポーチからポーションを取り出して飲ませようとするが。
「やめ…ろ…」
ゼルシドがそれを止める、そして血を吐きながらも起きようとして身動いだので慌てて背に腕を回して支える。
「今は、ダインスレイヴの力で保ってる状態だ…そいつももうすぐ切れるがな…」
「そんな…」
「元々歪んで繋がってた命だ…こればっかりは、仕方ねえ…だから、お前に、伝えて…おく」
眼に涙を溜めながらも頷くレイルを見たゼルシドは咳き込んで血反吐を出すとゆっくりと語り出した。
「フリック達には、別に恨んじゃいねえって…伝えとけ…それと、お前の親父を殺しちまって、すまなかった…てな」
「…はい」
「バニス教団は、バニス一人で成り立ってる…あいつにとっては奇跡だろうが駒のひとつに過ぎねえ…目的は分からねえが40年前の戦いも俺を奇跡にしたのも、あいつには実験のひとつでしかねぇ…」
「…実験?」
その為にゼルシド達は戦わされた、その為にゼルシドは40年も戦い苦しみ続けなければならなかった。
「ムカつく話だ…俺達は、あいつの思いつきの為に…こんな目に合わなきゃ、ならなったんだからな…」
「…」
「レイル、お前には…感情に呑まれるなって、教えたが…人間は、そんな事が出来るほど、器用じゃねぇ…」
「え?」
「出来る訳ねえだろ…あいつ等の、武器作りや、実験に為に…利用されて、こんな風に終わらされて…怒るななんてよ…」
ゼルシドの血塗れの手がレイルの肩を掴む、その瞳には堪えようのないほどの憤怒が籠っていた。
「だから…ぶつけてやれ、怒りも…願いも…なにもかもひっくるめて、バニスの目的ごと…ぶっとばしてこい!」
肩に置かれた手に力が入る、その手に自らの手を重ねながらレイルは答えた。
「必ず…やってみせます、俺のも…師匠のも全部ひっくるめて叩きつけてやります!」
レイルの答えを聞いたゼルシドは再び咳き込むと顔を俯かせる、だが口の端を上げて再びレイルを見た。
「最後に…ひとつ…」
そう言って肩から手が離れる、手は震えながらも少しずつ上がっていくとレイルの頭の上に置かれてくしゃりと撫でられた。
「強く…なったな…」
それはレイルが稽古をつけられていた時、良くしてもらった事で…。
「ろくな、人生じゃ…なかったが…」
その声は誰よりも自分を認めてくれた時と同じ声で…。
「お前が弟子で…良かった…」
レイルの記憶と寸分違わぬ笑顔を浮かべてゼルシドは瞼を閉じる、頭を撫でていた手は力を失って落ちた。
「師匠…」
心なしか重くなったゼルシドを抱えながらレイルは涙を流す、もはや抑える事は出来ず嗚咽と共に溢れ出てきた。
レイルの慟哭が響き渡る、それは限界を迎えた体が止めるまで響き続けた…。
―――――
壁が白く染まっていき、砕き穿ちながらセラが姿を現す、即座に魔力を眼に集中させて周囲を見渡すとゼルシドを抱えながら座り込むレイルを見つける。
「レイル!」
急いで傍まで行き傷の具合等を確かめる、酷い状態ではあるがまだ生きている事を確認して安堵する。
だがその直後に床が揺れ始める、それは次第に強まっていきセラに嫌な予想を思い浮かばせた。
「これって…」
「セラー!!」
どこからともなく声が響いてくる、見れば裂かれた壁の向こうからフラウがこちらに向かって飛んできていた。
「先生!」
「急いで逃げるわよ!ウクブ・カキシュが崩壊を始めてる!」
フラウの言葉にセラはいち早くレイルを抱えようとする、だが気を失っていながらもレイルはゼルシドを離す事はなかった。
「ああもう!?セラ!私の
セラの手を掴んだフラウは“
その直後に先ほどまでいた空間の天井が崩れ落ちる、そこを皮切りにウクブ・カキシュの巨体は崩壊を始め、まるで砂の城の様に崩れ落ちて大地へと還っていった…。
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