56:救済の終わり
一閃。
それはただあらゆる無駄が削ぎ落とされた一閃だった、構えてから一切の魔力どころか殺気さえ感じられなかった状態から火山の噴火の様に莫大な力が一切の無駄なく振るわれた剣から放たれた。
迫っていた魔物の波が真っ二つになる、まるで一枚の絵を切るかの様に斬撃は魔物達を越えてアステラと巨人の心臓を真一文字に斬り裂くだけにあらず壁であった巨人の肉体を断ち切った。
「が、げふっ…」
腰から真っ二つとなったアステラは斬り裂かれた腰を押さえて繋ごうとするが再生が進まない事に焦りを覚えた。
(体が、再生しない!?まさかこれもあの聖具の力ですか!?)
アステラは口から血を溢しながらも背後に目を配る、斬り裂かれた巨人の心臓は裂かれた箇所からひびが拡がっていき明滅も激しくなっていた。
(っ!マズイ!!)
ウクブ・カキシュは体が大地に触れてる限り大地から魔力を吸収するだけでなく体内にいる存在からも微量ながら魔力を吸収する、通常であれば問題ないが今の心臓は受けたダメージを回復する為にも手当たり次第に吸収を行うだろう。
そして吸収の一番の対象となるのは一番傍にいるアステラになるのは必然だった。
アステラは翼を広げてゼルシドが破壊した壁から逃げようと身を翻す、腰から下は再生を諦めてこの場から逃げる事を優先した。
自らの精神とロンギヌスさえ無事ならば新しい肉体を造り出す事は出来る、なんなら逃げた先で見つけた人間なりなんなりに精神とロンギヌスを移せば良い。
甦らせたウクブ・カキシュを放棄するのは手痛いが自身の命には代えられない、そう判断して飛び立とうとした。
「させるかよ」
「なっ…」
その言葉と共に視界にゼルシドが現れる、アステラが飛び立つ直前に一瞬で距離を詰めたゼルシドがダインスレイヴでアステラごと巨人の心臓を貫いた。
「ぐぎぃっ!?」
巨人の心臓に磔にされる形になったアステラは苦悶の声を上げる、背中に当たる巨人の心臓はアステラの魔力を吸収し始めた。
それによってアステラに全身の血管が引き抜かれる様な激痛が走る、アステラは膨大な数の魂をロンギヌスと自らの魔力によって制御していたが今は肉体のダメージと制御の為に必要な魔力すら奪われてる状態だ。
「ぐっ、ぎゃっ!?ああああああああああ!!?」
魔力を奪われる事で内包していた魂の制御が取れなくなる、ロンギヌスと同化している状態でそうなれば膨大な数の魂が統制を失って暴走する事でアステラの体は内側から筋肉を引き千切られる様な激痛に襲われていた。
「ああああああああっ!?離せ!離しなさい!!」
右腕のロンギヌスの穂先をゼルシドの体に突き立てる、だがゼルシドは柄をより強く握ると更に深く突き立てた。
「魔力が欲しいか?なら貰える様にしてやるよ」
ゼルシドがそう呟くとダインスレイヴが紅く輝く、ドクンと脈が高鳴る様な感覚が走る。
「“争い、荒れ狂え、
ゼルシドの叫びに呼応するかの様にダインスレイヴが輝くとロンギヌスが突如アステラの意思を無視して背後の巨人の心臓に突き刺さると巨人の膨大な魔力を吸収し始めた。
「ぐぶぅっ!?」
ウクブ・カキシュの魔力は言うならば巨大な海の如き量だ、魔物を生み出す時さえ少しでも制御を誤ればその膨大な魔力にアステラ自身が耐えきれず体が崩壊していただろう。
それが今ゼルシドによって意図的に起こされていた。
ダインスレイヴは“不死”“不癒”“暴走”の呪いが宿る魔剣だ、そして今“暴走”の呪いによってアステラのロンギヌスの力が暴走を起こし巨人の心臓から魔力を奪っていた。
そして巨人の魔力はアステラと心臓に触れているゼルシドにも及んでいる。
「こ、このままでは貴方も死ぬんですよ!?今すぐ離れ…」
「だがてめえは確実に殺せるだろうが」
魔力が際限なくアステラを中心に注がれていく、もはやアステラは全身から血を吹き出し至る所が今にも破裂するのではないかというほど膨れ上がっていた。
ゼルシドは暴れるアステラを縫いつけるダインスレイヴをより深く押し込んでいく、巨人の魔力はゼルシドにも流れ込んでおりぼろぼろになった体の崩壊を加速度的に早めていた。
「ごっ、ぼぉ…し、死ぬ、のが…怖く、な…ですかぁ!?」
「なんだてめえ、そんな事も分かんねえのか」
爆発する寸前とでもなったアステラが叫ぶ、それに対してゼルシドは鼻で笑うと後ろに目を向ける。
ゼルシドの眼にレイルが映る、満身創痍の体を引き摺って越えて自分の下に来ようとするただ一人の弟子に笑みを浮かべて向き直った。
「師匠っていうのはな…死ぬ時だって弟子の前でカッコつけるのが仕事なんだよ!」
恐怖に顔を染めたアステラの体が爆発し、ロンギヌスの穂先が空中で砕け散った…。
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