58:決意
戦いから一週間後…。
神話の存在であるウクブ・カキシュの復活は様々な影響を及ぼしていた、まず魔境にあるダンジョンが総じて活動が鎮まっていた。
ウクブ・カキシュが大地を通して魔力を吸収した影響でダンジョンの活動が鎮まるのは平時であればダンジョンから獲られる素材や資源が減る事を意味するが今回の戦いで大半の冒険者が休まざるを得なくなった等の事情もあり、ダンジョンの魔物を倒す必要が減ったのは結果的に都合が良いとも言えた。
そして国ではついにバニス教団の存在が公開された、といっても民に公開されたのは全てではなく王都での襲撃やウクブ・カキシュの復活などもはや隠蔽が出来ないものに教団が関わっているという事だけだった。
バニス教団という脅威を知った民の不安を取り除く為にもウェルク王国はエルメディアを初めとした国同士で対応する事、そして五英傑であるライブスとフラウが手を尽くすと発表した。
まだかつての大戦を知る者達が多い中で大戦を終結に導いた二人の名の効果は絶大であり当初想定されていた混乱は起きなかった。
その後も国は総出を上げて事後処理やこれからを想定して他国との連絡や協力を行っていた、その中にはバニス教団と戦いに貢献した者達がより活動しやすくする為に他国でも通じる身分が必要だとされた。
バニス教団との戦いに置ける功労者、レイルとセラに黄金級冒険者への昇格が伝えられたのはレイルの傷が癒えて目を覚ました後だった…。
―――――
王城の一角、王族と限られた者しか入る事を許されない王族の墓地にレイルはいた。
代々ウェルク王国を支えてきた祖霊が祀られる墓地の中を進んでいき、やがてそこへと辿り着く。
“五英傑にして
ゼルシド・アーレウス
此処に眠る”
剣を模した墓石にはそう刻まれていた…。
レイルは静かに膝をついて手を組む、ゼルシドはウェルク王の意向もあり王族の墓地で葬られていた。
傷を癒して目を覚ましたレイルはウェルク王に自身が見聞きした事とゼルシドから頼まれていた言伝を伝えた、ウェルク王はそれを聞くと皺が刻まれた顔を手で覆って静かに涙を流した。
全てを話し終えたレイルはゼルシドの亡骸がどうなったかを聞き、ウェルク王からこの墓地に葬られた事とこの墓地への入る許可を与えられた事でこうして足を運んでいた。
「レイル…」
ふと背中から声を掛けられる振り向くと細長い包みを持ったセラがすぐ傍まで来ていた。
「どうした?」
「…これ、先生が調べ終わったからどうするかはレイルに任せるって」
「…これは」
セラはそう言って包みを渡してくる、包みをほどくと中から黒い柄が現れ、続けて黒い刀身をした
ダインスレイヴを目の前で掲げる、黒い刀身が墓地に差し込む光を反射して鈍く輝くのを見ながら腰の剣に手を添えた。
「…エルグランド、これは破壊した方が良いのか?」
(…それが宿していた歪みはもうない、そしてそれは機能を停止している、奴等の手に渡らぬならば破壊する必要はないだろう)
「…ありがとう」
剣を通して語られた言葉に無意識に感謝を告げるとアイテムポーチから予備の鞘を取り出して着ける、そしてダインスレイヴを納めて墓へと向き直った。
「師匠、色々と言いたい事や伝えたい事はあります…でも師匠なら後にしろって言うでしょうから、そういうのはとりあえず全部片付けてからにします…。」
だから、とレイルは涙を堪えてから顔を上げると決意を新たにする、ゼルシドがレイルに望んだのは自分の死に悲しみ踞る事じゃないと分かっているからだ。
「ありがとうございました、行ってきます」
それだけ言い残して踵を返す、そしてずっと待ってくれていたセラを促して墓地を後にする。
腰に差した白と黒の剣がレイルの決意を示す様に輝いた…。
※次回投稿は1/4からになります、良ければこれからも拙作にお付き合い頂けると幸いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます